プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章

☆☆☆ 8.セリル ☆☆☆
ババァ・・・いえ、おばあ様に案内されて入ったイメージ・ルームには、予
想に反してメイドのおねーさん達はいなかった。
そのかわりに、2人の男が私たちを待っていた。
敵かもしれないし、ダブルナイトがいうように、相手をよく観察しないといけ
ないわね。
1人はアイボリーブラックの髪を短く刈り込んだおじさんで、ネービーブルー
とウルトラマリンのストライプがきれいなスーツを身につけている。
身長は私よりも頭1つちょっと高いから・・・165センチ位かしら。
丸みを帯びた顔には温厚な表情を浮かべ、左手に持ったハンカチで浅黒い顔や
首を拭いている。
きっと汗っかきなのね。
眉は薄いけど長く、耳たぶが長い。
ドングリの様に小さいお目々に薄くて小さい唇。
もう一人は2メートルを越える大男で、筋肉モリモリの体の上にはおっきな禿
頭がのっかってる。
グレーの半袖スーツはビッチビチで、半ズボンから出ている足にも毛が1本も
無い。
おっきな鼻と分厚い唇が石像を思わせる。
あれじゃあ武器を隠し持つ事も出来ないでしょうけど、あの体自体が凶器だわ
。
この2人は、私にどんな用事があるのかしら。
イメージ・ルームの扉が閉まると、汗っかきのおじさんが口を開いた。
『セリルさんですね。』
敵かもしれない。
慌てて否定しようとする私の気勢を制しておじさんは話を続ける。
『あ、いや・・・偽名は結構です。既にあなたの手配書が出てますから。私は
、帝国警察のロッドといいます。この大男は私の助手です。実は、内密にあなた
とお話したく、こちらのおばあさんに頼んだのです。』
え・・・一体、何の話かしら。
ロッドさんの視線を感じたおばあさんは・・・。
『本当にごめんなさいね。でも、孫娘達の事は本当よ。今は、さっきの貴族達
にからまれないようにと、部屋で謹慎しています。次の星系で退職する事になっ
ていまして・・・その時に、正式に挨拶に伺わせていただきます。それでは、さ
ようなら。』
か、帰っちゃうの?。
私を置いて行かないで、と思いながらも口に出来ないもどかしさ。
べ、別に恐くないもん。
でも、だから、何が、どうして、でも、だから、何が、どうして?。
『あー、ひきつりながらの笑顔はやめてほしい。我々は銀河帝国情報局副局長
より直に依頼を受けまして・・・。あなたを保護するようにと・・・。』
保護?。もう保護されているのに?。敵じゃないの?。
『・・・我々の調査によれば、今あなたと行動を共にしている男は犯罪者で、
情報局にマークされている危険人物だ。』
危険人物はあなた達じゃないの?。
乙女(もちろん、あ・た・し)一人を部屋に監禁しておいて。
私だって馬鹿じゃないのよ。
『証拠はあるの?。ダブルナイトは命の恩人なのよ。』
『は、先ほど情報局支部からビジョン・FAXが届きまして・・・。これを見
て下さい。』
ロッドさんが右の胸元から取り出したのは、縦横10センチメートル、厚さ3
センチの黒い小箱で、薄い蓋を開けて私の右手に握らせる。
(ビジョン・FAXというのは通信回線からの画像と音声を取り込み、再生す
るための装置だよ。)
小箱の内側にはディスプレイが、本体の方には16のスイッチが見える。
メインスイッチを入れると、ディスプレイに情報局の制服?を着たおねーさん
が映っている。
『ロッドさん、そちらの様子はどうですか?。』
『目標を発見しました。資料の準備は出来ましたか?。』
ロッドさんの声も入っている。
『それでは、ニュースからご覧下さい。』
映像が切り替わり、ニュースキャスターが現れた。
『続きまして、2日前に発見された遺体についてお知らせします。警察の調査
により、あの場所で戦闘があった事が確認され、現場調査により男性の1遺体が
発見されました。解剖の結果、死因は心臓に達した刺し傷と判明。内臓の持病か
ら、かなり身分の低い人物と考えられていましたが、銀河警察の犯罪者リストと
照合した結果、ソウル・イーターと呼ばれる暗殺者と判りました。今となっては
彼の目的は判りませんが、あの場所で誰かと戦ったのは事実のようです。星系内
で暗殺者の仲間と思われる人物も目撃されており、警察では仲間割れか暗殺失敗
によるものとみて捜査を進めております。次は・・・。』
ここで画面が切り替わり、先程の女性が映った。
『情報局の調査によれば、星系内に潜入したのは2名。彼らの目的は少女の誘
拐及び暗殺。』
『ナンセンスだ。2つの任務のどちらかは必ず失敗する。』
ロッドさんの抗議を受け、女性も首をかしげながら答える。
『同感ね。資料によれば、暗殺者以外に少女を狙う人物がいる可能性100%
。これはあなたの事かしら?。それを計算にいれた暗殺者達は2重の罠を張った
らしいわ。ソウル・イーターの目的は少女の暗殺。あなたの行動がもう少し早か
ったら、彼と対戦していたわね。もう一人の暗殺者はマリオネットと呼ばれる人
物らしいわ。それが人形使いの人形を意味するように、催眠術を得意とする暗殺
者。他人に催眠術をかけて操ったり、自分自身に催眠術を掛け、他人になりすま
して暗殺をするらしいわ。』
『自分に催眠術をかけたら誰がそれを解くんだい?。第一、暗殺者以外の人物
になりきってしまったら、暗殺できないだろ?。』
そうよそうよ、その通りよ。
『キーワード(合言葉)を使うらしいわ。それを聞いた時、暗殺者の人格に戻
るって書いてあるけど?。彼の最初の目的が誘拐で、自分を取り戻した時、少女
を殺すのでは?。それに、情がうつらないように、心にガードをかけていると考
えられるそうよ。』
そう言われると、ダブルナイトの態度は冷静で、よそよそしい所があるわ。
『ではなぜ仲間であるソウルイーターを殺したんだ?。』
ロッドさんの言う通りだわ。仲間を殺すなんておかしいわ。
『う〜ん、難しい質問ね。こういうのはどう?。マリオネットは計画を完璧に
するために、ソウル・イーターと自分自身に催眠術をかけた。互いに相反する目
的を持った男達になる事で、片方が死んでしまった。』
『それで・・・ボスはこれからどうしろと言ってた?。』
女性は首をすくめて見せる。
『少女を保護しろって。でも、少女にどうやって納得させるの。彼女と一緒に
行動している人物には暗殺者としての自覚もないし、彼女を保護しなければなら
ないと思いこんでいるのに。』
でも・・・キーワードさえ口にしなければ、ダブルナイトはダブルナイトのま
まって事よね。
そう思うんだけど、ロッドさんの言葉が恐い。
『マリオネットが少女にどんな嘘をついて協力させているのかが分からない以
上、下手に行動を起こすと逆効果になりかねないんだけど・・・やってみよう。
新しい情報が入ったら、いつもの方法で連絡をくれ。』
『ではまたね、ロッドさん。』
その一言と共に女性の姿が画面から消え、砂の嵐が映った。
それじゃ、悪者がダブルナイトで、私を暗殺しようとしていたの?。
そういえば、変に人気のない所に私を連れていきたがるし、ピリピリしてるし
。
暗殺者は暗殺の現場を見られないようにするし、疑われないようにするってい
うし・・・。
もしそうなら、今も監視されてるかもしれない。
私が真実を知ったとき・・・でもキーワードを聞かない限り、ダブルナイトは
暗殺者に戻らない。
なにが2人きりの時はおにーちゃんて呼べ、よ。
私を馬鹿にしないでよ。
私はちゃーんと、最初っからダブルナイトが怪しいと思ってたんだからぁ。
・・・ほんとよ。
『これで、少しは理解してもらえたかな、ええと・・・。』
半分ぼーっとしている私の左手から、ビジョン・FAXを取り上げたロッドさ
んは、私の名を言いかける。
『セリルよ・・・。』
私は、自分の名前をつぶやき・・・まだ頭の中が混乱したままだ。
『ええと、セリルさん。多分、彼はあなたを監視していると思いますよ。そう
ですねぇ、例えば隣のイメージルームで。あ、見に行かなくてもいいですよ。そ
れに、自覚のない彼は危険じゃない。』
そうかもしれない。でも、どんな顔で会えばいいの。
あの人さらいも私も、今まで(といっても数日だけど)のように話ができる訳
ない。
『話はここまでにしましょう。何かあったら連絡しますから。』
ロッドさんの話は終わり、私は解放された。
それとも、これから人さらいに拘束されるのかしら。
『あ、あの・・・。』
私は何を言いかけたのかしら。
シュッという音と共に扉が開き、ダブルナイトが現れた。
外から開ける事は無理なはずなのに。
ロッドさんは動きを止めているし、ダブルナイトは虚を突かれてびっくりして
る。
あの大男は・・・その手に握ったリモコン装置を床に落としながらダブルナイ
トの足を引っかけ、バランスを崩させて中に引き入れる。
それは一秒にも満たない一瞬の出来事で、体を自由に動かせたのは大男だけだ
った。
『ま、まさか。』
ロッドさんは呻く。
『その手に持つのは受信機。そうか、少女の青い蝶の髪飾りが発信。』
ロッドさんはそこまでしか言えなかった。
『グァアアッ。』
ダブルナイトの顔が歪み、口からよだれを流し始めた。
『キーワードだっ。青い蝶の髪飾りがキーワードだったんだ。』
ロッドさんの言う通りだわ。私は恐ろしさに身震いした。
きっと近い将来に、パスワードを口にしていたわ。
そして、なにも知らない私は殺されていたわ。
『さ、早く来るんだ。』
回りを見渡すと・・・あの大男が本性を現したダブルナイトと両手を組み合わ
せ、力比べをしている。
ロッドさんは私の右腕を引っ張ると、部屋の出口まで誘導し、廊下を走りだし
た。
私が最後にダブルナイトを見た時、暗殺者は大男を力でねじ伏せるところだっ
た。
『こ・・・これから、どうするの?。』
走りながらの質問に、ロッドさんは前を見たままで答える。
『わたくしの部屋に行こう。そこには多少の武器と通信機がある。応援を呼べ
ばどうにかなる。』
『ダブルナイトいえ、暗殺者とあの背の高い人はどうなるの?。』
『あの同僚は、覚醒した暗殺者に勝てないだろうな。しかし、時間稼ぎにはな
る。あいつもそれなりの覚悟をして仕事をしているからな。応援が来るまでは船
内を逃げ回るしかない。応援がきたら、仇をうつ!。』
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9.ダブルナイト
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