プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章

☆☆☆ 10.セリル ☆☆☆
ロッドさんから手を引かれてイメージ・ルームから脱出した私は、そのまま
の状態で彼の部屋まで走る事になってしまった。
でも、ドレスを身につけたままだと走りづらいのよっ。
『・・・ねぇ、ロッド・・・さんの・・・部屋まで・・・。』
どれだけ走んなきゃいけないの?、と聞きたいけど、声が続かない。
乙女を、こんなに(階段を上ったり、下ったり、右左に曲がったりで、20メ
ートル位かな?)走らせて・・・いくら優しくって美しいわたしでも、いかっち
ゃうわよっ。
『そうだな・・・これくらいでいいか。』
ロッドさんはそういって急に立ち止まったけど、カンセー(慣性)の法則が働
いてる私は前のめりになって、コケそうになった。
いくら大人だからって(←意味不明)、急に走ったり止まったりしていいと思
ってるの。
でも、それを声に出して言わない私ってエライ!。
この、カ・ン・バ・リ・ヤさん。
ロッドは私の右手を握ったまま、歩き出す。
『これから、どうすると思う?。』
え、ロッドさんの部屋にいくんじゃないの?、と不思議がってる私に向かって
話を続ける。
『あの時は、わたくしの部屋が安全と考えていましたが・・・マリオネットも
そう考えるでしょう。そこで、先ほどのイメージ・ルームに隠れる事にします。
』
ロッドさんは空いた右手(左手は、私と手をつないでる)で懐からハンカチを
取り出し、顔を拭き始め、歩き続ける。これはロッドさんの癖ね。
『君がダブルナイトと呼んでいる男は、これからどうすると思う?。実は・・
・あそこから出ていく時、部屋に行くって喋ったろ?。あれは奴に聞こえるよう
に、声を出したのさ。その時だけはジャマーを切っていたから、肉声でも、盗聴
機からでも聞こえたはずだ。』
ロッドさんて、見かけによらず、かしこい!。
でも、それも時間の問題じゃないかしら。
その事を訪ねると・・・。
『もうすぐ、船はワープ航行を終え通常空間に戻る。その時に・・・。うぅっ
。』
ロッドさんはハンカチを持った右手を額に持っていくと呻いた。
『ここで、ゆっくり話をしている暇などないようだ。とにかく、イメージ・ル
ームに隠れてから話そう。』
そして、私たちは戻ってきた。
イメージ・ルームの中は、戦いがあったにしては思ったほど荒れていなかった
。
壁の表示パネルはヒビだらけのデッコボコ。
天井からの照明も明るくなったり暗くなったりで、ただそれだけ。
ダブルナイトの姿も、あの大男の姿もない。
どこへいったのかしら。
『それで、いつまでここに隠れていればいいの?。』
私の質問に、ロッドさんは顔から吹き出る汗を拭いながら答えた。
『船が通常空間に戻ったとき、わたくしたちは救命艇でここから脱出し、待機
している仲間が私の合図を受けて回収してくれます。敵が別の救命艇で後を追っ
てくる事も考えられますが、仲間たちの船には武器が装備されてますから、あな
たを取り戻す事は出来ないでしょう。』
きっと、ロッドさんのいう通りなのね。
でも、その後はどうなるのかしら。
『その後は・・・。』
ロッドさんの話が終わる前に、ドアが開いた。
(使われていない部屋に見せかけるため、ドアをロック出来ないため。)
そこにヨロヨロと現れたのは、上半身裸の、あの大男だった。
注意して見ると、透明なハラマキの様な物を着けてるのが判る。
そのお腹の部分に黒いシミが2つ。
『しくじったな。その傷・・・まさか・・・ジャマーを破壊されたのか?。奴
が来る。逃げるぞっ。』
でもロッドさんの行動は遅かった。
ドアの向こうに人の気配がする。
まだ機能している入り口のセンサーが、通路の人を感知し、ドアが開かれる。
その向こうには・・・逆光(単に通路よりもイメージ・ルームが暗いだけ)で
よく判らないけど、ダブルナイトだと思う。
でも・・・、あの野獣の様に変貌した姿なんか見たくないっ。
『セリル、こっちへ来るんだ。』とダブルナイトが叫ぶ。
銃を構えているダブルナイトに殺されるかもしれない。
私は恐くなって、ロッドさんの左腕にしがみつく。
私たちに勝算があるとしたら、ドアの陰に隠れている大男だけ。
でも、ダブルナイトは入ってこない。
その位置から、私に向かって声をかけてくる。
『俺は正常だ。奴こそ、ロッドこそ暗殺者だっ!。俺を信じろ。』
うん、信じる・・・わけない。
ダブルナイトの変身(正しくは変貌だけど、そんな難しい言葉、セリル判んな
かったの、あ・の・と・き・は)をこの目で見たんだから、すぐには信じられな
いわ。
でも、ロッドさんも信じきれない(ふっふっふっ、オンナの勘よ)。
つい、ロッドさんの顔とダブルナイトの方とを見比べてしまう。
気がつくと、ダブルナイトがイメージ・ルームに左足を踏み入れて来る。
大男は両手を組み、ダブルナイトの後頭部にたたき込もうと、部屋に入ってく
るのを待ってる。
私は一体どうすればいいの?。
ダブルナイトに危険を告げるべきなの?。
それとも黙っているべきなの?。
私は、ダブルナイトの行動を見つめていた。
彼の右足に体重(重心でしょ、知ってるわよ。でもこの時は言葉が思い浮かば
なかったの)が移ってくる。
それが終わったら、ダブルナイトは奇襲されるわ。
それより早く、彼の左足のつま先は大男の方を向き、光が走る。
『何度も騙されないぜ。』と声をあげながら、ダブルナイトが発砲した。
でも、その光は透明で弾力がある(ありそうに見える)ハラマキで中和され、
室内を照らしだしただけだった。
それでも、ダブルナイトの顔を見るには十分だった。
顔色も、目の充血も元に戻り、いつもの彼の姿がそこにあったわ。
でも、これからどうするの?。
どうなるの?。
ダブルナイトの表情が暗くなり、かわって大男が勝利を確信した微笑みを浮か
べる。
『ウッラーッ!。』と大男は叫び、両腕をダブルナイトの首筋めがけて振り降
ろしてくる。
彼は銃を投げ捨て、攻撃を両腕でブロックしたけど、力負けして、私たちの方
へと弾き飛ばされてくる。
そして勢いのままロッドさんのみぞおちにダブルナイトの肘が入り、前のめり
になりかかった額に、そのままダブルナイトの右手の甲が当たる。
いつの間にか、私の右手にも力が入っていたわ。
これで、ダブルナイトの相手は大男一人ね。
そう思った時、予測できない事になってしまった。
ロッドさんは床で呻いているんだけど、変な事を喋っている。
『ううっ、こ、ここは何処だ。君達はだれだ?。あの大男は何者だ?。』
私は思わずのけぞっちゃった。
『な、なによ、人を散々引っ張り回しとぴ(←’い’の間違い)て、その言い
ぐさは。』
記憶喪失にでもなったつもり、と文句をつけたかったけどやめたわ。
今は、あの大男をどうするか、よ。
ロッドさんかダブルナイトのどちらかは私の味方で、大男が両方の敵だとする
と、私の味方じゃないわね。
つまり、ダブルナイトのおにーちゃん、やっちゃえ、やっちゃえ〜っ、て事な
のよ。
でも、どうすれば勝てるの?。
銃も効かないし、力でも負けちゃってるしぃ。
『わ、私は帝国警察の、ロッドというものだ。たしか・・・催眠術・・・。』
つまり、ロッドさんも被害者という事ね。
それで・・・この状態からどうしろっていうのっ。
あの大男はゆっくりと私たちに近づいてくる。
もうダメかと思った時、船体に揺れを感じたわ。
『通常空間に戻ったんだ。』
ダブルナイトが言った通り、その揺れは亜空間から通常空間に移った時に感じ
られるもので、それが私たちのチャンスにつながった。
大男がバランスを崩して倒れ込み、その時間を利用して、私たちは逃げだした
。
はじめに私が通路に飛び出し、ダブルナイトがロッドさんに肩をかした状態で
、一目散に逃げだした〜・・・で、どこに逃げるの?。
まさか、またさっきの部屋に戻るとか・・・。
『まさか。』とダブルナイトは続ける。
『敵の人数は判らないが、二番煎じが通用するとは思えないな。かといって、
俺達の部屋も危ない。今ごろはドアに爆薬が仕掛けられているだろうし、他の乗
客を巻き込む訳にはいかない。』
でも・・・爆薬が爆発したら、船は今いる時間と場所から飛ばされるんでしょ
。
それを確認すると・・・。
『その通りだ。しかし今は通常空間に戻っているから、その心配はいらない。
となれば・・・この、ロッドの部屋に緊急避難するのがベターだな。』
そっか、そうするのか。
そう考えている私に、ダブルナイトは更に続ける。
『敵も、そう考えるだろう。だから、俺達の部屋が安全だ。』
でも、そしたら敵に爆死させられちゃう。
『そうかもしれないし、そうでないかもしれない。そこで、こうする。』
ダブルナイトはぼろぼろになった白いスーツの胸ポケットから、3つのボタン
がついた、貝型のリモコン装置を取り出すと、右から左へと次々にスイッチを入
れてく。
あれは前に教えてもらったもので、右から”ダミーダゾ”、”エコーゴースト
”、”トリップエッグ”の起動装置。
”ダミーダゾ”はダブルナイトと私の体型に似せた人形で、熱を発生させ、ひ
とりでに単純な動作が出来るようになっている。
これで、赤外線スコープ等による探査から敵の目をごまかせるようになってる
。
”エコーゴースト”は音声発生装置で私たちの会話が録音され、簡単な質問に
も自動で受け答え出来るようになってる。
これで音波による探査を騙す事が出来る。
”トリップエッグ”は・・・今は内緒。あとで教えてあげるね。
後は部屋に戻るだけ。
なのに・・・ダブルナイトは全然別の方へと進んでいく。
もしかして、ここにいるダブルナイトは敵の変装で(敵に変装がうまいのがい
るって、言ってたような)、罠にはめられようとしてたり・・・して。
私は立ち止まると、ダブルナイトの背中を見つめた。
『どうした?。』
ダブルナイトの質問に、私は潤んだ瞳で尋ねた。
『この通路は、私たちの部屋に向かっていない。どうして?。』
船内の構造は、客室でダブルナイトからもらったシナリオで暗記してる。
どう答えるつもり?。
『船長に頼んで、別の部屋を確保してあるよ。着替えも一応は準備してあるか
ら。前まで使っていた部屋は危ないからな。』
やっぱり、ダブルナイトって賢い。
ダブルナイトが新しい客室をカードキーで開けると、私たちはなだれ込むよう
に部屋に入った。
そこは最初に使っていた客室と同じ造りになっていて、違和感を感じない。
絨毯の色も、ソファや壁の色も前と同じ。
違いといえば・・・振り向くと、ロッドは床に座ってヘタってるし、ダブルナ
イトは・・・服を脱ぎ始めた。
えっち〜っ、と叫ぶ前に、ダブルナイトの声がする。
『今の内にシャワーを浴びといた方がいいぞ。おれは濡れタオルで体を拭いて
るから。』
そうね。
いま、汗で体がベトベトだし、ドレスのすそも汚れてる。
ここはダブルナイトの言うとおりにしとく方がいいわね。
もちろん私は、シャワーを浴びる前に一言いうのを忘れなかった。
『覗いちゃだめよ。』
シャワーに向かう私の背中に向かって、ダブルナイトの陽気な笑い声が聞こえ
てくる。
あれだけ大きな声で笑うダブルナイトを始めて見たわ。
シャワー・ルームは廊下の陰になっていて、その扉に私の着替えがかけてある
。
一見パジャマに見える白いトレーナーは、どう見ても唯のトレーナーで、がっ
かり。
でも、ドレスよりは動き易いからいいわ。
私はドレスを破り捨てるように脱ぎ(だって、まだ一人で上手く脱げないんだ
もの。それに、ドレスにヒミツヘーキの3つの棒がくっついてるしぃ)、髪飾り
と下着を外すとシャワーを浴び始めた。
そうしていると、体も頭もはっきりしてくるみたい。
ボディシャンプーをボディブラシにた〜ぷり付け、考えながら体を磨く事にし
た。
1つ、敵はこの船内に潜んでいる。
1つ、私の敵はダブルナイトかロッドか、それ以外の者なのか?。
その答は2人の話を聞くまで保留する事にする。
1つ、あの大男の弱点は何か・・・現在不明、男の体の黒い点は光線銃による
ものと考えられる。
しかし、ダブルナイトの武器は通用しなかった。
あの透明なハラマキが、エネルギーを無害な光に転換している可能性が大きい
。
さっきの戦闘で、ダブルナイトが銃を投げ捨てた事から判断すると、銃に対し
ては無敵という訳ね。
力でもかなわないんだから・・・残るのはナイフやサーベルの様な刀か。
1つ、イメージ・ルームで大男がバランスを崩したのは、ダブルナイトの攻撃
によるダメージが残っていたから。
1つ、どちらにしろ、あの大男は敵ね。
1つ、あのおばあさん(ババァ)も敵の一味ね。
ダブルナイトはそれを察知して、私がおばあさんと行動するのを嫌がったのか
しら。(はっきりと口に出しては言わなかったけど、そんな感じがしてたの。)
シャワーを浴びた私は、濡れた体にバスタオルを巻き付け、髪は淡い緑のリボ
ンでまとめあげてダブルナイトの待つ居間に入った。(髪飾りでバスタオルを止
めたんだよ。)
『ねぇ、お腹がすいた〜っ。』
そこには姿勢を正したロッドが、目を小さくしながらこっちを見てる〜。
『きゃぁ〜。』と叫ぶ私。
そうよ、ロッドさんがいたんだわ。
つい2人っきりだと勘違いして、オチャメしようとしたのに・・・失敗しちゃ
った。
イメージ・ルームの前に戻ると、はんべそをかきながら慌ててトレーナーに着
替えるわ・た・し。
改めて居間に戻ると、ダブルナイトとロッドさんがソファにくつろぎながら待
っていた。
テーブルの上には、暖かい紅茶が注がれた3つのティーカップ。
その中央に位置に置かれたバスケットからは、食欲をそそるクッキーの香りが
する。
着替えのないロッドさんは別として、なんでダブルナイトは新品の教育武官の
制服を身につけてるの?。
あんなにぼろぼろだったのに。
ま、まさか・・・予備の服が、ぜーんぶ制服だとか?。
『こ、こういうのも変だが、初めましてセリルさん。』
ロッドは立ち上がると、少し照れながら挨拶してきた。
『あ、こちらこそ、初めまして。』
あわてて私も挨拶を返したけど、変な感じ。
さっきまで一緒に行動していたのに。
『では、説明してもらおうか。』
そうダブルナイトに促され、ロッドは重い口を開いた。
『私は銀河帝国警察、巡回警官のロッドといいます。任務はセリルさんの保護
及び護衛。そのため・・。』
『ちょっと待ってくれ。この仕事は、警察の手に負えないと言う事で俺達が受
けた仕事だ。従って、あんたが嘘をついているとしか思えない。』
そ、そーよ、ダブルナイトの言う通りよ。
『ま、待って下さい。確かに、これは警察長官からの命令ではないのです。わ
たくしは帝国情報部副局長と知り合いでね、個人的に頼まれた仕事なんですよ。
情報部内部にも、この仕事を任せられる者がいないらしくてね。どうやら情報部
内部にも敵が紛れ込んでいるらしく、この仕事を情報部員に任せると失敗する可
能性が100%、部員同士の疑心暗鬼を引き起こす可能性100%。で、優秀な
情報部員にも任せられないのが実情だとか。』
それはそれでいいとして、なぜ私が警察に保護されなきゃいけないの。
それを尋ねると・・・。
『行方不明だった銀河帝国皇族の娘が、最近見つかった。ただし、本人の安全
を確保するため、娘には真実が告げられていない。』
ロッドとダブルナイトの言葉を信じるなら、つまり、もしかして、私が王女様
って事ね。
そうよ、私が平民の娘のわけないわ。
なんていうのかしら、持って生まれた気品とでもいうのかしら。
ああ、し・あ・わ・せ。
『ロッドさんは何か誤解をしているようだ。私の依頼人の名前は明かせないが
、皇族でも貴族でも、金持ちでもない。ある有名な学者で、生まれてすぐに誘拐
された孫を探して欲しいとの依頼だった。いわば民間事件で帝国情報部とは無関
係だし、警察は捜査を打ち切った。だから、俺に仕事が回ってきただけだ。』
ダブルナイトから初めて明かされる真実に、私は笑顔のまま硬直してしまった
。
つまり、わたしっておばかさん?。
『おかしいですね。私は、この子こそ王女さまだと思っていたのですが。』
ロッドの表情も少し曇ってるけど、完全には信じていないみたい。
『ではなぜあなた方は狙われているのですか?。』
ロッドの質問に、私は答えられない。
王女様のオトリをやってるなんていったら、ダブルナイトが逮捕されちゃう。
そしたら、私はまた一人ぼっちになっちゃう。
『それよりも、なぜあなたが犯罪者に協力しているのかを知りたい。』
さすがはダブルナイトね。
質問をきり返す事でごまかしちゃった。
『あれはそう、今から5時間ぐらい前の事です。1人の老婦人が部屋を尋ねて
きました。何故わたくしの名前を知っていたのかは知りませんが、この子が緑水
晶のネックレスを落としたと言うんですよ。これが私の仕事に役立つといって。
それを見つめてると頭がボーッとして、詳しい事は覚えていない。わたくしは催
眠術にかかりにくい事が自慢だったのに・・・自信をなくしそうですよ。彼女は
催眠術の天才だったのかな。』と、ロッドは声を出さずに笑う。
多分それは、情けない自分に対しての嘲笑だったのかも知れないけど、それを
ごまかすように話を続ける。
『あの大男については何も知らないが、同僚だと信じ込まされていた。今にし
て考えると、あの老婦人も誰かに催眠術をかけられていた気がする。多分、セリ
ルを部屋から連れだした事も覚えていないんじゃないかな。・・・わたくしが知
っているのはこれだけだ。』
『それでも、2つの事が判った。』
ダブルナイトは紅茶で喉を潤すと、指を立てながら説明してくれる。
『この船には、少なく見積もっても3人の暗殺者が乗り込んでいる。マリオネ
ットとゴーレム、ゴーレムと行動を共にするヒドラの3人だ。暗殺者達は、セリ
ルの暗殺よりも、誘拐に重点を置いている。多分、セリルの深層心理から、何ら
かの情報を引き出す事を第一の目的にしているようだ。』
その事についてダブルナイトは、それ以上深く説明しなかったけど、情報を手
にいれた後で、私は殺されるのね。
そうでなかったら、暗殺者が私を狙うわけないもの。
もしかしたら私は、何か重要な発見か発明に関する鍵を握っているのかしら。
『第2として、敵は船が通常空間に戻る直前から次のワープまでの間に攻撃し
てくると考えられる。セリルを誘拐するつもりならば、ワープ航行中に行動を起
こすのは無意味かつ大きなリスクを背負うからだ。今から約23時間、セリルを
守りきれば、更に3日の余裕がうまれる。』
ワープ航行といっても、正確には亜空間ワープという方法で通常空間から亜空
間にワープシフトし、その亜空間を航行するんだよってダブルナイトが説明して
くれた。
宇宙がたくさんあるように、亜空間もたくさんあって、その中の一部だけを使
ってるんだって。
(私たちが使用しているワープ航路は一万以上あって、その各々が同じ亜空間
なのかを調べる方法がないんだって。何故かってゆうと、使用しているワープ航
路は古代銀河文明が使っていた物を私達が借用しているだけで、その仕組みは未
だに不明なんだって。)
亜空間の法則は私たちの宇宙の法則と違っていて、・・・光の速度は不定だと
か、微粒子より大きい物質は存在していないとか、粒子は直線に進まないとか・
・・よくわかんな〜い。
だから、クッキー食べちゃおっと。
バスケットの中にはカラフルで様々な形をしたクッキーであふれてる。
私はその中から、ピンクのハートが4つくっついた手のひらサイズのクッキー
を両手で掴むと、ちぃ〜ちゃな口を開けて、ハグハグとご馳走になった。
『それは親切な船長からの差し入れだよ。セリルのために、菓子専門のシェフ
に作らせたんだそうだ。旨いか。』
『うん。』
私はダブルナイトの言葉に強くうなずくと、紅茶を一口、口に含んで菓子の味
を喉に流し込む。
別のクッキーを食べた時に、前のクッキーの味が口の中に残ってたらやだもん
ね。
でも、ロッドさんは紅茶にも、クッキーにも手を出していない。
ダブルナイトもそれに気がついてて、ロッドに勧める。
『ロッドさんも食べてみませんか?。おいしいですよ。』
教育武官を気取っているダブルナイトの口調はおかしかったけど、ロッドさん
は首を立てに振らない。
『この体格ですから、脂っこい物や水分は控えているんですよ。それに、ええ
と。』ロッドがダブルナイトと私の顔を交互に見ながら、助けを求めている。
あたしにどうしろというの?。
『紹介が遅れましたね。オ、私はセリルお嬢様の教育武官兼保護者で、シルバ
ーといいます。』
そっか、ダブルナイトの名前を知りたかったんだ。
第一、私だって知らなかったんだから・・・あれ、でもその名前はホントの名
前じゃない気がする。
簡単に本名を明かすわけないよね。
『それでシルバーさん、私たちは同じ物を食べない方がいいと思えるんですが
。』
ロッドはまた汗を拭きながら話し始める。
『敵が食事に毒を盛ったとしたら、私たちがそれを食べたとしたらセリルを守
るのが困難になります。』
あ〜っ、ロッドさんったらいつの間にか、私のボデーガードになったつもりで
いる。
『その危険性を最小限にするためには、私たちは同じ物を食べない方がいいし
、食事の時間もずらした方がいいでしょう?。それに、今日は襲ってこないでし
ょう。』
え、なんで。
ホントに安全なの?。
私は目を丸くしてるし、ダブルナイトはロッドを疑いだしてるし、ロッドは空
気が緊張してるのを感じて、慌てて弁解しだした。
『わ、私は、暗殺者の一味じゃないですよ。催眠術にかかったわたくしがセリ
ルを連れ出して始めて、敵は動き出すつもりでいたんでしょう。でも、わたくし
への催眠術は解けましたし、それを見越した計画は立てていないんじゃないです
か?。』
そうね、ロッドの言葉にも一理あるわね。
って事は、4日間は遊んで暮らせるんだー。
エステでしょ、プールでしょ、ピチピチの美青年をはべらして、遊びまくるの
よ〜。
その間にー、ダブルナイトとロッドさんには私を守るための計画を練ってもら
う事にして、それでOKね。
私は大きくあくびをすると、安心感から眠くなっちゃった。
『もう子供の寝る時間だから、私は寝るわね。お休みなさい。』
私は優雅に2人に挨拶すると、寝室にむかった。
客室は変わっても、寝室の位置は同じだしぃ、フカフカのベッドに飛び込むと
、あっという間に意識を・・・失う前に、可愛い頬に痛みが走る。
『なぁにぃ〜。』
そういいながら目を開けると、ダブルナイトが私の顔をのぞき込んでる。
『子供の寝る時間でも、歯は磨こうね。それから、パジャマを着て寝るように
。わかったかな?。』
ううっ、わかったわよー。
明日の朝はみてなさい、私の眠りを妨げた者には天罰が下るのよーっ。
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11. ダブルナイト
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