プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章
☆☆☆ 22.シルバー・レンジャー ☆☆☆
銀河をまたに駈け、窮地に陥った人々や生き物達を、安全な場所へと誘導す
る。
それがオレの仕事さ。
本人の意志に関わらず、要望さえあれば、どんな所からでも救出してみせる。
人助けを商売にしてるが、悪意をもって人さらいと呼ばれた事もある。
俺が生き物を扱うのに対し、ダブルナイトは無機物を扱う。
本人が言うには・・・宝石等の財宝を悪人の手から救出する、無機物助けだと
さ。
ダブルナイトは・・・ユーモアもあって、明るい奴だけど・・・まじめ過ぎる
分だけ、暗いイメージがつきまとう。
仕事がら、普段から人付き合いが悪いからな。
しかし、信頼できる男には違いないし、女子供には優しいからな・・・本人は
否定しているが。
今回の仕事については、最初に動く敵が暗殺者達だろうと予測され、対暗殺者
要員の中から選ばれた20人の男女が、ダミーを含めた20人の王女を護衛し、
おのおのの目的地目指して誘導している。
ダブルナイトもその1人で、彼の仕事は<恐れの惑星>から<時凍るステーシ
ョン>までの護衛だった。
で、オレは、そこから・・・ある場所までの護衛だった。
オレとしては<時凍るステーション>で待ち合わせしてもよかったんだが、久
しぶりに彼の仕事を見たかったし、セリルを観察しておきたかった。
ダブルナイトの仕事の邪魔をする気はなく、彼がセリルと旅立った宇宙ステー
ションでアドリーム号に乗り、その動向をうかがった。
後でからかうための材料探しも兼ねているけどね。
オレは・・・人付き合いはいいほうだし、事前に彼女の性格について知ってれ
ば、より意気投合し易いから・・・と考えていた。
おかげで・・・食堂での、道化師とのやり取りを観れたし、面白かったな。
ところが、一つの問題が生じた。
暗殺者相手なら、オレよりも彼の方がプロだし、オレの出る幕はなかった。
が、敵の中に・・・彼では持て余すような暗殺者がいると、オレは知ってしま
った。
例えばゴッド・アイ。
奴は現場から引退したとはいえ、本気になれば・・・予知能力を駆使してダブ
ルナイトに挑んできたとすれば、彼でも危なかった。
元々、ゴッド・アイという暗殺者はいなかった。
奴は若い頃、その能力を活かし、暗殺者を暗殺する暗殺者として任務を全うし
てきた。
そして、体力の限界から引退する時期を迎えたが、<貴侯>と名乗る大幹部に
引き留められ、今の名前を手にいれている。
また、過去の仕事から、多くの暗殺者に恐れられ、憎まれてもいる存在だった
訳で、その過去が仲間にバレたら・・・殺されるだろうな。
で、奴は新しい名前と地位、過去を手にいれ、一人の暗殺者として生きる道を
選んだ。
暗殺者というよりは、暗殺チームのアドバイザーかな。
なぜオレが、ダブルナイトでも知らない情報を持っているのか?。
それは・・・オレの能力に関係があるのさ。
そう、オレこそ銀河で優秀なレンジャーであり、超能力者であり、対超能力者
のスペシャリストでもあるからさ。
彼の立場を分析すると・・・ダブルナイト一人の手には負えないだろう。
1対1なら、特殊能力を持つ暗殺者相手でもダブルナイトが勝利すると信じて
るが、その敵が複数となると、どうだろう。
で、彼には悪いと思ったが、密かに手伝う事にした。
内緒で協力しても、どうせ彼の事だから、オレの存在に気づくだろうし、誤解
を招かないためにも、その手がかりとして紙切れを忍ばせておいたが。
オレの能力は、その能力を極めた者と比較すれば低いが、その分、バラエティ
ーに富んでいる。
例えばテレパシー。
厳密にいえば、万能テレパシーなんて存在しない。
力の方向から分類すれば・・・他人の考えを読む力と、自分の考えを相手に教
えてしまう力とに分かれ、その両方を有している者は少ない。
力が働く対象から分類すれば・・・赤ちゃんに働きかける者、子供に働きかけ
る者、若者や老人、男や女、植物人間や睡眠中の人間、植物や動物や無機物等、
様々に分けられる。
やはり、その全てに対して力を発揮できる者となると・・・オレは知らないな
。
オレの場合は親しい知人や超能力者の一部、しかも意識を集中して初めて、相
手の考えを読める。
それも、相手が油断したり、無警戒だった場合に限る。
で、暗殺者の中では、たまたまゴッド・アイの頭をのぞけ、多くの情報を集め
られた。
それ以前からオレは、ダブルナイトの敵が危険すぎると感じてはいたが。
ある時は、ダブルナイトの後を追うロッドが、靴の裏から大きなローラーを出
した現場を見た。
その時オレは、ロッドが機械化され、1Gの重力がかけられた船内で、体重の
重さを感じさせないほど軽やかに動けると知った。
相手に疑念を抱かせず、取り入るロッド。
暗殺者達の、ダブルナイトへの波状攻撃。
それだけでも、敵がどれだけの力を持って、暗殺に挑んでいるのかが推測でき
るだろう。
そして今・・・オレ達はセリルが最初に利用した、貴族用の食堂で疲れを癒し
ていた。
それというのも・・・運動のし過ぎでお腹が減っているのと、庶民用の食堂に
は材料があっても料理は出来ていないと信じられるから。
貴族用の食堂であれば、バイキング方式だから、冷めた料理が並んだままだろ
う。
ま、他にも理由はあるのだが・・・それは後からのお楽しみ。
広い食堂の中には、オレとセリルしかいない。
辺りに散らばっている皿やスプーンからすると、貴族達は慌てて逃げだしたな
。
『・・・きったな〜い!。』
セリルが、顔をしかめながら声をあげる。
『仕方ないさ。乗客全員がパニックになって、周りを気にかける余裕なんかな
かったろうし。それにオレ達は、嫁いびりやメイドいびりをしに来たわけじゃな
い。オレ達の目的は・・・そう、わがままなお腹を満足させるため、ここにいる
。そうだろ?。』
オレは綺麗な皿を2つ取り、1つをセリルの手に乗せる。
『違うよぉ。レンジャーさんが、腹へったって・・・。』
そこに、「グゥ〜ッ、キュルキュルキュル!」と、食堂いっぱいに音が響く。
自分で、自分の言葉に反応していたら世話ないな。
『今の音は・・・何かなぁ?。』
『さっ、早くいただきましょ?。』
セリルは顔を真っ赤にしながら、バイキング料理の乗ったテーブルに急ぐと、
オレに背を向けたままで皿に盛りつけ始める。
オレを無視して・・・照れなくてもいいのに。
ま、あまりしつこく責めると嫌われるしな。
彼女の後ろに回り、皿に乗った料理を覗く。
『ほう、大半の子供が嫌う野菜が山盛りだな。これらが食べれるとは・・・見
直したな。』
『レンジャーさんもそう思うでしょ。はい、どうぞ!。』
彼女はクルリと振り向き、料理が盛りつけられた皿を私の左手に乗せ、右手か
ら皿を奪う。
それはまさか・・・。彼女はオレに微笑み、鼻歌を歌いながら・・・美味しそ
うな料理を盛りつけていく。
つまり、これをオレに食えと?。
『あの・・・。』
抗議しかけるオレをセリルがにらむ。
『なによっ。まさか、私が取ってあげた料理を食べないなんて・・・。』
『わっ、判りました!。喜んで食べさせて頂きます。シクシク・・・。』
わざと泣き真似をし、彼女の心をなごませる。
『ふっ・・・きゃはっ。はははっ。はははははっ。』
『さて・・・では、席について食しましょう。』
オレは野菜を口に入れ、いかにも苦そうにかんでみせる。
『ふっ・・・でも・・・椅子なんか・・・なんか・・・きゃははははっ。』
ゴクリと飲み込んだサラダは、やはり苦かった。
『椅子がないと、言いたいんだろう?。椅子は・・・探すのではなく、作るの
さ。』
汚れたテーブルクロスの一部をめくると、綺麗な木目の模様があらわになる。
大理石のテーブルは豪華に見えるが、その材質は熱い料理を乗せるテーブルに
は向かない。
熱を吸収した大理石は変色し、歪み、やがては割れる。
が、木製のテーブルは・・・歪みはしても、割れたりしないし、柔らかさがあ
る。
俺はその上に座り、彼女に声をかける。
『どうだい?。』
『お行儀悪い〜っ。』
セイルは言葉とは裏腹に、オレの隣にチョコンと座り、手に持った皿の料理を
フォークで口に運ぶ。
『行儀とは、そこに住む人々が決めたローカル・ルールだ。今、ここにいるの
は?・・・オレ達2人。だから、オレ達がルールを決めるのさ。』
そしてオレも、皿の上のわずかな肉を口に放り込む。
『それで、何故お前がここにいるんだ?。船はどうした!!。』
料理を飲み込んだ後で、ダブルナイトがオレに質問をぶつけてきた。
入り口に立ち、息を切らせながら安堵の表情を浮かべている。
そして、息を整えながら近づいて来る。
船は・・・アドリーム号のコースに合わせ、自動操縦で後を追わせてあるよ。
『決まってるさ。トーちゃんの仕事ぶりを見学に・・・。』
「ダンッ。」
彼は左手でテーブルを叩き、セリルは驚いて首をすくめる。
『バーちゃんのせいで・・・任務が失敗したら、どうするつもりだったんだ?
。』
『ちょ、ちょっと待ってよぉ。』
話しの腰をセリルに折られたダブルナイトは、その不機嫌な表情を彼女に向け
る・・・左手にフォークを持ったままで。彼女は何をいいたいのかな。
『ダブルナイトとシルバー・レンジャーは、どういう関係なの?。レンジャー
さんはダブルナイトをお父さんと呼んでるし・・・ダブルナイトはシルバーさん
をおばあちゃんと呼んでるし・・・。宇宙では、時間は一定じゃぁないから・・
・歳の近い親子なの?。』
そのまま、オレ達は声をあげて笑いだした。
確かに彼女の言う通りだ。
ここに、一組の親子がいたとしよう。
親は宇宙船に乗り、光に近い速度で宇宙旅行をして、子供達の前に戻ってくる
。
ほとんど全ての物体は、光の速度に近づいた分だけ、時間の経過が遅くなる。
で、親子が再会した時には、歳が近づいていたり、逆転していたりする。
それでも、親子の関係は一定で、それが逆になる事など、考えにくい。
だから彼女は混乱しているのか。
『それは・・・。』
『まぁまぁまぁ・・・。』
説明しかけるダブルナイトを制し、オレがセリルにお話を聞かせる。
『ある所に、じいさんと孫の、2人の猟師が住んでいた。じいさんは猟師で2
0才で結婚、21で子供を得る。その息子が3才の時に宇宙に飛び出し、様々な
生き物を狩るハンターになった。彼の息子は惑星上で育ち、大人になり、結婚し
て子供をつくった。が不幸にして、ばあさんと彼と妻は亡くなり、残された孫を
育てるため、じいさんは故郷の星に戻り、大きな無人島で暮らすことにした。そ
の時、じいさんは27、孫は20才になっていた。ある時彼らは、砂浜で2人の
女性の足跡を見つけた。どうやらそれは、難破した船からの生存者らしく、交通
手段も通信手段もないこの島では生きてはいけないだろうと2人の男は考えた。
で2人は、同じ島で生活するであろう彼女らを見つけだし、保護し、結婚する事
に決めた。しかし、見つけてから相手を選ぶのでは、親子の間にひびが入る恐れ
がある。そこで、じいさんは宣言した。わいは足跡の大きい方を嫁にする。お前
は足跡の小さい方を嫁にしなさい。こうして2人の女性は保護されたのだが・・
・なんと、その2人は姉妹で、足の小さい方が姉だった。しかし、約束は約束。
こうして2つのカップルが誕生したのだが・・・姉にとっては妹が義理の母親、
妹にとっては姉が義理の孫に・・・。』
『もうやめてっ。これ以上聞いてたら、頭がパニクっちゃうわっ!。』
セリルは叫びながら、頭をかきむしっている。
はっはっはっ。面白い、面白いぞぉ。
『・・・つまり、あだ名だよ。』
ため息混じりに、ダブルナイトが説明しだした。
『ダブルナイトの語尾が”ト”、シルバーの語尾が”バー”だから、たまにそ
う呼び合うのさ。』
セリルは納得しながらも、まだオレを睨んでる。
ここは少し、機嫌をとっておこう。
『ごめんよ。つい、可愛い令嬢を見ると・・・からかいたくなるんだ。』
つまり、悪いのはオレではなく、あまりにも可愛い、君の美しさなんだよ・・
・と、暗にほのめかすわけだ。
すると・・・大概の女性は、あら、そうかしら・・・なんて思いこみ、オレは
無罪放免、となる。
現に・・・セリルの顔に赤みがさし、照れている。
はっはっはっ、女であれば、彼女の年齢になく口説き落としてみせるぜ。
そのオレの手から・・・皿が消えた。
ダブルナイトは、それをオレからヒョイと奪うと・・・近くにある綺麗なフォ
ークで、オレの料理を口にかき込む。
『それって、セリルがオレのために・・・。』
『ぷっ・・・くっ・・・きゃ〜っはっはっはっ!。』
『ふ・・・く・・・くくっ・・・は〜っはっはっ・・・はっははははっ。』
セリルとオレは笑いだし・・・毒茸で神経が冒されたように、笑いが止まらな
い。
だ・・・ダブルナイトは・・・野菜を詰め込んだ口を、いかにも苦そ〜って歪
めている。吐きだしたいんだろうが、奴の受けてきた教育が、それを許さない。
でも吐き出したい。
そのジレンマに襲われ、情けなさそうな顔になってるぞ。
『トッ、トーチャンッ。』が、彼はオレの言葉を待たず、「グビッ」と大きな
音を立てて飲み込む。
彼は何もなかったように振る舞っているが、目に涙がたまってるぞ。
それが、更に笑いを呼ぶ。
『はははははははっ、はーはっははははっ・・・はははっ。』
『きゃはははははははははは腹が痛〜いっ、ったらっく、・・・きゃ・・・き
ゃ・・きゃははは〜っ。腹が痛いよぉ。助けてよう。・・・は・・・は・・・き
ゃはっきゃ・・・ーはははははっ。』
『あー・・・そろそろ、いいかな。』
生真面目な彼の言葉に、止まりかけていたセリルの笑いがこだまする。
『そっ、そろそろ・・・って・・・きゃははははーっ。もうダメ。誰か私を殺
してっ。きゃははははーっ。もう・・・と、と、と、・・・とまりゃにゃいにょ
ほほほほほーっ、ほっ、ほっ・・・私は・・・ゴリラじゃないわっ、わっ、わは
っ、はははははーっ。』
そしてそのままオレ達3人は・・・十分近くも笑い続けた。
何とか笑いを堪えても、あと2人の笑い声に邪魔されて、結局笑ってしまう。
その間、敵の攻撃はなく、心身共にリラックスできたのが幸いだった。
『まだ食べたりな〜い!。』
両手にナイフとフォークを持ち、抗議するセリルにダブルナイトが注意する。
『腹に詰めすぎると、急激な運動が出来なくなる。反射神経が鈍り、体が思う
ように動かなくなる。勘が鈍り、思考力が鈍る。そんな事では暗殺者から逃げき
れないぞっ。』
『だって・・・だって!!。』
生真面目なダブルナイトとわがままなセリルがぶつかると・・・不毛だ。
『まぁまぁ、可愛い小豚ちゃん。それ以上まるまると太ったら、さあたいへん
。暗殺者から逃げるには、走るよりも転がった方が・・・。』
そんなには太っていないが、セリルには効くだろうな。
『・・・わかったわよぉ・・・。』
『そんなにすねなくてもいいから。』
あちゃ〜っ。ダブルナイトも、火に油を注ぐような事を・・・。あまりダイレ
クトに核心を突くと・・・セリルの機嫌が悪くなる。
セリルを今の内に再教育する気持ちもわかるが、今はまずい。
『この事件が片づいたら、おもいっっっきり美味しい紅茶を入れてあげよう。
確か・・・ホット・イチゴ・ミルクティーが好みだよね。おにーさんが作るダイ
エット用、ウルトラ・スーパー・ゴージャス・ビューティフル・ファンタスティ
ック・ホット・スィート・フルーツ・ミルクティー・シルバー・レンジャー・バ
ージョン・スペシャルVをご馳走しよう。』
そんな長ったらしくって、うさんくさい名前の飲物はないが、セリルのセンス
に合わせて言ったまで。
『ほっ、本当?。ほんとに本当?。』
とたんに瞳をキラキラさせて喜ぶセリル。
『そうよね。それなら、それを入れる場所を空けておかなくっちゃ。』
う〜ん、単純で扱い易い子供だ。
ダブルナイトにとっては扱いにくいだろうけど。
しかし・・・ドリンクの名前は嘘八百といってしまえばそれまでだが、美味し
い飲物を作るのだから同じ事・・・かな?。
セリルはオレの腕をブンブンと振り回し・・・ダブルナイトは、やれやれ・・
・と首を横に振っている。
オレはセリルに気づかれないように、ダブルナイトに目で合図を送る。
これで一段落か。
『私はアドリーム号の船長だ。セリル達は今、0号食堂にいる。もし暗殺者諸
君が聞いているなら・・・これ以上の破壊は止め、仕事を終えて早々に立ち去っ
てもらいたい。』
スピーカーを通して流れてきたあの声は、まさしく船長本人のもの。
『くっ、奴めっ。何が”お客である以上、礼儀を尽くす”だ。あいつには、船
長としての誇りがないのかっ。』
セリルは目を丸くし、ダブルナイトは怒りをあらわにしている。
気持ちは理解できるが、だからといって、オレ達に何が出来る?。
それに、オレにとっては都合がいいのさ。
『お前は悔しくはないのかっ。』
いつの間にか、ダブルナイトはオレを見つめている。
いかん、いかん。オレも怒ってみせないと・・・。
『まったくだ。オレ達客を・・・でも、暗殺者達も客かぁ。』
おっと、ダブルナイトの表情が厳しくなる。
彼は本気で怒っているが、その相手はオレではないし、オレという人間を信用
してもいる。
ま、一時的な怒りだし、大きな目でみれば・・・ダブルナイトもきっと理解し
てくれるさ。
『君らには・・・すまないと思う。しかし、会社の持ち船を破壊させるわけに
はいかんのだ。』
船長の声は、オレ達の会話に反応している。どうやって・・・。
『サービス・センターだ。あそこには、船内の主な設備を監視するモニターや
集音装置がある。』
ダブルナイトの言う通りだ。
本来は船内の様子や乗客の様子を監視するための物だが、こういった使い方も
できるのか。
『ではまさか・・・暗殺者もオレ達を?。』
そういう事なのか?。
『ちっ、余計な事をっ!。』
あれは、エンジェル・ウィングの声だ。
なぜ彼女の声が、スピーカーを通して聞こえてくるんだ?。
『まさか・・・船長と暗殺者が・・・。』組んだのか?、と言いかけたが、船
長の声がそれを否定する。
『私は一人だ。私は自分の命を惜しむ人間ではないし、死に急ぐ人間でもない
。私は・・・船長として人間の命を大事にするし、会社の資産である船を犠牲に
するつもりもない。少なくとも、君達のうち一人は、私の気持ちを理解してくれ
るはずだ。・・・放送は、これで終了する。』
『あたしは終わらないわよ。デス・ナイトにヒドラ!。私の声が聞こえてるは
ずよ。さっさと食堂に行って、皆殺しにして!。5分もあればたどり着けるでし
ょ!。やつらが逃走したら、あたしが教えるわよ。』
なんて女だ。
セリルよりも性格が悪い。
それにしても、エンジェル・ウィングはデス・ナイトの部下じゃなかったのか
?。
『あたしに逆らう気?。娘の命が、どうなっても知らないよ。あんたの娘は、
<貴侯>様の手の中にあるんだからね。あまり逆らうようだと・・・殺させるわ
よ。』
???。
立場が入れ替わっているのか?。
それとも・・・ダブルナイトの集めた情報が間違っているのか?。
『デス・ナイトには・・・そうねぇ。忠誠を見せてもらうためにも、セリルを
殺しなさい。何を言っても無駄よ。さっきまでの、私に命令していたデス・ナイ
トは何処へいっかのかしらぁ。』
これはどうやら・・・エンジェル・ウィングとデス・ナイトの会話のようだ。
デス・ナイトの言葉は聞こえなくとも、彼女の言動から、彼が何を言っている
のかは想像できるな。
『そうそう、最初から素直にすればいいのよ。では、セリルの生首を持ってき
て頂戴。』
彼女の言葉に、セリルはおびえてダブルナイトの陰に隠れ、ブルブルと小刻み
に震えている。
あれだけわがままを言いながらも、いざとなるとダブルナイトを信用している
と感じられる。
『・・・おにーちゃん・・・。』
セリルはそう言いながら、ダブルナイトに抱きついた。
そして彼は、彼女を優しく抱きしめる。
・・・まいったなぁ、オレの出番がない。
しっかし・・・エンジェル・ウィングの声は止まらない。
『やっぱり止めたわ。あんたにセリルを殺せる訳ないし、あたしを騙してでも
セリルを逃がそうとするでしょ?。あんたには・・・そうね、ダブルナイトの相
手をしてもらうわ。ヒドラ、あんたは・・・あの・・・緑の髪の男を・・・始末
しなさい。いいえ、やっぱり、ダメよ。2人でダブルナイトを殺すのよ!。緑の
男は、あたしが気晴らしに殺してあげる。その後で、あたしがセリルを殺します
。それも、ダブルナイトが死んだあとで。セリルの生死を気にしながら、任務を
放棄するように死んでいくのは、さぞ無念でしょうねェ。』
「ひゅ〜っ。」オレは軽く口笛を流し、眼に見えない彼女に向かって、お辞儀
をする。
『君がオレの相手をしてくれるとは、ありがたいな。オレが愛情をもって、君
を更正しよう。』
あれ、ダブルナイトは顔をしかめている。
ちょっとキザだったかな。
『・・・あいつは・・・男だ。』
???。
ゲゲゲッ。
それは・・・勘弁して欲しいな。
『気が変わったわ。あんた達には、おもいっきり苦しみながら死んでもらうわ
。』と、エンジェル・ウィングの怒りに満ちた声。
げっ。
どうやら・・・オレとセリルのリアクションが、彼女・・・奴の気に触ったら
しい。
気に触ったのはこっちもだぞぉっ!。
そう叫びたい気持ちを押さえ・・・努めて冷静に話す。
『美人は好きだが・・・女装男はオレの守備範囲外だ。というわけで、ここは
ダブルナイト君にガンバッてもらおう。セリルの事はオレにまかせ、自らの純血
を守るため、死力を尽くしてもらいたいっ!。コピポニラのように!!。』
『ふっ。』と、セリルの笑い声が漏れる。
ダブルナイトの顔色は悪いが、オレのブラック・ユーモアで、彼女の恐怖心が
少しでも和らいでくれれば・・・。
『ねぇねぇ、コピポニラってなぁに?。』
ふっふっふっ。話に乗ってきたな。
『それはだね・・・。』
ダブルナイトの呆れたような顔をちらっと見、オレはほらを吹く。
『生き物の名前でね、直径が約3センチ。』
セリルは何もない宙を見つめながら、自分なりに想像し始めている。
『丸くって緑色でブニョブニョしてて長〜い尻尾がある。2本の足はスラッと
した毛むくじゃらで、4本の腕でゴマをする。2つの触覚の先端は風船のように
膨らみ、宙に浮く。2枚の羽で体を移動させ、「ホニャピーホニャプー」と鳴き
ながら飛び回る。それはまるで・・・』
『それって、嘘でしょっ!!。・・・きゃははははははっ。』
そーら、笑った。
!!!。
オレ達は気配を感じて、入り口の方へと振り返る。
そうだっ、彼らは・・・エンジェル・ウィングと言い争いながらも、ここを目
指して走ってきていたんだ!。
ヒドラと・・・ゼーラムと名乗っていたデス・ナイト。
ヒドラが自信満々でいるのに対し、デス・ナイトの表情は曇っている。
『う・・・嘘よね?。ゼーラムさんは私達と一緒にいたんだから、デス・ナイ
トのはずない!!。』
もし、彼女らがゼーラムさんと行動を共にしていた時、デス・ナイトに襲われ
たのが事実なら・・・同感だな。
『いや、ゼーラムが・・・デス・ナイトだ。』
ダブルナイトは断言するが、では、どう説明してくれるのかな。
どっちにしろ、ゼーラムがここに現れた事実から、彼がデス・ナイトであると
結論を出すしかないが。
『・・・いつ、気づいた?。』
『奴に言われてからだが・・・今にして思えば、そう推測できる材料があった
。』
ダブルナイトはデス・ナイトの質問に答え、続ける。
『ヒドラが、その正体を現し、オレを襲った時の事だ。あの時、俺はブラック
・ガーディアンのガーブクに助けられた。そうすると・・・ゼーラムさんの言葉
と矛盾する。ゼーラムさんは、自分だけがセリルのガードだと言った。しかし、
それなら何故、あの場所にガーブクがいたんだ?。偶然か?。その可能性は限り
なく0に近い。たぶん、ガーブクこそが俺達のガードで、専用の通路を伝って俺
達を監視していたんだろう。そうすると・・・ゼーラムさんはどうなる?。』
『君の言う通りだ。おれはブラック・ガーディアンとして雇われはしたが、君
達をガードする役にはつけなかった。そこで、船内での地位を利用しながら、独
自に行動する必要に迫られた。おれは君達に近づき、船長と接触するのを仲間と
共に邪魔してきた。あるいは協力し、情報やデマを提供してきた。』
なる程ね。
納得は出来るが・・・かわいそうなセリルは必死に涙を堪えている。
『図書室に避難し、再会した船長の言葉からも、ゼーラムが信用できないと判
断できてたはずなんだ!。船長はあの時、ゼーラムさんが自分の職務を果たして
いないと注意していた。しかし、ゼーラムさんの言葉を信じれば、俺達をガード
するのが科せられた使命なはずだ。』
しかし、そこまで頭を働かせる余裕など・・・なかったろうな。
ダブルナイトを責めれないし、落ち込む必要もないと思うのだが。
つまり・・・。
俺が口を開くより早く、ダブルナイトが結論を出した。
『つまり、あの時の甲冑男はデスナイトではなく、あの時活動できた唯一の暗
殺者、ヒドラだった。』
それしか考えられないな。
ダブルナイトの話では、現場にいたのはロッド=マリオネットとゼーラム=デ
ス・ナイト。
エンジェル・ナイトの性格と体格から考えれば、彼が化けたとは思えない。
『おじさんの、娘の話も嘘なのっ!。』
セリルは怒りを込めてゼーラムを問いつめるが、彼は静かに首を横に振るだけ
だ。
さっきの、女装男との話を聞いていれば、彼が真実を言っているとわかる。
だからといって、セリルを殺させたりは出来ないし・・・彼も、かわいそうな
男だ。
『できれば・・・セリルを逃がしてやりたかったが、今はそれも出来ない。エ
ンジェル・ウィングが、無人の救命艇を全て発進させた。もう、おれには何もで
きない。娘の命を守るため・・・苦しまずに・・・。』
『そんな事はさせない!。』
ゼーラムの身勝手な言葉にダブルナイトの怒りが飛ぶ。
『あなたは・・・自分の娘さえ助かれば、それでいいのかっ!。』
『・・・おれは、娘のために両手を血で染めてきた。今更、正義に目覚めるつ
もりもない。おれにとっては、娘の命が全てなんだ。君も・・・私の立場になれ
ば、同じように考え、行動するだろう。軽蔑したければするがいい。それでもも
し、娘が生きながらえるのであれば・・・。』
誰がデス・ナイトを責められる。
親が子のために全てを投げ出すのは、当然の行動だ。
それに、彼も充分悩み、苦しみ続けてきたはずだ。
だからといって、殺人を容認はできないが。
『シルバー、ここは俺に任せ、セリルを連れて逃げてくれ。俺は彼らと対決し
てから後を追う。』
対決してから・・・か。
倒してからではなく、対決してからか。
2人の暗殺者を同時に倒す自信は無い、と。
それでも、ここは彼に敬意を示して、望む通りに行動しよう。
ただ・・・彼女は納得しないだろうな。
それに、そのうす汚れた白いドレスでは走り難そうだし・・・。
『きゃっ!。な、何をっ・・・。』
オレはセリルに突進し、対処する間を与えずに抱き上げる。
『トーちゃん、任せた!!。』
そう叫び、彼女の金髪がオレの視界を塞がないように注意しながら、そのまま
つっ走る。
食堂の出入口は2つ。
その1つにはデス・ナイトが待ち受けている。
後の一つは・・・ダメだ。
奴らに先回りされる。
それなら・・・。メイドが使う、厨房へのドアを抜け、そこからシェフの控え
室を目指す。
シェフ達が、食堂の出入り口を使うわけはない。
『ちょっ、ちょっとぉ、降ろしてよぉ!。』
今は立ち止まれない。
背後からの殺気は感じないが、ダブルナイトの心の負担を軽くするためにも、
食堂から急いで離れなければならない。
ではシェフの専用通路から脱出するのか?。
暗殺者の力を見くびる様な真似は出来ない。
ダブルナイトの話によれば、現在船内に残っている暗殺者は3名。
うちデス・ナイトとヒドラは、食堂でダブルナイトと対戦中。
残るエンジェル・ウィングは仲間からの連絡を受け、オレの先回りを考えるだ
ろう。
仮に、やつがまだオレ達を監視しているなら、時間的にみても先回りは不可能
だ。
そこでオレは、シェフの控え室には逃げ込まず、穀物貯蔵庫へと進路を変える
。
野菜や肉類の搬入は、食物の安全性を考慮し、同一の専用通路から貯蔵庫へと
行われる。
厨房やシェフの控え室からでは、ドアが狭すぎて貯蔵庫まで運べない。
また、そんな所から運び込めば、途中でカビや細菌に冒される可能性や毒物を
混入される危険性もある。
そのため貯蔵庫への通路は、貯蔵庫側からのみ鍵が掛けられ、外部からの侵入
を不可能にしている。
逃げ込む先は肉類の貯蔵庫でもよかったが、あそこは寒いからなぁ。
『い・・・いいかげんにぃ・・・降ろしてよっ!。』
全力で走るオレに揺られて、セリルも喋りづらそうだ。
そうだな・・・ここまで来ればいいだろう。
充分離れたとはいえないが、オレの腕が痺れ、セリルをかばえなくなるとまず
い。
それに、思ったほど暴れなかったしな。
『よっと。』
オレは静かに彼女を床に降ろし、顔色を伺ってみた。
彼女は・・・無表情でドレスをはたき、気丈さを見せつけるが・・・からだ全
体が微かに震えている。
怖いのか?。
いや、違う。
彼女の視線は後ろ・・・厨房へと続く通路へ注がれている。
ダブルナイトの事が心配なんだな。
『なっ、なによぉっ!。私をジロジロと見ないでよっ。』
オレの視線に気づいたセリルは抗議してきたが・・・ま、いいじゃないか!。
『さて、それでは参りましょうか、お嬢様?。』が、彼女の表情は固いままだ
。
『何処へ逃げると言うの?。救命艇は全て破壊されたんでしょ?。それに、ど
うしておにーちゃんと一緒になって戦わないのっ?。2対2で、暗殺者を倒せた
かもしれないじゃないっ。それに・・・私だって、自分の身ぐらい守れるわよっ
!。』
『・・・君の言う通りかもしれない。だからといって、俺達全員で彼らと戦っ
ても、すぐにエンジェル・ウィングが戦列に加わり、こちらの方が不利になる。
だが、ダブルナイトが二人を引きつけてくれたおかげで、オレはエンジェル・ウ
ィングと1対1で戦える・・・もし、奴が攻撃してきたらの話だけど?。』
しかし、彼女はまだ納得していない。
『だったらシルバーさんが残って戦えば良かったのよっ。』
あのねぇ・・・。
『これはダブルナイトの仕事で、まだオレの仕事じゃぁないの。彼にも仕事に
対するプライドがあるし、オレは彼を信用している。それともセリルは・・・ダ
ブルナイトが殺されるとでも思うのかい?。』
『う・・・それは・・・。』
セリルはまだ、オレがダブルナイトを見捨てたと思っている。
しかし、これが正しい選択で、ダブルナイトと生きて再会できると信じている
。
だから・・・オレの言葉に反論できず、視線を外らして何も言わない。
貝のように固く口を閉ざし・・・このままでは、オレは彼女に嫌われてしまう
な。
ま、しゃあないか。
『先を急ごう!。』
眼の前に立ちはだかる扉の巨大な閂(かんぬき)を外し、両手で押し開ける。
旧式の鍵ではあるが、逆に信頼性が高いといえる。
電子式のキーは騙し易く、ヒドラであれば簡単に開けるだろう。
しかし、丈夫な閂を外部から開ける手段はない。
その扉を開けるには、扉自体を破壊するか閂を切断するしかない。
どちらの手段を取るにしても、扉の一部が高温または低温になる。
で、扉近辺の空間を熱量監視装置で調査し続け、室温の急激な変化を感じたら
ガーディアン達が出動し、シェフが食料のチェックを行えばいい。
『さあ・・・?。』
オレが前に立って歩くよりも早く、10メートル先の閂を目指して走り出す。
暗殺者から逃げだそうとしてではない。
ダブルナイトがセリルを気にする事なく戦えるようにするため。
それとも、泣き顔をオレに見られたくないからか?。
閂の前で顔をゴシゴシと拭いている彼女の横に立ち、彼女の顔を見ないように
・・・天井を見つめながら問いかけてみた。
『泣いてるのか?。』
『泣いてなんかいないもんっ!。』
その声は震え、明らかに涙声になっているのに強がっている。
『エンジェル・ウィングの武器について教えて欲しいんだがなぁ。』
『ひぃ・・・いいわよっ。あいつのびゅき(武器)はねぇ・・・羽の形をした
爆弾。』
ば、爆弾???。それを投げてくるわけか。
『もっと詳しく教えてくれないかなぁ?。』
重い閂を外し、「ギギイイィ〜ッ」と音をさせて開きながら質問を繰り返す。
『そ・・・それはね・・・。』
セリルが答える前に、5枚の赤い羽が縦一列に、扉の向こうから飛び込んでく
る。
これかっ。
「ボンッボンッ!」と5回の爆発音が響く。
『キャーッ』とセリルの悲鳴。
そしてオレは・・・エンジェル・ウィングの不意討ちから身を守るため、左手
でセリルを引き倒し、右手で支える閂で羽を受ける。
それらは閂を破壊できなかったが、その爆風でオレの体にダメージを与え、後
退させるのには成功した。
手から離れた重い閂がオレに向かって倒れてくる。
「ガラガラアアアァ〜ンンン」そう音をたて、床の絨毯を切り裂きながら横た
わる。
これが・・・女装男の武器かっ。
『キャアアアッ!。』とセリルの悲鳴。
???。
『どうし・・・。』言葉が最後まで出ない。
扉の向こうから現れたエンジェル・ウィングが、倒れていたセリルを起こすと
、その喉元に黒い羽の根元・・・長さ5センチの細い針のような刃を突きつけて
いる。
しかし、なんてセンスの無い服装だ。
バニーガールの様な服の上に、羽が付きまくったコートを羽織っている。
また、全身編みタイツの様な衣裳の腰には、太くて長い黒い鞭が2本ついてい
る。
『おほほほほほほっ。獲物は私の手の中よっ。』
それはオレやセリルにではなく、通信機を通して仲間に告げている。
報告か?、それとも自慢か!?。
『動かないでね、ミドリちゃん。』
ミドリ?。それは・・・緑髪のオレの事かぁ?。
『そうよ、貴方の事よぉ。すぐにでも・・・ガキを殺し・・・かたずけたいん
だけどぉ、怒り狂う貴方と戦うのは愚かだと思わない?。それよりも貴方、私の
仲間にならない?。』
これはご丁寧にどうも。
しかし、ダブルナイトの敵に回るよりは、暗殺者を敵に回した方が得だね。
『せっかくのお誘いだが・・・女装男と仲間になるのは遠慮しよう。病気が移
ると困るからね。』
『ほほほほっ。では、お死になさい。私がガキの命を握っている限り、貴方は
私を攻撃できない。でも、私は出来るわ。』
エンジェル・ウィングの言う通りだぜ。
このままでは・・・。
『動いちゃだめよぉ。』
やつはオレに向かって赤い羽を何十と投げてくるが・・・人質を取られたオレ
は抵抗できない。
抵抗は出来るんだが、セリルがどう行動するのか、ダブルナイトやオレが命を
賭けてまで救う価値があるのかを見きわめたい。
全ての命には救う価値があるとオレは信じているし、セリルがどう反応しても
、ダブルナイトとオレはセリルを助けるだろう。
「ボムッ・・・ボムッ」とオレの回りで無数の爆発が発生し、オレの体は熱風
で翻弄され続ける。
『シルバーさーんっ。に・・・逃げてーっ!。』
『逃げたらガキを、くびり殺すよっ!。』
エンジェル・ウィングは厚化粧した顔を恐ろしく歪めてすごむ。
さあ、どうするセリル?。
『!!!。』と、エンジェル・ウィングの声にならない悲鳴。
『???。』
これは、セリルの行動に対するオレの戸惑い。
彼女は・・・何処で覚えたのか・・・背後から抑え込むエンジェル・ウィング
の股間に、右足の白いローヒールをめり込ませ・・・。エンジェル・ウィングは
両手で股の付け根を押さえながら、その場にくずおれる。
オレも・・・いつの間にか、自分の股間を押さえていた。
あれは痛いぞ!!。
あの苦しみは他の苦しみの全てに勝る。
暗殺者から解放されたセリルはオレの背後に回り込み、奴に<あっかんべ〜>
をする。
どうする?。
この、戦闘不能に陥った哀れで冷酷な暗殺者を始末しておくべきか・・・。
今は見逃して、セリルに命の貴さを教えておくべきか。
それよりも、もし奴が身を守る技を知っているとしたら?。
『くっくっくっくっくっ。おーっほっほっほっ。まだまだこれからよ。これで
も暗殺者としての体術は身につけているわ。こういった攻撃からも守るため、急
所を自分の体に取り込めるのよ。でも、痛いものは痛いのよ!。』
やはりな。
奴は何事もなかったかのように立ち上がり、趣味の悪いコートから羽をむしる
。
もう、その一部ははげ上がり・・・鳥肌に近いものが見える。
『たまたま助かっただけでしょ!。』と強気に発言するセリル。
げっ。
本人は気づいていないようだが、低俗なギャグだぞ!!・・・それは!。
だが、エンジェル・ウイングはそれに反応しない。
奴の右手には4つの赤い羽が、左手には青い4つの羽が握られ、いつでもオレ
に向かって投げられる体勢をつくっている。
そしてオレは・・・胸の辺りに焦げめのついたメタリック・シルバーの作業着
に両手を突っ込み、無防備に立ち尽くしてみせる。
『ほほほほほっ。恐怖で気でもおかしくなったんじゃない?。その状態で、私
の攻撃から逃れられると思っているの?。』
空元気はそれまでさ。
オレがその気になれば・・・このままでも、お前を倒せる。
『気をつけてっ。あの青い羽は、触れると融けるの。』
耳元から囁かれる彼女の言葉を無視し、エンジェル・ウィングから目を離さな
い。
奴の武器が飛び道具なら、油断さえしなければオレの勝ちだ。
『やってもらおうか。しかし・・・きっと、後悔するぞ。』
オレの背中から、セリルの震えが伝わってくる。
そして・・・奴の両手から8本の羽が放たれる。
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