プリンセス救出陽動作戦



ダブルナイトの章


☆☆☆ 9.ダブルナイト ☆☆☆
 隣のイメージ・ルームに潜む俺の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた 。
銀河帝国情報局から依頼を受けたというロッドは、俺が危険人物だと主張して いる。
確かに俺は犯罪者だ。
だが、この事件に関しては犯罪者としてではなく、善良な銀河帝国国民として 行動しているんだ!。
ばあさんはロッドに頼まれていたらしく、2、3言葉を交わすと、出て行った 。
空圧式(空気の圧力で開閉する方式の事)扉が開閉する音と、ばあさんの挨拶 、そしてイメージ・ルームを出て通路を歩いていく彼女の足音がする。
なぜ判るのかって?。
男女では体格も違うし体重も違う。
足音と足音の間隔から歩幅が想像できるし、音の高低から体重も想像できる。
なおかつ、あのばあさんは時々、杖で床を叩いているから、音の間隔が不規則 になり、徐々に小さくなる音からも推測できる。
俺はばあさんの事を頭の中から払いのけると、イメージ・ルームの会話に耳を 傾け、部屋の中の様子をつかむ事に全力をあげる。
セリルと一緒にいるのは2人の警官。1人はロッドと名乗っているが、もう一 人は大男という事しか聞こえてこない。
ロッドは銀河帝国情報局から入手した情報を、ビジョン・FAXを使ってセリ ルを納得させようとしている。
その映像の中身は不明だが、盗聴器を通じて入ってくる会話から推測は出来る 。
情報局が録画したニュースによればソウル・イーター以外の暗殺者が1名、こ の星系に潜入した事になる。
だとすれば、その暗殺者がこの船内に潜んで機会をうかがっている可能性が高 い。
俺の予測が当たっていた訳だ。
つまり、俺と暗殺者、銀河帝国警察の3つ巴の少女争奪戦が繰り広げられるわ けだ。
なのに、それなのに、その暗殺者が俺だってェ?!。
催眠術を得意とする暗殺者、マリオネットの正体が俺だと言うのか?。
ナンセンスだ。
俺には子供の頃の記憶もあるし、歴史もある。
様々な犯罪に手を染めはしたが、生きてきたとの実感もある。
それとも、本当は俺がマリオネットとかいう暗殺者で、今の記憶と人格が造ら れたものだとでも言うのか?。
仮にロッドの言う事が事実だとして、俺自身にその真偽が判断できるだろうか ・・・無理だろうな。
無理だと判っていても、俺は自分自身に正直に行動するだけだ。
今は、2人にセリルを預けて、俺は他の暗殺者のいぶり出しと始末に全力をあ げるとしよう。
そう思ってイメージ・ルームから出る俺の耳にロッドの言葉が響く。
『セリルさん、多分、彼はあなたを監視していると思いますよ。そうですねぇ 、例えば隣のイメージ・ルームで。』
その一言はショックだった。
俺自身に対してのショックではない。
その一言を聞いた時のセリルの気持ちを考えるとショックを感じる。
心に深い傷を持ったあの子は俺を疑うだろう。
もう、進んで俺に協力しようと思わないだろう。
どうする?。
今すぐ踏み込むか。
しかし、セリルの反応も恐い。
扉の前で盗聴を続け、その内容によってはロッドと対決しなくては。
その俺に、新たなトラブルが舞い込んだ。
急に盗聴器から雑音が聞こえだし、何も聞き取れなくなった。
ジャマーだ。
サウンドジャマー。
電波信号を変質させ、更に人間にとって不快な電波を増幅合成する。
それは場合によっては狂人に追い込む危険な物だ。
銀河警察の奴らはどういうつもりだ。
慌てて扉に耳を当てたその時、音もなく扉が開き、太い腕が体制を崩した俺の 体を室内に引きずり込む。
奥から俺を凝視する4つの目はロッドとセリルのもの。(大男がロッドでない 事は先程からの会話からわかる。)
『ま、まさか。その手に持つのは受信機。そうか、少女の青い蝶の髪飾りが発 信。』
発信器と言おうとしたんだろうか。
ロッドが言い終わるより早く、右手の甲に熱さを感じる。
それがあっという間に全身に広がり、何も言えなくなる。
『グァアアッ。』
口を開いても出てくるのは獣の様な唸り声とよだれだけ。
俺はどうしたんだ?。
マリオネットとかいう暗殺者になる前兆なのか。
『キーワードだっ。青い蝶の髪飾りがキーワードだったんだ。』
違う。
おれはマリオネットにならないっ。
その声にならない主張を誰が聞いてくれるというんだ。
俺の行く手を大男が塞ぎ、ロッドがセリルの手を引きながら出ていく。
2人に向かって差し出す両手を大男が塞ぎ、力比べを挑んでくる。
今の俺に、大男といえど生身の人間が勝てる訳ない。
なぜなら、俺の体の中に人間の力を極限まで引き出す即効性の薬物が入ってい るからだ。
それは、力比べをしている男によって、部屋に引きずり込まれるときに、右手 の甲から注入された。
浸透式の注射器によって、皮膚の上から薬物を投入され、そのために右手から 全身に向かって熱くなっていった。
なぜ、俺を凶暴化させる?。
1つは俺を暗殺者にしたてあげるため。
帝国警察がこんな事をする訳がない。
つまり、彼らこそ暗殺者だ。
セリルが危ない。
しかし、喋れない。
それが奴らの2つめの目的だろう。
残った手は・・・薬物の力をかりて、大男を倒す事だ。
俺は両手に力を込め、奴の拳を砕こうとする。
く、砕けない。よ〜く考えてみれば当然かも知れない。
この大男が、なんの勝機もなく、俺に薬物を射つはずがない。
それが第3の理由か。
奴の体はさらに一回り大きくなり、そのまま俺を振り回し始めた。
そして、奥の壁に俺の体をたたきつける。
異常に分泌するアドレナリンのせいで、大して痛みは感じないが、俺が立ち上 がるより早く奴は部屋から飛び出した。
俺も後を追いはしたが、通路に出た時、奴の姿は消えていた。
船内を走り回ってセリルを探したい衝動に駆られたが、薬物で充血した目、こ わばった顔、声にならない声は、他の乗客に驚異を感じさせても同情は感じさせ ないだろう。
今はだめだ。
奴らも今すぐにはセリルを殺さないだろう。
とにかく自分の部屋に戻り、計画を練り直す必要がある。

通路で老人や子供、婦人等とすれ違ったが、何かを言われる前に走って通り過 ぎ、部屋に飛び込んだ。
自室には、俺が持ち込んだ多くの解毒剤と各種薬品の入った鞄がある。
本業の関係で、自分にどのような薬物が投入されたかわかるし、即効性の解毒 剤もあった。
それをいそいで注射し、ベッドの上でくつろぐ。
今度は逆に、右腕を中心にして涼しさが全身に広がり、目の腫れも引いていく 。
そこへ、船長自身からの画像通信が来た。
モニタに制服を着こなす中年の男が現れ、問いかけてくる。
『セリルの教育武官ですね。先程通路であなたを目撃したというお客様達から サービス・センタに連絡がありまして、あなたの様子がおかしいと・・・。』
『その事ですか。実は、お嬢様が行方不明となりまして。捜索の手伝いをお願 いしたいのですが。』
なかなか巧い嘘だと思う。
モニタの船長は少し困った顔をしている。
『それでは、船内放送で呼出をしてみましょうか。』
それではこっちが困ってしまう。
俺が船長にお願いして捜索している事がばれてしまうし、船長が敵に騙される かも知れない。
かといって真実を告げるのは危険だ。どうにかしてごまかさないと。
『銀河公爵のお嬢様にとって、迷子になっているのがしれたら銀河中の笑い者 になってしまいます。幸い、お嬢様と話をしていた人物の顔を覚えておりますの で、その調査のために乗客リストを見せて頂けませんでしょうか?。』
『お2人には社員をかばってもらった恩もありますし・・・いいでしょう、端 末をお貸ししましょう。ただ、船内には数百名もいるんですよ。』
それは仕方がない。
しかしこれで、暗殺者らしい人物をリストアップすることも出来る。
『ありがとうございます。それから、この事はくれぐれも内密にお願いします 。お嬢様は気位が高く、迷子として保護されたら傷つきますので、みかけたら私 に連絡して下さい。』

乗客リストはコンピュータで管理されており、室内の端末からアクセスする事 にした。
(もちろん端末の機能は勝手に使えない。船長の許可を得、指示されたパスワ ードでしかアクセス出来ないようになっている。)
セリルに明かした身分はニセモノだろうが、乗客リストにはその名前で載って いるはずだ。
ロッドという名前。
2人旅。
職業は銀河帝国警察の警官。
画面上に表示されたメッセージは該当者なし、だ。
2人旅という条件を削除して再度検索する。
・・・あった。
ロッド・ロミノス、30才。
銀河帝国警察巡回警官。
客室はS−330号室で特等客室の一人部屋。
俺が今いる部屋と同じ造りだろう。
だが、その部屋はどこにあるんだ?。
簡単な命令とロッドの部屋番号、それにこの部屋の番号を打ち込み、モニタを 切り替える。
その画面一杯にアドリーム号の断面図が表示され、俺の特等客室が緑で、ロッ ドの特等客室がオレンジ色で表現される。
それによれば、ロッドの客室に行くには第15娯楽室(チェス等が置いてある )の前を横切り、第3展望室をつっきる必要がある。
都合のいい事に、奴の部屋はつきあたりにあり、逃走しにくいはずだ。
もう一人の大男については情報がないので調べられないが、その体格からゴー レムと呼ばれる暗殺者だろう。
すると、ロッドは暗殺者ヒドラか。
それならば、受信機が使えなくなるのも理解できる。
しかし、こうも綿密な計画をたてていながら、なぜ今セリルをさらったのか。
船内は巨大な密室で、逃げる事など不可能だというのに。
2人の暗殺者は一流だ。
一流ゆえに、自分が疑われるような殺人は起こさないし、逃走できない状況で の暗殺は行わない。(暗殺だけを目的に殺人をする奴は2流だ。一流の暗殺者は 自分の安全を考えて人を殺す。)
だから、しばらくの間はセリルが殺されないと考えたのだが・・・。その時、 いつものひらめきが走った。
この船には数十の救命艇が装備されているが、ワープ航海中は使用できない。
(時空の狭間に流されて、この宇宙に戻ってくる事は難しい。戻ってこれたと しても、この銀河とは限らないし、かなり先の未来に飛ばされるだろう。)
それが、今から1時間後のワープ終了で使用できるようになる。
<母なる水中の星系>には数日かかるが、ここでワープを中断する事は決めら れていた事で、場合によっては待ち伏せも可能だし、逃亡も可能だ。
『まだまにあうはずだ。』
俺はモニタをそのままにし、部屋から駆けだした。
小型の銃とナイフをポケットに入れる。
一分一秒がおしい。
通路を走り、いくつかの曲がり角を進み、第3展望室に飛び込む。

そこで俺を待っていたのは、例の大男だった。
思いだした。
こいつは確か、俺達が入った食堂で見かけたぞ。
あの時からマークされていたんだ。
大男は俺を待っていたらしく、一言も喋らずに不敵な笑みを浮かべている。
薬を使っても勝てないし、正常な状態の俺では力比べをする気もない。
一応、俺も笑みを浮かべ返してやると、ポケットから取り出したナイフを構え る。
(なるべく銃は使いたくないからな。)
が、奴は顔色も変えず、手招きしてくる。
俺は真顔に戻ると、奴の心臓めがけ、加速をつけて突き出した。
手ごたえがない?。
俺の手の内にあるナイフは奴の体にめり込んでいる。
なのに、ナイフの刃先からは押し返そうとする力を感じる。
ナイフをゆっくり抜いていくと・・・奴の皮膚が元の位置に戻っていく。
ナイフは棒の様に奴の体にめり込んだだけで、傷一つさえつける事が出来ない 。
驚く俺を、おもちゃのように張り飛ばす。
奴の右手が俺の左横腹を襲い、衝撃が走る。
その勢いで、俺の右肩は右てのテーブルにぶつかる。
その透明な円形のテーブルは全部で5個あり、その軽量の合金は当たると痛い !。
俺には苦痛で身をよじる暇もなく、あたりを伺う。
やつはテーブルの一つを持ち上げると、それをたたきつけるつもりだ。
俺にはそれを待つ気などない。
俺がたたきつけられたテーブルを、床に倒れたままの恰好で奴に向かって蹴り 飛ばす。
(起きあがる時間もなかったし、人間の力は手よりも足の方にある。)
テーブルは奴にぶつかり、体制を崩させる。(といっても2・3歩下がらせた だけだが。)
その間にポケットから銃を取り出し、構える。
『これ以上近づいたら撃つ。』
大男は笑みを浮かべたまま、歩みを止めようとしない。
俺は警告した。
なのに足を止めない。
こいつ、耳が聞こえないのか?。
こうしている間にも、奴の手が近づいて来る。
『シュッ、シュシュッ。』
音と共に俺の銃口から放たれた光が、奴の体を貫く。
(銃は音が小さいように造られているが、対象の生き物があげる悲鳴を消す事 などできない。それが銃の欠点で、扱いが巧くても銃を使いたくない理由だ。)
奴の体は反動で2歩程下がり、脂肪が焼けるいやな臭いがする。
勝った。
それも後味の悪い勝利・・・のはずが、なぜ奴は倒れない?。
なぜ平然としながら近づいてくる?。
なぜ血を流さない?。
俺はとにかく立ち上がると、第3展望室の、入ってきた方のドアに向かって必 死に逃げる。
(反対側のドアはロッドの部屋に通じているが俺が行き止まりに追い込まれる 可能性がある。)
イメージ・ルームから逃げだした時の足の速さはないのか、何とか扉にたどり つき、振り向くと、奴がテーブルを投げてくる瞬間が見えた。
それを、身をかがめる事で避けると、更に通路の先へと逃げ出す。
そうしながらも、今は奴から目を離さない。
奇襲を警戒する意味もあるのだが、奴の位置を確認する意味がある。
そして、奴がその場所に立った時、俺の銃口は光をほとばしらせ、奴の頭上に ある照明を破壊する。
ガラスの破片で奴を倒せるとは思ってないし、部屋を暗くしたから勝てるとも 思っていない。
俺の目的は・・・破壊された天井から垂れ下がる配線が奴の頭に触れ、電気シ ョックで震え出す。
『グワァァァァーッ。』
初めて声を出している。
それが10秒ぐらい続いたろうか。
奴はゆっくりと前のめりに倒れ込み、ぴくりともしない。
俺は痛む体を引きずりながら引き返し、ロッドの部屋を目指す。
奴の横を通る時、その様子に注意すると死んでいないのが判った。
単に気絶しているだけとは・・・しぶとい奴だ。
とどめを刺したくても、現状では出来ない。(俺が殺人者として逮捕されてし まう。)
この近辺の部屋には誰もいないらしく、通路に人影の現れる気配もない。
とにかく先を急ぎ、ドアのルーム・ナンバーを確認するとノックしてみた・・ ・、が反応はない。
『ロッドさん?、開けてもらえませんか?。』
そういいながらガンガンたたき、ドアを蹴りつけ・・・ても反応がない。
こうなったら、ドアを銃で吹き飛ばすか・・・。
それを実行に移すよりも先に、第3展望室の方から人影が・・・事件を嗅ぎつ けた乗客か搭乗員だな。
時計を見ると、あと40分しかない。
あれ、受信機が機能している。
それによれば、この辺りにセリルはいない。
てことは、この客室にもいないわけだ。
やられたっ。
第3展望室からやってくる乗客達とすれ違い、展望室に入っていく。
そこに大男の姿はない。
なんて逃げ足の速い奴だ。
『こちらで何があったんですか?。』
展望室を調べていたサービスマンの質問に、首を横に振って答え、そのまま通 り過ぎる。今は何も喋る気がしない。
とにかく時間内にセリルを探しだし、無理矢理にでも保護しないと少女の命が なくなる。彼女は・・・何処へ消えたんだ?。

受信機を見ながら通路を進む俺は、第15娯楽室の前で船長と顔を合わせてし まった。
『ふーっ、またまた・・・あんたか。何が起きているのか説明してもらおうか 。さもないと、船長の権限で客としての資格を剥奪し、犯罪者として扱わせても らう。』
それが船長の言い草かっ。
少女の命がかかっているんだぞっ、と叫びたくなるのをこらえた。
船長は全ての乗客の命を預かっている。
こういった事件に敏感になるのは当然か。
しかし、この事件についていうなら、彼の手には負えないだろう。
『セリルをさらった一味と戦いまして・・・取り逃がしてしまいました。身長 は2メートル50センチ近くで、はげ頭。ワインレッドの瞳に大きな鼻、ぶ厚い 唇。眉なしまつげなし、ひげ無し体毛なし。銀河帝国警察のロッドと一緒にいる のを見かけた。心当たりはないか?。』
『わたしの自慢は記憶力だ。だが、この船にそんな大男は乗船していない。客 の中にも船員にもそんな男はいない。あんたの見間違いだと思うね。それとも成 長したのかな?。』
そんな冗談に笑う余裕などない。
俺は船長を無視し、セリルを探すために先に進んだ。
受信機と、船内地図の記憶を頼りに、おれはセリルの位置を示すレーダーに集 中する。
それによれば、セリルが監禁されているのは・・・さっきのイメージ・ルーム だ。
あとは部屋に向かって全力疾走するのみだ。
今度こそセリルを保護するぞっ。

イメージ・ルームの前までたどり着くと、息を整えながら受信機を確認した。
間違いない。
セリルはここにいる。
確かに、逃げだしたイメージ・ルームほど隠れ場所に適している所はない。
そこまで計画し、行動するロッドの能力にはおそれいる。
受信機の機能が停止したままなら、セリルを見つけだすのは困難だったろう。
ではなぜ、急にレーダーが動きだしたのか。
それは多分、あの大男の体内にジャマーが仕掛けられていたからだ。
それが、俺との先程の戦闘で壊れたと考えればつじつまが合う。
あの戦いでナイフを1本失いはしたが、局地戦における装備は十分なはずだ。
前は扉に耳を当てて中の様子を伺ったために中に引きずり込まれたが、同じミ スは犯さない。
今は敵の手を知ったし、室内の様子は盗聴機で探れるから、耳をつける必要も ない。
セリルの立っている位置も判るし、ドアのセンサーだけを破壊するために、斜 め上から銃を撃っても怪我をしないだろう。
俺はゆっくり銃を抜き、構える。
そして、引き金に力を込め・・・光が発射される前にドアが開いた。
俺の目の前・・・部屋の奥でセリルとロッドがこちらを見ている。
2人とも武器は持っていないようだ。
『セリル、こっちへ来るんだ。』
セリルは俺の言葉におびえ、ロッドの腕にギュッとしがみつき、イヤイヤをす る。
少女はまだ俺が暗殺者だと信じているのか?。
『俺は正常だ。奴こそ、ロッドこそ暗殺者だっ!。俺を信じろ。』
セリルは慌ててロッドの顔を仰ぎ見る。
少女の目に、ロッドに対する疑念が感じられる。
そして、距離をおこうとする。
それでも、俺に近づいてこないところを見ると、俺に対する疑惑も残っている ようだ。
当然だろうな。
不意を突かれたとはいえ、セリルの目の前で醜態をさらしたんだから。
だからといって、任務を投げ出すわけにはいかない。
俺はロッドから目を離さないようにイメージ・ルームに入る。
そこでは、セリルが口元を震わせている。大丈夫、もうすぐ誤解はとけるから 。


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