プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章
☆☆☆ 20.ダブルナイト ☆☆☆
マリオネットの言葉から解放された俺は、探知機を手がかりに、髪飾りの持
ち主を追う。
マリオネットとセリルのどちらかが、それを持っているはずだ。
例の如く、探知機の光点から、持ち主の先回りを画策し、第3図書室の近くに
先回り、物陰(通路の陰)に隠れる。
ここに現れるのは、セリルかマリオネットか。
やがて、予定していた、人の気配が感じられる。
『やっぱり、入るのはやめにしません?。』
その、少女の声はセリルだ。
口調からすると、誰かと一緒だな。
現在、彼女が信頼している人物はゼーラムさん1人だけだ。
つまり、マリオネットから逃げ出すのに成功した訳だ。
『暗殺者達が、どうして我々がここに潜んでいる事を知るんだ?。ここが一番
安全に決まっている。』
果たしてそうかな。
俺がデス・ナイトだったら、暗殺者の誰かに、2人の後をつけさせる。
それが怖くて、探知機を元に2人の後を追跡できなかった。
まかり間違えば、2人をつける暗殺者と顔を会わせてしまい、セリル達と合流
する前に戦闘になる。
それよりも、セリル達の先回りを考えた方が利口だ。
で、セリルと一緒にいるのがゼーラムさんなら、俺も安心だ。
深呼吸して・・・自然に喋れるようにリラックスする。
『さて、誤解を解こうか。』
そう言いながら俺が登場する。
セリルの目が丸くなってるが、すぐに憎しみの炎を燃やしている。
やはり、マリオネットに騙されてるな。
『やあ、シルバーさん、よくここがわかりましたねぇ。』
相変わらず、元気で陽気なおじさんだ。
『どうです、詳しい話はこの中で交わしましょう。』
しかも優しい。
マリオネットは口調がやけに丁寧で、イヤな奴だったが、ゼーラムさんは違う
。
いつも、言葉の中に誠意が感じられる。
『・・・そうするか。』
セリルの、俺を見る目は冷たい。
どうして・・・こうも簡単に騙されるのか。
彼女を助けようとする俺の気力が、あの視線で萎えていく。
いっそ、このまま帰ろうか。
『さあさあ、入った!、入ったぁ!!。』
いつも、ゼーラムさんのフォローが嬉しい。
俺の心を読んだ様に、俺を促してくれる。
席に着いた俺達は、1つのテーブルを囲んで会議を開く。
まず最初の議題は、俺の無実を晴らす事。
セリルに信用してもらえないのでは、これからの活動に支障をきたすからな。
『始めに断っておくが、俺は暗殺者でも、その仲間でもないぞ!。』
それでも、セリルの俺を見る目は変わらない。
簡単に騙されるくせに、真実の言葉は受け付けようとしない。
『ちゃんと聞いて、知ってるんだからぁ、嘘ついてもダメよ!。』
誰に聞いたというんだ。
どうりで、マリオナットだろうが。
暗殺者の言葉を鵜呑みにしている自分に気づいていないな。
『それは誰に聞いたのかな。もし、ロッドから聞いたんだとすれば・・・何故
、暗殺者であるマリオネットは、自分達に振りになる事を言うんだ?。』
セリルの、自信に満ちた顔色が変わる。
よかった、少しは頭を使えるようだな。
『俺は一生懸命、セリルを守ってきたつもりだが、その俺を信じられないのか
?。』
更にセリルの顔色が変わる。
自信が揺らぎ、不安になっている。
ここでもうひと押し。
『暗殺者は俺達の仲を裂き、疑心暗鬼にさせて、その隙をついてセリルを殺そ
うとしてるんだぞ!。』
あ、やばい。
彼女の表情が、不安を通り越して・・・。
『まぁまぁ・・・シルバーさんも落ち着いて。セリルちゃんの瞳が涙で潤んじ
ゃいましたよ。セリルちゃんもいい子にしようね。』
ゼーラムさんのナイスフォローで、どうやら彼女の泣き顔を見ずに済みそうだ
。
『俺も、シルバーさんが暗殺者だとは思ってませんよ。シルバーさんを信頼し
ている証拠に・・・しばらくの間、セリルちゃんと2人っきりで行動したらどう
です?。』
彼の言う通りだな。
失った信頼を取り戻すため、今まで以上の努力が必要だと。
俺も、言い過ぎたかもしれない。
『・・・ま、解ってもらえれば・・・。』
言葉尻を濁し、この件はうやむやにしよう。
『あのね・・・やっぱり、レモニアさんがエンジェル・ウィングだと思うんだ
けど?。』
やはりそうかっ。
俺は「ガタッ」と音をたてて、その場に立ち尽くす。
『何っ。俺と別れた後、何があったんだ?。』
俺の推理が正しかったと、照明された。
問題はその時、何が起きたのか、だ。
『シルバーさんと別れた後・・・レモニアさんに襲われて、人質にされたの。
だから、レモニアさんが暗殺者よ。現在、正体が分かっていない暗殺者は、デス
・ナイト、エンジェル・ウィング、ゴッド・アイの3人だけで、該当しそうなの
はエンジェル・ウィングぐらいなものでしょ?。それで彼女からは、私の機転で
逃げきれたんだけど、ゼーラムさんとも別れてしまって。その後でロッドさんと
会ってぇ、催眠術にかけられて・・・。』
その時、ロッドの正体に気づいたわけだ。
しかしこれで、素顔の不明な敵はデス・ナイトのみとなる。
『やはりそうかっ。ゴッド・アイの顔は俺が見ているから、セリルの言葉通り
だろう。それからどうした?。』
少し芝居がかってはいたと思うが、それを彼女に印象づけておいた方がいいだ
ろう。
『私の正体を聞かれたわ。嘘はつけなくて・・・ニセ王女だと教えてしまった
の。そしたら、殺すっていわれて。マリオネットから逃げて、またマリオネット
に追われて、船が揺れて2人からにげて、ゼーラムさんと再会してシルバーさん
と合流して、ここにいるの。』
なるほどな。
だから・・・。
セリルが俺を見上げている。
そうだった、俺は立ち上がっていたままだった。
一応、席に着いて・・・と。一つの疑問を彼女にぶつけてみようか。
『で、船が揺れたとき、2人から逃げたと言ってたが、それは誰と誰だい?。
』
一人はマリオネットだとして、後の一人の正体が気にかかる。
タゥーロウ=ヒドラかレモニア=エンジェル・ウィングか。
『え・・・もちろん・・・マリオネットと・・・ヒドラに決まってるでしょ。
その2人に追われたんだからぁ。』
ヒドラが?。
奴はそんなに、船内を動き回っているのか?。
それよりも、彼女の話を分析するのが先だ。
『では・・・』
ゼーラムが何かを言いかけたが、新たな登場人物によって、妨げられる。
『ここで何をしている?。早く救命艇で脱出・・・。』
船長か。
『船長、どうしてここに?。』
ゼーラムの言葉から、動揺が感じられる。
『逃げ遅れた乗客がいないか、確認のため、俺や副船長が船内を回っている。
そういう君こそ何をしている?。早く船内の捜索に出かけんかっ!。』
船長の怒りも当然だろう。
しかし彼は、俺達の護衛だろ?。
『まったく・・・こんな所で油を売りおって。さて、君らにも下船してもらう
ぞっ。はっきり言って、私のアドリーム号破壊の原因を作った君達は嫌いだ。迷
惑している。しかし、私のお客様である以上、礼儀は尽くさせてもらうが・・・
。』
そうだよな。
船長には迷惑かけっぱなしだからな。
『わかりました。ではさっそく・・・。』
船長は俺に最後まで喋らせない。
『待て・・・・。どうも君らは信用できん。救命艇までは、私自身が案内しよ
う。なあに、その間はゼーラムが私の代わりに見回ってくれるだろう。』
参ったなぁ。先読みされている。
救命艇に急ぐ我々の前に、急に整備工が別の通路から飛び出してきた。
『せ、船長。探していたんですよ。乗客の95パーセントがホワイト・ガーデ
ィアンと係員の誘導で、救命艇で脱出しました。エンジンの故障原因は不明のま
まです。既にスタッフの脱出も開始していますが?。』
なんて恰好だ。
船長は一流だが、スタッフ全員も一流とは限らない、と。
『君は誰だ?。整備工のスタッフとしては初めて見る顔だが?。』
船長の知らない整備工が、船内にいるはずなど無い。
暗殺者か、その協力者か?。
『船長はスタッフ全員の顔を覚えられなくとも、わたくし達は覚えてますわ。
』
笑顔を浮かべても、信じられない。
俺はレーザーガンを抜くと、整備工に銃口を向ける。
相手は女性に見えるが、敵には違いない。
奴に、行動するチャンスを与えずに倒すのが一番だ。
その俺の両手に、セリルが飛びつく。
『いったいなにを・・・きゃぁっ。』と、声を上げて通路に座り込むセリル。
何を考えている?。
奴が先に行動を起こしたら、セリルの命を保証できなくなるかもしれない。
俺がレーザーガンを撃つより早く、整備工の女がバク転をしながら、服を一枚
の布の様に俺達に向かって投げてくる。
それでも俺は発砲できる。
そうしなかったのは・・・布と一緒に漂ってくる匂い。
綺麗な花には毒があるように、いい香りにも毒がある。
これは、レーザー光線拡散粒子。
どんな銃でも、発砲した者に危害が及ぶ。
『撃つんじゃない!。』
だが、船長は俺の言葉を無視して発砲する。
『うわぁ!。』
「ドォン!」音同時に船長の両腕が炎に包まれ、そのまま壁に打ちつけられる
。
俺を信用しないと、セリルも・・・。
そんな事は起こさないぞ。
信じてもらえない切なさが、心の怒りに火をつける。
『当然だ!。レーザー拡散粒子がバラ蒔かれている!。』
『ホホホホホッ。』
異常に着飾ったそいつは、ヒドラと同じように俺達を見下し、船長のざまを笑
っている。
『よく見破りましたこと。なぜわたくしが敵だと、気づきましたか?。』
当たり前だっ。
『アドリーム号の船長は、超人的な記憶力で、スタッフ全員の顔と名前を覚え
ているのさ。そいういうお前は・・・誰だ?、何者だっ。』
巨体のデス・ナイトとは違うだろう。
そうすると、該当する暗殺者は存在しない。
『ホホホッ。わたくし・・・私の名はエンジェル・ウィング。私達の組織の中
では、最も美しい暗殺者。人は私の姿を見て、天国や地獄に召されるのよ。』
セリルめ、騙されたな。
レモニアが白状したわけでもないのに、勝手に誤解する。(俺は、そのセリル
の口車に乗ってしまっただけだ。)
『では、レモニア・・・さんは・・・。』
俺の質問を待たずに、彼女はベラベラと喋り出す。
『もちろん、マリオネットに操られていた、ただの乗客よ。そのほうが、ヒド
ラの正体を隠すのに都合がいいからよ。彼女に、ヒドラをじいさんのタゥーロウ
氏だと信じ込ませ、行動させる。おかげで、あなた方はヒドラを暗殺者だとは思
えなかったはずよ。』
『それじゃ、彼らと知り合うきっかけとなった、時限爆弾の暴発は・・・。』
どうしても、俺に最後まで言わせないつもりだな。
『ヒドラの仕掛けた爆弾を、あんたが解体した事をマリオネットから聞いたわ
。その隠し場所も含めてね。そこで私達は、それを利用して、あなた方に近づく
事を計画したわ。始めに、解体された時限爆弾を回収し、新たに、スイッチに反
応する爆弾を仕掛ける。その起爆スイッチをマリオネットに渡し、あなた方が近
くを通るように画策する。その後は・・・あなた方が知ってる通りよ。それに、
私は美人にしか化けないわ。誰がすき好のんでレモニアみたいなブスに変装しな
くちゃいけないの?。暗殺のためでも、頼まれたって、イヤよ。それに、彼女が
私の代わりに暗躍してくれたおかげで・・・私の仕事を進める事が出来たわ。』
船長の体がわずかに動く。
エンジェル・ウィングもまだ気がついていないな。
このまま、彼女を質問責めにして、気を外らさせよう。
『それは、何の仕事だ?。』
『決まってるじゃなぁい?。私達の仕事にとって、邪魔になり易いブラック・
ガーディアンの抹殺よ。あいつらは、私達の言葉を通訳するための翻訳器を持っ
ているわ。その翻訳器から漏れてくる電波を手がかりに探し出して、一匹ずつ始
末してたのよ。あいつらには私達人間を区別するだけの能力がないし、アドリー
ム号の整備工に化けた私を暗殺者だとは思わないでしょう?。それに、その仕事
内容から、どこにいても疑われないわ。おかげで、船内に残っているブラック・
ガーディアンの90%は処分できたはずよ。』
恐ろしい女だ。
『あ〜っ。』とセリルが、急に声をあげる。
どうしたというんだ?。
『ロッドさんに見せてもらった、ビジョン・FAXに映ってた、情報局のおね
ーさん。』
俺は見せてもらった事はないが・・・セリルが、その事を教えてくれていたら
、俺は調査していただろう。
あるいは、ロッド=マリオネットの正体に早く気づいたかもしれない。
それも、今となっては・・・考えるだけ無意味だな。
『大当たりよ、セリルちゃん。多分ソウル・イーターが失敗するだろうと予測
を立て、急いで偽の情報をビジョン・FAXに入れ、マリオネットに持たせたの
よ。あなたは気がついているかしら・・・あのニュースの内容を。あの中で、ニ
ュース・キャスターは、ソウル・イーターの遺体発見現場を、断定していなかっ
たはずよ。いくら予知能力者のゴッド・アイ様が参謀についていても、あの頃の
貴方の行動は予知不可能でしたから。』
セリルが落ち込んでいる。
俺と同じ考えを持ったのかもしれない。
急にセリルがまた、俺の顔をのぞき込む。
悩んでいるのか。
『さて、おじゃべりは、もういいのかしら。私って親切なのよぉ。だから・・
・死出の門出に、知りたい事は何でも教えてあ・げ・る。でも、私の素顔だけは
教えられないわ。』
この、口の軽い女がエンジェル・ウィングなのか。
『どんな奴かと思えば・・・高飛車な女だな。』
褒めたつもりはないのに、彼女は何を勘違いしているのか、喜んでいる。
俺は呆れて、両手をポケットに突っ込む。
『貴方って、ステキなだけじゃなく、賢いのね。そう、今この通路では、どん
な銃であろうと、使用すれば大火傷よ。でも、私がなんの武器も持たずに活動し
ていると思うの?。どうやって、ブラック・ガーディアンを始末してきたと思う
の?。』
確かに、彼女の言う通りだろう。
何かの武器を、コートの下に隠し持っているのか、マリオネットが<言葉使い
>だったように、特殊な能力を持っているのか。
デス・ナイトの片腕と呼ばれる彼女の事だ。
油断は禁物だな。
彼女は赤い羽を1枚、俺に投げつけてくる。
金属製の羽にスピードはあるが、そんな小道具で俺が倒せると本気で思ってい
るのか。
俺は銃を持った左手をポケットから出し、それで羽を軽く振り払う。
その銃が、「ボムッ」と火を噴いて爆発する。
危険を感じていた俺は、羽が銃に突き刺さる寸前、それから手を離していた。
危険だと思ったわけではなく、俺の左が勝手に反応したんだ。
『なかなかやるわねぇ。では、これならどう?。』
エンジェル・ウィングは、次に2枚の青い羽をセリルに投げる。
それを俺が、黙って見過ごすと思ってるのか。
それとも、俺が素手だと判断して、セリルを殺せると思ったのか。
『きゃあぁ!。』
その場に立ち尽くして、悲鳴をあげるセリルを守るため、俺自身の秘密兵器を
使う。
俺はライフ・ジャケットの布製の輪に、両手の人差し指を通して引っ張る。
その先にはナイフより薄くて鋭い刃が仕込んである。
それを、多目的ライフ・カッターを回転させ、青い羽の軌道に向かって投げる
。
そしてそれらは、俺達と彼女の中間で接触、熔けだす。
融ける?。
奴の青い羽には、硫酸等の物質が入っていたのか。
この分だと、他にも色々仕掛けがしてありそうだな。
『ううっ。』
船長が、呻きながら立ち上がる。
ダメージが残っているようだが、セリルを連れて逃走できるぐらいには快復し
ているだろう・・・そうでないと困る。
『セリルを頼むっ。』
俺は2人に背を向けたままで、船長に頼み込む。
『判った。』
イヤそうな返事ではあったが、約束は守る男だろう。
そうでなければ、アドリーム号の船長を任されてはいないだろう。
『イヤよぉっ。』
背後で、抵抗するセリルの声がする。
彼女の気持ちは嬉しいが、この状態で君を守りきるだけの自信がない。
こんな時、ゼーラムさんがいてくれたら。
船長もそう考えているはずだ。
エンジェル・ウィングの言葉を信じるなら、ブラック・ガーディアンの大半が
殺され・・・生きているのはゼーラムさん1人かもしれない。
『・・・足手まといなんだよ!。』
俺はわざと、大きな声で怒鳴る。
これでまた、セリルに嫌われるな。
『ホホホホホッ。そんなことを言ってると、女の子に嫌われましてよ。』
しかたないだろ。
彼女をお前の攻撃から守るためにはな。
『早く行けっ!。』
これで、俺の評価はますます下がるな・・・。
俺は遠ざかっていく2つの足音を確認しながらも、エンジェル・ウィングから
注意を外らさない。
俺のライフ・ジャケットには、無数の刃を隙間なく仕込んである。
これとは別に約百本の飛刀(投げるための小型の短剣)を隠し、これらを防具
としても使用する。
当然、刃を仕込める布地という事で、刃では切断しにくい特殊な繊維で作られ
ている。
では、このライフ・ジャケットをどうやって作ったのか。
マイナス150度の世界では、普通の布地として加工できる性質を持っている
。
そのため、宇宙空間ではこれを普通の布地のように扱えるが・・・宇宙空間で
は着用したくないな。
奴のコートが、俺のライフ・ジャケット同様の武器庫なら、防具としての機能
も持っているだろう。
そうでなかったら、コートを攻撃され、奴はコートの爆発に巻き込まれ、自滅
してしまう。
『なにを考えてるの?。わたくしの事?。それとも別の女性の事?。』
この、エンジェル・ウィングと名乗る暗殺者こそ、何を考えている?。
『命の心配はいりませんわ。私の目的はセリルだけですもの。ステキな殿方を
殺めるつもりなど、ありませんわ。ただ、私の仕事が上手くいくように、少しの
間だけ倒れていて下さい。』
俺の命を保証してくれるのは有り難いが、簡単に仕事を放棄すると信じている
のか?。
それだけ、自分の腕に自信があるというのか。
『セリルがニセ王女と判った以上、彼女の命を狙う理由はないと思うが?。』
『ホホホッ。それは依頼主の要望ですから、私の意志とは関係ありません。そ
れに暗殺者が、依頼主の考えを読む必要などありません。』
口は軽いようでいて、暗殺者としての口は固い。
それ以前に、彼女は依頼主を知らないようだ。
『では、商談決裂だな。』
『いいえ、貴方はわたくしに乗っ取られ、自由を奪われるのよっ!。』
俺達は互いに走りよりながら、飛び道具を投げ交わす。
彼女は7つの赤い飛羽を繰り出し、俺はそれを空中で、7つのライフ・カッタ
ーで迎撃する。
しかし、それは俺の望むところではない。
奴の、赤い羽の威力は確認してある。
あれでは、俺のライフ・ジャケットに、ダメージを与えられまい。
羽の6つを空中爆破させ、残りの一つで相打ちを狙った。
奴にしても、俺が7つの羽を爆破すると読んでいるはずだ。
そこに奴の油断がある。
12の武器が、俺と彼女の中間で爆発する。
その間をぬって、彼女の飛羽が、俺の胸に小気味よい音を立てて突き刺さる。
と、同時に、空中の爆発が、思った以上に大きいと気づいた。
裏をかかれたかっ。
彼女の飛羽が、俺の胸で爆発し、そのまま壁に叩きつけられる。
油断していたのは俺のほうかっ。
その状態で、爆発の向こうに見えた彼女は・・・何事も無かったように立って
いる。
『どう、私の熱いキスは?。』
キスだと?。
どこまでもふざけた女だ。
ライフ・ジャケットは焦げてもいないが、爆発の熱はどうしようもない。
ライフ・カッターが熱の一部を吸収し、軽い火傷で胸が痛む。
俺の投げたライフ・カッターは・・・床に落ちて融けている。
彼女も、俺の行動を読んでいたのか。
俺はゆっくりと立ち上がり、黙ったまま、彼女を睨みつける。
『色男の苦痛に歪む顔も美しいわ。次は、どこを狙おうかしら?。』
あいつは、喋り終えると同時に、長くて赤い、1枚の羽を投げてくる。
この様な攻撃への対処方法は4つある。
盾で受けるか、武器で防ぐか。
盾は無いし、ライフ・ジャケットで受けて火傷するつもりもない。
ライフ・カッターで受けたとして、その爆風は更に大きいだろう。
後は・・・奴の懐に入るように避けるか、バク転しながら後ろへ避けるか。
セオリーでは、かさばる武器を持った敵や、飛び道具を持つ敵に対しては、接
近戦に持ち込むべきだ。
だが、嫌な予感がする。
奴が、それを考えていないとは思えない。
そこで俺は・・・背後の通路の分岐点に飾られている彫像の後ろに隠れる。
しかし、飛羽は弧を描きながら近づいてくる。
俺はその陰から飛び出し、更に背後へと下がる。
飛羽はそのまま・・・彫像と壁との狭い空間を縫って、彼女の手に戻る。
それだけなのか?。
いや、違う。
「ゴトッ。」そして彫像は、へその辺りで切断され、滑り落ちる上半身は床に
当たって砕け散る。
そうか!。
彼女の飛羽には目に見えにくい、細くて丈夫な紐がつき、それでターゲットを
切断する。
どうやら、ヒドラを拘束したガーブク達は、彼女の手によって殺されたらしい
。
彼女の言葉がそれを裏付けているし、現場に残されたブラック・ガーディアン
の死体が、それを証明している。
何が、命の保証はする、だ。
奴は妖しく笑いながら近づいてくる。
『さすがね。私の武器を見切るなんて・・・ステキ。それなら、この複合技は
どお?。』
彼女は、2枚の長赤飛羽と4つの赤飛羽を両手に構え、それを投げてくる。
俺は長赤飛羽の軌道を読み、その内側に入らないよう、バク転で避け続け、奴
の赤飛羽めがけてライフ・カッターを飛ばす。
「ボン。ボン。ボン。ボムッ。」
俺達の周りに3つの火球が現れ、近くの壁でも爆発が起きる。
「シューッ。」
爆発の反動で船体が震え、通路の熱量上昇から自動消火装置が働いた。
辺りは天井からの、人体に無害の液体で濡れていく。
俺と彼女も、濡れていく。
このままではらちがあかない。
目の前のエンジェル・ウィングを倒さない限り、俺はセリルを守りにいけない
。
ここは俺も、秘密兵器(それほどの物ではないが)を使うしかない。
『これならどうだっ。』
俺は叫びながら、左腕の裾に仕込んだ、金属性のムチを引き出す。
厚さ0.1ミリ、長さ7メートルのそれは軽く、丈夫で、衣服を切り裂く事も
出来る。
俺はそれをふるい、奴は回避行動をとる。
銃やナイフは直線あるいは曲線を描いて敵を襲う。
その弾道または軌道を修正できないが、ムチならば可能だ。
俺のムチの動きが一瞬早く、奴の胸をかすり、切り裂く。
そして・・・。
「ボトッ」と音がする。
彼女の足元に落ちているのは・・・奴の豊かな胸だ。
まさか、そんなつもりはなかったが・・・床に転がっているのは、プロテクタ
ーを兼ねた胸パット。
彼女、いや彼は、両手で胸を押さえながら、内股状態で座り込んでいる。
俺は今まで、オカマと戦っていたのかっ。
俺は怒りで、体中が熱くなるのを感じる。
しかし、彼女、彼、そいつ・・・オカマのエンジェル・ウィングの怒りは、俺
以上に見える。
美しい(オカマの顔を美しいとは表現したくないが)その顔を怒りのために、
原形をとどめない位に歪めて立ち上がり、近づいてくる。
『あたいの秘密を知ったいじょう、簡単には殺さないわよ。あのブラック・ガ
ーディアンが受けた以上の苦痛を与えてあげる。全身を焼き、手足を切断してあ
んたの口に突っ込み、あんたの生け作りを作ってあげる。あたいのムチ使いを見
せてあげる。ホホッ。ホーホッホホホッ。』
冗談じゃない。
こんなオカマ野郎の手にかかって死ぬくらいなら、宇宙空間に身を投げた方が
ましだ。
だからといって、この場で自殺するつもりなどない。
それよりも、この残忍な男を倒し、ブラック・ガーディアン達の冥福を祈って
やらねば。
が、どうやら・・・奴は怒りで、武器を使う事さえ忘れている。
『やはり、この勝負は次回に預けるぞっ。』
俺はそれだけを告げ、セリルを追って走りだした。
『無駄よ。あんたがセリルと合流するより、私達の通信の方が早いわ。』
俺はそれを無視する。
まだ、それほど遠くまでは行っていまい。
探知機で位置を確認し、走り続ける。
オカマの事だ。
衣裳を着替えてから、俺を追ってくるだろう。
しかし・・・。
奴らは、通信機を持っていて、常に情報のやり取りをしているのか。
この分だと、互いの位置も判るようにしているな。
暗殺者の打つ手が早いのは、そのためか。
・・・別の通路の真ん中で、俺は、ついに追いついた。
やはり、3人の人影が見える。
ゼーラムさんか。
違う!。
手前にいるのはセリルと船長だが、その向こうに立っているのは・・・マリオ
ネット!。
とにかく、セリルを逃がさなければ・・・。
『どけっ。』
俺はセリルに走りより、そのままセリルを脇に移動させる。
『やはり来ましたね、シルバーさん?。もうこの辺で、終わりにしませんか?
。』
つまり、俺とエンジェル・ウィングの会話を盗聴したか、オカマ野郎から連絡
を受けたかしたな。
このまま引き下がる俺ではない。
『その意見には賛成だな。ただし、マリオネットの敗北で終わりにしよう。』
ここで時間をかけてまで、マリオネットを倒すつもりはない。
とにかく今は、セリルを保護するのが先だ。
あるいは、船長にお願いして、セリルを脱出させるのが先だ。
さっきまでは、セリルの脱出には反対だったが、彼女が発信器を持っているな
ら話は別だ。
その信号から、簡単にセリルを見つけられるだろう。
『シルバー君に賛成しようかな。』
その声は、喫茶室から出てきたゼーラム!。
『・・・。』
ジレンマだな。
窮地に陥ってる船長は、命令を無視して現れたゼーラムさんに、言葉を掛けら
れずにいる。
『それでは、総力戦といきますかな。』
ヒドラか。マリオネットの背後に、奴がいる。
やはり奴らは、エンジェル・ウィングの言う通り、相互に連絡をとりあってい
るな。
人数でいけば4対2だが、セリルと船長は戦力にならない。
ゼーラムさんは利き腕の右を痛めているし、俺はわき腹を痛め、胸に軽い火傷
を負っている。
奴らは無傷のようだし・・・。勝てるか?。
やれるところまで、いくしかない。
『3手に別れる。俺はここで、ヒドラとマリオネットの相手をする。船長は喫
茶室から別の通路へ脱出してくれ。ゼーラムさんには・・・セリルを連れて、俺
が来た通路を戻ってくれ。途中で暗殺者のエンジェル・ウィングと出会うかもし
れないが、セリルの安全を考慮して行動してくれ。エンジェル・ウィングの顔は
セリルも見ているはずだから・・・どうにかなるだろう。』
セリルの不安を軽減するために、彼女に笑ってみせる。
『大丈夫。勝機のない戦いはしない。』
実は勝機などなかったが、こうでも言わないとセリルは逃げないだろう。
俺は暗殺者達の動向に集中する。
敵は2人。
3手に別れたとして、安全に逃げ出せるのは、彼らのターゲットから外れてい
る船長だろう。
ゼーラムさんと俺とで、この2人を相手に戦うとしても・・・セリルはエンジ
ェル・ウィングからは逃れられない。
セリルと船長を一緒に逃がせば・・・ダメだ。
2人はエンジェル・ウィングかデス・ナイトに襲われるだろう。
やはり、俺一人で2人を相手に戦うしかない。
『・・・では。』
船長は静かに、喫茶室の中へと消えていく。
『シルバー君を信じよう。』
ゼーラムもまた、セリルを連れて逃げだした。
振り返れなかったが、足音で判断できる。
奴らに、セリル達を追跡させるような隙は作らない。
『しかたがありませんねぇ。私達の目的を達成するためにも、あなたには、こ
こで確実に死んでもらいます。』
マリオネットの言葉におびえる俺ではない。
『もう、あの光玉は無効じゃ。』
ヒドラは、肩に乗せていた仮面を被りながら告げてくる。
確かにその様だな。
だからといって、俺の力をみくびらないで欲しいな。
俺は・・・船長の後を追って、喫茶室に飛び込む。
『なっ。』
ヒドラの、驚きの言葉が聞こえたが、それは無視する。
奴らも、まさか俺が逃げ出すとは思っていなかっただろう。
マリオネットの、<言葉使い>の能力の前では、俺は赤子同然に何も出来ない
。
動きを止められて、確実に殺されてしまう。
すでに室内に船長の姿はなく、逃走に成功したと見るべきか。
『おっ、追えっ。』
ヒドラの、泡を食ったような声が聞こえてくる。
俺が単純に逃げだしたと思っているのか?。
俺は、奴らに対抗する武器を持つために、ここに来たんだ。
喫茶室には、コーヒー通のためのアルコールがある。
俺はそれを瓶ごと握りしめ、ドアを乱暴に破壊して侵入してくるマリオネット
の右腕に投げつけ、更に火のついた電子ライターを浴びせる。
「ガシャン」と瓶が割れ、奴の体が濡れる。
『?。』
マリオネットには何が起きたのか、理解できないでいる様だが、あっという間
にスーツの右腕が炎に包まれる。
『うわあぁっ!。』
『どうしたっ?。』
2人の暗殺者の、動揺する声が聞こえる。
仮面で顔を覆ったヒドラも、慌てているな。
それが俺の目的ではない。
焦らせ、能力を使わせないのも目的の一つだが、それ以上に・・・。
「シャアァァーッ。」
そう、天井のスプリンクラーを始動させ、マリオネットが喋りにくくする事が
、俺の最大の目的だ。
だが、それでも不十分だ。
奴の顔に向かって、熱いコーヒーの入ったサイフォンを投げつける。
それは命中し、奴の口の中にコーヒーが入り、むせるはず。
なのに・・・奴は・・・。
奴の、スーツの右腕部分は焼け落ち、大火傷を負う。
ところが、天井からの消火液で洗われた右腕は・・・機械だ。
マリオネットはいったい・・・。
『驚く事はない。これは、わしが交換してとりつけた腕じゃ。右腕だけではな
いぞ。こ奴の体は、わしの技術によって機械化してある。』
奴の、外見からは想像できないほどの人並外れた怪力は、そのためなのか。
マリオネットも余裕の笑みを浮かべている。
しかし、何故マリオネットはむせないんだ?。
『では、わしらの怪力の餌食になってもらおうか。』
ヒドラ達は言葉通り、俺に近づいてくる。
ここから逃げ出す手もあるが・・・セリルを追われてしまう。
かといって、奴らに殴り殺されるつもりもない。
『なっ。』
急に、俺は後ろから肩に衝撃を受けた。
誰かが俺を突き飛ばしたのかっ。
暗殺者に向かって、不用意によろけそうになるのを堪え、暗殺者から目を離さ
ない。
俺の肩にぶつかってきたのは・・・俺の頭上を越え、マリオネットの頭上を越
え、奴の両肩に触れながら飛び越えていく男は・・・。
緑髪の男とは・・・。
『誰じゃっ。』
ヒドラの質問が、奴に向かって飛ぶが、俺には全てがはっきりした。
男の名はシルバー・レンジャー。
以前、俺のポケットに、「もう一人の俺を忘れるな」と書かれた紙切れが入っ
ていたが、彼の仕業か。
俺よりも少し若い男で、その本業からシルバー・レンジャーと呼ばれている・
・・俺の友だ。
マリオネットがロッドと名乗っていた頃、俺の名前を尋ねられた事がある。
本名を言うわけにもいかず、友のコードネームからシルバーと名乗ってしまっ
たが、どうして彼がここにいるんだ?。
彼とは<時凍る分岐ステーション>で再会し、セリルを引き渡す予定だったの
だが・・・。
それよりも、彼がここにいる事で、多くの事実が推測できた。
人混みにまみれ、俺の手から髪飾りと探知機を奪ったのはこいつだ。
こいつならそれが出来る。
しかもご丁寧に、セリルの体に髪飾りを隠したな。
多分・・・ドレスの内側か、背中の大きなリボンの中か。
そうやって、俺に予備の探知機を出させ、自分は俺の探知機を使ってセリルを
監視する。
『トーちゃん久しぶりだな。オレがセリルを保護するから、後は任せたよ。』
シルバー・レンジャーはそれだけ言うと、壊れたドアをかいくぐって消えてい
った。
あのなぁ・・・せっかく出てきたんだから、手伝えよな?。
それに、誤解されるような言い方は、やめてくれ。
『では、ここはマリオネットに任せて、私が・・・シルなんとかの相手をしよ
う。』
そのまま、ヒドラも喫茶室を去りかける。
そうだ・・・俺と奴らの位置が逆となり、奴らはいつでもセリルを追える立場
になったんだ。
だから・・・ヒドラの動きを止めるためには・・・シルバー・レンジャーがや
って見せたように、マリオネットを飛び越えなければ・・・。
俺にはそれだけの脚力がある。
しかし、マリオネットがそう簡単に通してくれるとは思えない。
シルバー・レンジャーが成功したのは、俺を盾として姿を隠し、暗殺者達の虚
を突いたからだ。
『ヒドラ・・・両腕が動きません。』
『!!。』
マリオネットの告白に、俺とヒドラは驚いた。
顔は見えなくとも、奴の動きが教えてくれる。
奴らには理由が判らないだろうが・・・シルバー・レンジャーの能力を知って
いる俺なら推測できる。
マリオネットの両腕を使えなくしたうえで、セリルの救出に向かったのか。
『しかたない。お前の力で、奴の動きを封じろ。』
また、マリオネットの顔に笑みが戻る。
そうだった。
奴の口を塞ぐのに失敗したのだから、奴は<言葉使い>としての力を発揮でき
る。
両腕が動かせなくとも、足は動かせるし、移動も出来る。
『動くなぁぁ!。』
マリオネットの言葉通り、俺は硬直する。
このままでは・・・ヒドラに殺される。
『やはり、1対1の状態にしてからセリルを追いますか。ヒドラさん、動いた
ら発砲しますよ。』
な・・・戻ってきてくれたのか、シルバー・レンジャー!。
彼は一枚板のサングラスをはめたまま、レーザーガンでヒドラを狙っている。
しかし、ヒドラは無敵だぞ。
『わしの丈夫さを、こ奴から聞いていないのか?。』
自信たっぷりなのは、ヒドラだけではない。
『どうですかね。いま私は、仮面の陰から出ている、あなたの首を狙っている
のですよ。それに・・・マリオネットの<言葉使い>としての力も、見つめ合っ
ていないと無効のようですね。』
これで、全員が動けなくなった。
いや、ヒドラは脂汗を流しながらも叫ぶ。
『マリオネット、シルバー・・・いや、ダブルナイトにつっこめ。お前の体は
機械で出来ておる。奴らの銃ではなにもできん。』
その通りだ。
だが、その時にはシルバー・レンジャーの標的がヒドラからマリオネットに代
わり・・・ヒドラは自由を取り戻す。
だめだ。そうさせるわけにはいかない。
『しかし・・。』
マリオネットにしても、命は惜しいだろう。
だが、ヒドラの命令が続く。
『わしの命令が聞こえないのか?。ただのアンドロイドのくせにっ。貴様は完
全な機械だ。お前に命などないのじゃ。お前はわしの作品で、道具なのじゃ。お
前のコード・ネームがマリオネット師ではなく、マリオネットなのは何故じゃ?
。お前の名前が、杖を表すロッドなのは何故じゃ?。全ては、わしの作品である
証じゃあ!!。』
『う・・・うそだ。俺は人間だ。』
『ええい、じれったい。お前に子供の頃の記憶があるか?。なぜ汗っかきなの
か、考えた事はあるか?。自分の血を見た事があるか?。』
マリオネットは・・・恐怖に顔を歪めながら、首を横に振り続ける。
そうだ。奴は・・・俺達の前では、何も食べなかった。
何も飲まなかった。
人も機械も、熱を発散させて動いている。
機械は汗を掛けないので・・・体を冷やすために、汗に見える水分を放出して
いた。
それに、機械が蓄積し記憶できる情報量は膨大だ。
ゴッド・アイに、俺達の完全な報告が出来る。
催眠術にもかけ易いだろう。
マリオネットが、トリップ・エッグで目を破壊されたのも納得できる。
奴の繊細なセンサーが焼き切れたのだろう。
あの時、ヒドラはゴッド・アイに「マリオネットを直してやってくれ」と言っ
ていた。
治療ではなく、修理してくれと言っていた。
『心配するな、マリオネット。お前の体の一部を、奴と一緒に吹き飛ばす。残
ったチップから、お前の体を造り直してやるから。』
ヒドラはマリオネットをなだめすかそうとするが・・・奴は聞かない。
『う・・・嘘だ。あんたが約束を守った所など見た事ない。嘘だーっ。』
そのままマリオネットはヒドラに突進する。
『死のチェック・メイト!。』
ヒドラが叫び、マリオネットの体が爆発する。
奴の体の全てが四散し、大きな音をたてる。
そして俺は座り込んだ。
ヒドラはマリオネットを製造した時、ヒドラの声に反応する自爆装置をセット
していた。
マリオネットが俺に近づいていたら、奴は確実にマリオネットを自爆させただ
ろう。
奴の失敗は・・・心を持てないアンドロイドに、人間の感情に近い動きをする
プログラムを組んだ事だ。
『貴様、なぜ動けるっ。マリオネットの言葉に見入られたのなら・・・しばら
くの間、動けないはずじゃあっ!。』
そう言われても、俺にもわからん。
いや、憶測はできる。
マリオネットの口は喋るためだけのもので、食べたり飲んだりは出来ない。
その口の中に異物が・・・消火液やコーヒーが入ったために、回路の一部がシ
ョートし、機能の一部が損なわれた。
それとも単に、俺が瞬間催眠にかかっただけか。
『じゃ、あとは任せるよ。』
シルバー・ナイトは軽い敬礼をすると、すぐにドアの向こうに消えて行った。
いつも軽くて明るい奴だ。
そう、陽気な弟のような存在だ。
『よくも・・・わしの2作品を欠陥品にしてくれたな。この礼は・・・充分に
させてもらうぞ。』
『その招待は、出来る事なら断りたいな。』
俺はそう言いながら、両手に3本づつのライフ・カッターを取り出す。
シルバー・レンジャーが奴の首を狙ったように、他にも弱点があるかもしれな
い。
それに、奴の首を狙えるかもしれない。
『君と小娘が主賓じゃからのう。君がいないと、パーテイが始まらんのじゃ。
』
ヒドラは青白く光る杖を振りあげて、俺を襲ってくる。
『ハッ。』
かけ声と共にバックしながら、両手のライフ・カッターを投げる。
『フウンッ。』
その内の4本を杖で受け、ライフ・カッターはグシャグシャになりながら弾き
飛ばされている。
残りの2本は胸に当たるが・・・透明の腹巻きに刺さっただけで・・・そのま
ま、表面に張り付いている。
こうなったら、根比べだっ。
俺はとにかく、奴の攻撃をかいくぐりながら、ライフ・カッターを投げまくる
。
その8割までが、ハエのように床に叩きつけられるが、残りの2割で腹巻きの
表面を覆っていく。
そして、数分が経過した。
ライフ・ジャケットに仕込んだライフ・カッターの残りも少ない。
『無駄な攻撃を、いつまで繰り返すつもりじゃ?。』
何とでも言え。
ヒドラの攻撃も命中していないんだから、同じ事(破壊力は違うがな)。
それに、俺の攻撃は、次の攻撃への布石だ。
俺は左手でレーザーガンを抜き、構える。
『フハハッ。まだそんな武器に頼るのか?。無意味な事を。』
『無意味かどうかは、自分の体で味わうんだな。』
俺はそのままトリガーを絞り、死を運ぶ光がヒドラのお腹を狙う。
確かに奴の特殊な汗が、エネルギーの全てを無害な光に変換するが・・・俺の
狙いは別だ。
奴の表面に張り付いたライフ・カッターが、レーザー光線を浴び、高熱を吸収
して汗を蒸発させる。
その汗が切れた時、奴の体に穴が開くか、火傷をするかのどちらかになる。
『ウオオオオッ。』
俺の目的を覚った奴は、自らの体を壁にぶつけ、杖を手放す。
モウモウと煙がたち昇る中、奴は杖の先端に右手を伸ばしかける。
が、俺の視線に気づき、そのまま右手で俺の攻撃を制止しようとする。
『まっ、待てっ。待ってくれ。』
今更、命ごいかっ。
『情けないな。ゴーレムを殺させ、マリオネットを破壊しながら、自分の命だ
けは助けてくれだとっ。俺達の命を狙っていながら・・・命ごいかっ。』
『俺を殺せるだけの時間があるかな?。これを聞いてみたらどうじゃ?。』
奴は左手で、胸に付いている小さなボタンを回す。
すると・・・。
『いい事を教えてあげようか。その男、ゼーラムがあたしらのボスさ。』
あれは、エンジェル・ウィングの声。
またしても俺は騙されていたのか?。
『面白い冗談だ。それはあらかじめ録音しておいた物だろう?。』
まずは、奴の反応を見る。
『フンッ。そう思うなら、人類にとって貴重な頭脳を持った、わしを殺す事だ
な。今の声は、ついさっき録音したものだ。』
奴が嘘をついていると確信できない。
ここは奴の言う通り・・・。
『このケリは、後でつけさせてもらう。』
俺は奴を無視し、喫茶室を飛び出す。
待ってろよ、セリル。
今、助けに行くぞっ・・・と考えてるのは何回目だ?。
何回目でもいい、俺は俺の役割を果たすだけ。
しかし・・・シルバー・レンジャーはどうしたんだ?。
セリルと合流したんじゃないのか?。
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