本紹介 研究書2へ

2.2章 研究者本 参

[中国史研究成果書]
通史の一部

魏晋南北朝通史 内編
岡崎文夫東洋文庫
 1989年文庫化。政治史を中心に魏晋南北朝を描いた好著です。古い本であり読みにくいですが、魏晋南北朝の政治史を概観し、正史を読む代わりに出来る貴重な本です。

隋唐帝国五代史
岡崎文夫 川合安/補訂 他東洋文庫
 1995年文庫化。戦後暫くして書かれた本のようですが,その内容は驚くほど色あせていません。政治史が主になっていますが,かなりこまかくて唐,五代について結構詳しく知ることが出来ます。あまりこの時代は詳しく書いてくれる手軽な本がないだけに貴重です。
 内容的にも古い時代の本とは思えません。

モンゴル帝国の興亡(上・下)
杉山正明講談社現代新書
 1996年刊。私みたいな漢民族至上主義中華思想保持者がモンゴル時代を差別するすることを強く戒めるための警鐘本(っておいおい^^;;)。
 従来の東洋史学における見解ではなく「公正な」見方でモンゴル史を概観しようとした本です。従来のモンゴル史への扱いにどのような問題があったのか、世の中に流布しているモンゴル史に対する偏見がどれほど間違っているのか、などなど著者の鋭い指摘が散りばめられ、従来の研究者などに喧嘩を売っているような感じです(^^)。研究書の醍醐味というのがそれまでの歴史観を覆すことにあるのなら、まさしくまさしく本書ではその醍醐味を味わうことができるでしょう。モンゴル史への入門書としていいのかもしれませんね。
 Micky様と
関根様から教えていただきました。
 私の勝手な感想はここ

清朝史通論
内藤湖南東洋文庫
 1993年刊。内藤湖南は所謂、京都学派の基礎を作った有名な学者ですが、彼はもともとジャーナリストでありました。本書は1911年(辛亥革命の直前!)、1915年に行われた公演の内容「清朝衰亡論」「清朝史通論」を記したものです。
 ああ!戦前の日本にも、こんなにも清朝に対して、政治、学術、芸術などの面々から詳細に知っていた(理解していた?)人がいたとは!流石、恐るべし京都学派の「時代区分」を作った人!
 政治の所も勿論面白いですが、それよりもあまり他の通史本では書かれない学術関係のこと、すなわち清朝においてはどんなに様々な学者達が、様々な学問を詳細に研究したかということが書かれてあり、興味深いです。また、講演時が清朝が滅びる直前であったり、革命後の混乱期であることが緊迫感を感じさせ、素晴らしいです。清朝を知ろうとする日本人なら是非読んでおくべき本でありましょう!

中華民国 賢人支配の善政主義
横山宏章中公文庫
 1997年刊。中華民國の成立から台湾逃亡までを描いた概説書。「中国において清代,民国時代,共産党時代と,その賢人支配思想は変わらなかった」というのが著者の主張ですが,私としては,まあその主張には簡単に肯んじえない所があるものの,孫文の思想変遷や中華民國で起こった様々な意見,思想の対立など,中国近代を興味深く概観できます。
 中国近代にも,民主主義思想を含めてこんな豊かな思想の開花があったとは!
 雑想記記述予定。


[中国史研究成果書]
事件・時代描写

『紫禁城史話 中国皇帝政治の檜舞台』
寺田隆信中公新書
 1999年。現在、観光で北京に行く人は必ず訪れる「故宮」すなわち「紫禁城」。紫禁城はフビライが北京に首都「大都」を建設したときに、現在の位置に作ったものが最初ですが、特に紫禁城内の建物の配置などは15世紀初め、明の永樂帝がここを皇帝の宮殿としたときのものが基本構造になっていると言われます。
 そして現在の建物の多くは最後の中華王朝・清朝時代のものです。タイトルの通り、本書では紫禁城で起こった政治史を中心に述べてあります。単なる「清朝政治史概論」という気がしないでもありません(^^;;)。

太平天国
増井經夫岩波新書
 1951年刊。私の読んだ本は旧かな遣いで非常に読みにくかったですが,内容的にはかなり素晴らしかったです。ただし太平天国に関する概説書というよりは,太平天国をある程度知っていて読むべきな本な気もします。
 「太平天国に対する日本人の知識」「李秀成と劉永福」の章などが独自な感じで光っています。なお,文革期に出された太平天国の研究書(日本人著)の緒言に,太平天国について述べた本として本書が真っ先に挙げられていたので,その筋では結構有名な著者なのかも....しれません。
 雑想記記述予定。

中国軍閥の興亡
来新夏/著 岩崎富久男/訳桃源社
 中国人研究者の「北洋軍閥史略」の訳本ですが、かなり古いです。北洋軍閥の成立から北伐までを記述。共産主義的な雰囲気がそれなりに感じられます。
 私の勝手な感想は
ここ

『馬賊 日中戦争史の側面』
渡辺龍策中公新書
 1964年刊。日中戦争前後、中国では各種の「賊」が横行し治安が乱れていたことは、福本氏の「中国革命を駆け抜けたアウトローたち」にも記述してあります。その中で中国東北地方「馬賊」に関して記述した本です。本書では、松本要之助、伊達順之助、尚旭東(小日向白朗)など当時から有名だった日本人馬賊について、日中戦争の進展と絡めながら描いています。
 当時の時代の雰囲気を知る上で良いですが、どうも日本人馬賊の実体、彼らがやりたかったこと、やってきたこと、やらされたこと、というものが掴みにくい感じです。単純な見方をすれば中国の混乱につけ込んで「雄大な大陸で思いっきり暴れ回りたい!」という、当時の日本人の大陸への気持ちを体現したもっとも醜悪な部分とも言える気がするのですが...

『中国革命を駆け抜けたアウトローたち 土匪と流氓の世界』
福本勝清中公新書
 1998年刊。歴史が描かれるとき、得てしてそこでは英雄中心に描かれてしまいます。それはその時代を描くのに分かりやすく、またよく記録が残っているためです。しかしながら英雄がいると同時に、その時代の名も残らない多くの人々の生き様があり、それらの人々全員がが歴史を作っていたことを決して忘れてはならないでしょう。
 本書では辛亥革命後の軍閥割拠の時代、どんなにか中国国内の治安が乱れ、アウトローと呼べる人々が蔓延っていたか、蔓延らざるを得なかったのかを描いています。恐らく本書で描かれる内容は、当時特有の現象ではなく、中国のいわば乱世時代に何回も繰り返された悲劇に違いありません。中国近現代の通史を読んだ後は必ず読んでおくべき本だと思いますが、近現代に興味のあまりない人もやはり読んでおくべき本でしょう。
 うっかりすると「人間が生きるとは何か」ということまで考えてしまう内容であり、ローカルな平和を享受している現代人が知るべき歴史だとも言えます。

『フランス勤工倹学の回想』-中国共産党の一源流-
何長工/著 河田悌一・森時彦/訳岩波新書
 1976年初刊。勤工倹学とは「苦学」するということですが、この語は中国の混迷が深まる五四運動前後に、祖国を救うための新しい思想・知識を求め、フランスを中心とする西欧に留学をした人々を指しています。彼らの中から周恩来、劉少奇、トウ少平などが生まれますが、そのうちの一人である著者の体験記です。
 留学とはいえ、フランスの労働者とともに働き、組合運動に参加した人々であり、最低あるいはそれ以下の生活の為に病気などで亡くなったりした人も多かったようです。その勤工倹学生達の、生々しい、しかし前向きな体験記です。副題の通り現在の中国共産党の一源流であることは間違いありません。
 訳者による詳細な注により、ただの体験記ではなく「フランス勤工倹学史」と言えるような充実した内容になっています。
『中国の赤い星』(上下)
エドガー・スノー著 松岡洋子訳ちくま学芸文庫
 文庫1995年刊。西安事変すなわち対日戦のための第二次国共合作成立直前に、 陝西の共産党支配区域に乗り込み、その全貌を知らしめた著者によるルポタージュです。
 極めて有名な本です。当時は中国共産党の世界に全く知られておらず、「共産党の極悪さ」などの流言飛語が飛び交っていました。その中国共産党の実体を調べようと、中共支配地域に命がけで乗り込み、見たままを描くと同時に、毛沢東・周恩来等の超重要人物から詳細なインタビューを元に、共産党発展の経緯を描いたものです。今でも中国共産党史の原著と言える本です。
 著者は西欧人として客観的に見ようとしながらも、その中国共産党の新鮮な政策に驚き、非常に好意的に描いています。中国共産党が結局の所、国民党に圧倒的に勝った原因が、非常によく感じられる本で、その生々しさは今でも失われません。
 その後の共産党の歴史を考える上でもいろいろ考えさせられる素晴らしい本です。

「長征 毛沢東の歩いた道」
野町和嘉講談社文庫
 1995年刊。1934年、中国共産党は国民党により追いつめられ、根拠地であった江西省を脱し陝西省の延安まで1万2500kmに及ぶ逃避行を成し遂げました。最初85000人だった共産党集団が7000人にまで減ってしまったまさしく命辛々の大移動でしたが、生き残った中から毛沢東、周恩来、トウ少平、朱徳など、後世中国を動かすことになる人物達が出たのでした。  著者が長征の道をたどった著者の写真集ですが、当時一兵士として長征に加わった人々の取材などを中心にしていて当時の生の様子をうかがうことが出来ます。また長征の辿ったコースが非常に分かりやすく描かれています。

『中国土地改革体験記』
秋山義照中公新書468
 1979年初刊。著者は日中戦争で中国共産党の捕虜となり、共産党の教育を受け、その一員となり、戦後もしばらく中国で共産党の仕事に携わった人物です。中国の「土地改革」とは国共内戦が終了したあと、共産党が行った農地改革のことです。
 農民が大多数である中国にとって、そして労働者と農民の党を標榜する中国共産党にとって土地の再配分化は極めて重要な事柄でしたが、生産効率の問題や階級闘争が絡んで、極めて難しい問題であり、その結果、思想啓蒙活動である整風運動を伴うことになります。そして、この後は大躍進、文革へと続いたのでした。
 1949年の建国と文革の間に、中国には何が起こったのか、それを一体験記として生々しく伝えています。ちなみに本著は文革直後の「中国で何が起こっているのか分からない」という、ある種戸惑いの状況で書かれたためか、淡々とした記述が真に迫ります。

紅衛兵の時代
張承志/著、小島晋治・田所竹彦/訳中公文庫
 1992年翻訳。著者は「紅衛兵」の名付け主であり,高校時代に文革のまっただ中を生きた人物です。
 文革は一人一人の若者にとってみればアツい青春の一頁であったことは間違いありません。後に作家,研究者となった著者が,当時の思い出を,冷静にながらもアツく語る回想記です。
 雑想記記述予定。

私の紅衛兵時代
陳凱歌/著、刈間文俊/訳講談社現代新書
 1990年翻訳。有名な映画監督である著者が文革時代を語った本です。文革時代はやはり青年一人一人に、別な時代からすれば特異な経験を植え付けた時代だったといえます。

文化大革命
矢吹晋講談社現代新書
 中国の経済的な進展を10年遅らせたと言われる「文化大革命」。当時書かれた日本の書物には、情報不足のために肯定的に書いた物さえありますが、これは一体「文化大革命」とはなんだったのかをコンパクトにまとめた本です。当時、実務派達がかなりひどい扱いを受けたにもかかわらず、結局その後権力を握るようになって現在に至ることを考えると、現在の中国にも繋がった問題です。これを読んだら「何千年も前からやられているのと同じことが、この時にも行われたのかー」と悲しくなりました。だーーーっ。


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私的中国史調査会
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