プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章
☆☆☆ 19.セリル ☆☆☆
『きゃんっ☆。』展望室を振り向きながら飛び出した私は、通路に立ってる
荷物に気が
つかなかった。
誰よぉ、こんな所に荷物を置いたのはぁ。
ぶつかって、転んじゃったじゃないっ。
いったい、何の荷物よぉ。
にらんじゃうからぁっ。
その荷物は・・・。
『ゼ、ゼーラムさん!!。』
今までどこに居たのよぉ!。
・・・心細かったんがからっ。
なのに、何もなかったかのように笑ってる。
『無事で、なにより!。』
何が”無事でなにより”なのよ。
すぐに助けにきてくれてもいいじゃない。
『あのね・・・。』
私に抗議する時間を与えず、ゼーラム=ダブルナイトは周りを見渡す。
『どうやら・・・ここも危険のようだ。この向こうに図書館があったな。そこ
に行こう。』
そのまま、私の右手をとって走り出す。
それはいいから、早くこの船から降りようよぉ。
そこは第3図書室。
主に図鑑や事典、辞書を見れるようになってる。
でも、マンガや小説は一冊も置いてないから、利用客の少ない図書室の中でも
、更に人気の無い図書室として有名よ。
この場所のお得意さんは・・・学者さんとか、性〜格の暗〜いヒマ人で、その
両方とも避難し終えてるはずよ。
そこなら、隠れ場所としては最適だけど・・・ドアは一ヶ所で、暗殺者に入り
口を押さえられたら逃げられない。
室内の奥には本棚がたくさんあって、細かく仕切られ、体の大きな暗殺者は自
由に動きにくいはず。
でも、ヒドラやマリオネット、デス・ナイトの3人とも力がありそうだから、
本棚を倒してきて、私がその下敷きになったら大変よ。
『やっぱり、入るのはやめにしません?。』
『暗殺者達が、どうして我々がここに潜んでいる事を知るんだ?。ここが一番
安全に決まっている。』
私の提案に、ゼーラム=ダブルナイトは首を横に振りながら、私を中に連れ込
もうとする。
なんか怖いよぉ。
『さて、誤解を解こうか。』
その声・・・通路の右側を見ると・・・シルバーさん?。
誰が犯罪者の言葉を信じるもんですかっ。
私を騙そうとしても無駄よ。
無駄なんだからぁ。
それに、やっぱりここは危険じゃない?。
私達がここにいると、シルバーさんが知ってるはずないよね?。
そのシルバーさんがここにいるんだから・・・。ゼーラム=ダブルナイトの方
を向くと・・・シルバーにみえないように、私にウィンクで合図を送ってくる。
どういう意味かしら。
『やあ、シルバーさん、よくここがわかりましたねぇ。』
犯罪者を相手にして、ゼーラム=ダブルナイトは何を話すつもりなのかしら。
シルバーさんの口車に乗っちゃダメよ。
『どうです、詳しい話しはこの中で交わしましょう。』
『・・・そうするか。』
シルバーは、ゼーラム=ダブルナイトにしがみつく私を見て、悲しげな笑みを
浮かべて近寄って来る。
理由は知らないけど、私を哀れんでるんなら、怒るからね。
それとも、その態度も芝居なの?。
『さあさあ、入った!、入ったぁ!!。』
ゼーラム=ダブルナイトに促され、ゼーラム=ダブルナイト、私、シルバーさ
んの順に中に入ってく。
本は全て貸出禁止のため、中には読書用のテーブルと椅子がたくさん並んでる
。
私達はその一つに陣取り、情報交換と意見交換を行うんだけど・・・なんか変
。
なんで敵のシルバーと話をしなければならないのよぅ。
『始めに断っておくが、俺は暗殺者でも、その仲間でもないぞ!。』
シルバー・・・さんは、そういってるけど、本当かしら。
いいえ、私は騙されないわよ。
『ちゃんと聞いて、知ってるんだからぁ、嘘ついてもダメよ!。』
私のきつい口調に、シルバーさんは首を横に振り続ける。
『それは誰に聞いたのかな。もし、ロッドから聞いたんだとすれば・・・何故
、暗殺者であるマリオネットは、自分達に不利になる事を言うんだ?。』
ぎくっ。
『俺は一生懸命、セリルを守ってきたつもりだが、その俺を信じられないのか
?。』
ぎくぎくっ。
『暗殺者は俺達の仲を裂き、疑心暗鬼にさせて、その隙をついてセリルを殺そ
うとしてるんだぞ!。』
ぎくぎくぎくぅっ。
ううっ、何も、そんなに怒んなくったって・・・いいでしょ!。
いじめると、セリル、泣いちゃうよ。
『まぁまぁ・・・シルバーさんも落ち着いて。セリルちゃんの瞳が涙で潤んじ
ゃいましたよ。セリルちゃんもいい子にしようね。』
・・・ゼーラム=ダブルナイトがそういうんなら、許してあげる。
『俺も、シルバーさんが暗殺者だとは思ってませんよ。シルバーさんを信頼し
ている証拠に・・・しばらくの間、セリルちゃんと2人っきりで行動したらどう
です?。』
それって、私を見捨てるってこと?。
それとも、他に何か策があるとでもいうの?。
『・・・ま、解ってもらえれば・・・。』
なによなによっ、私を無視して話しを続けるんなら、私もシルバーを無視する
んだから。
『あのね・・・やっぱり、レモニアさんがエンジェル・ウィングだと思うんだ
けど?。』
「ガタッ」と立ち上がるシルバー。
何を驚いているのよ。
でも、その表情からは、驚いているようには見えない。
『何っ。俺と別れた後、何があったんだ?。』
白々しいんだからぁ。
暗殺者の誰かに聞いて、知ってるんじゃないの?。
それとも・・・シルバーさんは・・・ダブルナイトではないけれど、暗殺者の
仲間でもないということ?。
単なる人さらい?。
私の心に、緑髪の人さらいがよみがえる。
その2人が仲間同士なのよね。
あの人も、シルバーさんを知っているような言い方をしてたもん。
でも・・・セーラム=ダブルナイトのことも知ってるようだったわ。
『シルバーさんと別れた後・・・レモニアさんに襲われて、人質にされたの。
だから、レモニアさんが暗殺者よ。現在、正体が分かっていない暗殺者は、デス
・ナイト、エンジェル・ウィング、ゴッド・アイの3人だけで、該当しそうなの
はエンジェル・ウィングぐらいなものでしょ?。それで彼女からは、私の機転で
逃げきれたんだけど、ゼーラムさんとも別れてしまって。その後でロッドさんと
会ってぇ、催眠術にかけられて・・・。』
『やはりそうかっ。ゴッド・アイの顔は俺が見ているから、セリルの言葉通り
だろう。それからどうした?。』
なにも急に叫ばなくっても・・・。
2人の視線が痛い。
・・・説明を続けさせていただきますわ。
『私の正体を聞かれたわ。嘘はつけなくて・・・ニセ王女だと教えてしまった
の。そしたら、殺すっていわれて。マリオネットから逃げて、またマリオネット
に追われて、船が揺れて2人からにげて、ゼーラムさんと再会してシルバーさん
と合流して、ここにいるの。』シルバーさんは黙って席につく。
納得したのかどうかは知らないけれど・・・。
あの人さらいの事は黙ってよ。
話しがややこしくなるとやだからね。
『で、船が揺れたとき、2人から逃げたと言ってたが、それは誰と誰だい?。
』
シルバーさんのつっこみが厳しい。
私は少しだけドギマギしながら答えた。
『え・・・もちろん・・・マリオネットと・・・ヒドラに決まってるでしょ。
その2人に追われたんだからぁ。』
あ、シルバーは納得してない。
でも、それ以上深くは質問してこない。
『では・・・』
ゼーラム=ダブルナイトが口を開きかけたとき、図書室の入り口が静かに横に
スライドする。
敵?。
『ここで何をしている?。早く救命艇で脱出・・・。』
そう言いかけていたのは、船長さん。
『船長、どうしてここに?。』
ゼーラム=ダブルナイトの言葉に軽く鼻を鳴らして説明してくれる。
『逃げ遅れた乗客がいないか、確認のため、俺や副船長が船内を回っている。
そういう君こそ何をしている?。早く船内の捜索に出かけんかっ!。』
船長さんのまくしたてる様な口調に追われ、ゼーラム=ダブルナイトは敬礼を
してから図書室を出ていく。
『まったく・・・こんな所で油を売りおって。さて、君らにも下船してもらう
ぞっ。はっきり言って、私のアドリーム号破壊の原因を作った君達は嫌いだ。迷
惑している。しかし、私のお客様である以上、礼儀は尽くさせてもらうが・・・
。』
『わかりました。ではさっそく・・・。』
私の手を引いて出て行こうとする私達に、船長さんの言葉が飛ぶ。
『待て・・・・。どうも君らは信用できん。救命艇までは、私自身が案内しよ
う。なあに、その間はゼーラムが私の代わりに見回ってくれるだろう。』
シルバーさんが信用できないのはわかるけど、どーして私を、そんな目で見る
のよぉ。
私を、彼と一緒にしないでよっ。
図書室を後にし、通路を急ぐ私達3人の前に、急に姿を現したのは・・・アド
リーム号の若いスタッフ、多分・・・なんかの機械の整備士ね。
上下のつながったジャージを着ているのは、汚れた油などが内部に入るのを防
ぐのと、機械に巻き込まれ易い、服の縁をなくす意味もある。
薄藍と白の綺麗な縦縞にも理由があるわ。
薄藍と白のストライプ模様にする事で動きを目立たせ、乗客が遠くからでも見
つけ易いようにしてある。
表面に黄色の油が付着すると、生地は黄色や緑色になって、やっぱり、遠くか
ら見ても目立つ色になるわ。
それに船内だというのに、つば付きサングラス付きの帽子を被っているのは、
油などの汚れや光から目を保護するため、頭を保護するため。
そんな職場で働いているのは、整備工ぐらいなものでしょ。
背は高めだと思うんだけど・・・華奢で・・・その顔立ちからすると、女性か
しら。
綺麗で大きな青藍の瞳と、同じ色の唇。左頬に描かれた2つの重なった星。
上の方が緑黄色で、その陰となる様に、角度を少しずらした薔薇色の星。
栗色の髪は短く刈り込まれてるようだけど、帽子からはみ出した、長い黄色の
前髪が目立つわ。
まるでミュージシャンか芸術家気取りね。
その整備工は私達を見て、驚きの表情を浮かべ、うわずった、少し太い女性の
声で話しかけてくる。
『せ、船長。探していたんですよ。乗客の95パーセントがホワイト・ガーデ
ィアンと係員の誘導で、救命艇で脱出しました。エンジンの故障原因は不明のま
まです。既にスタッフの脱出も開始していますが?。』
な〜んだ、船長さんを探しに来ただけなのか。
その船長さんの顔が、僅かに歪んでるような・・・。
『君は誰だ?。整備工のスタッフとしては初めて見る顔だが?。』
『船長はスタッフ全員の顔を覚えられなくとも、わたくし達は覚えてますわ。
』と優しく、ニッコリと笑うおねーさん。
この顔、どこかで見た覚えが・・・気のせいかしら、と悩む私。
でも、シルバーさんの反応は違ってた。
いきなり銃を抜くと、整備工のおねーさんに銃口を向ける。
相手はか弱い女性じゃない?!。
気でも違ったの?。
やっぱり悪人で、隠していた犯罪者の人格がよみがえったの?。
あわててシルバーの両手に飛びつく私。
『いったいなにを・・・きゃぁっ。』
私は振り落とされ、その場に尻餅をつく。
お尻のあざが消えなかったら、シルバーのせいだからねっ。
そのシルバーがレーザーガンを撃つより早く、整備工のおねーさんがバク転を
しながら、つなぎの服を大きな一枚の布の様に脱いで、私達に向かって広げてく
る。
視界を遮られた私には、おねーさんが何をしているのか見えない。
けれど、周りにステキな香りが広かってくるのは・・・匂いでわかるわ。
あれ、船長さんも銃を抜いて・・・。
『撃つんじゃない!。』と、シルバーさんの言葉が船長さんに飛ぶ。
船長さんは、彼の荒い言葉に気を悪くしたのか、命令口調に気分を害したかし
て、シルバーの忠告に耳を貸そうともしない。
そりゃそうよ。
自分が最初に撃とうとしたくせに、船長さんの発砲を禁じるなんて不自然よ。
船長さんは無視してレーザーガンを撃って・・・。
『うわぁっ!。』
「ドォン!」と音がして、船長さんの、銃を構えた両腕が炎に包まれ、衝撃で
壁に強く叩きつけられている。
何が起きたの?。
船長さんは銃を手放し、壁に背中をくっつけ、うつむいたまま座り込んでる。
『当然だ!。レーザー拡散粒子が、ばらまかれている!。』
つまり、船長さんは自分が撃った銃口から・・・・拭きだしたエネルギーで火
傷を負ったのね。
でも何故・・・。
『ホホホホホッ。』服だった、大きな布の陰から姿を現したおねーさんは、私
達を見下しながら笑ってる。
どうやったら、こんな変わり身が出来るんだろう?。
顔の特徴と前髪の雰囲気は変わってないけど、ピンクや紫に輝く後ろ髪は腰の
近くまで伸び、赤と黒のタイツを履き、両肩から背中にかけて、赤や黒や紫を基
調としたカラフルな羽に包まれてる。
まるで、鳥の羽のコートを着ている様だわ。
大きなバストが原因で、白いブラウスがきつそう。
水色の両手には、長さ15センチの鋭い付け爪をしてる。
整備工のおねーさんは・・・鳥の恰好をして、何があんなに楽しいのかしら。
『よく見破りましたこと。なぜわたくしが敵だと、気づきましたか?。』
『アドリーム号の船長は、超人的な記憶力で、スタッフ全員の顔と名前を覚え
ているのさ。そいういうお前は・・・誰だ?、何者だっ。』
シルバーの言葉に、変身した整備工のおねーさんはコロコロと笑いながら答え
る。
『ホホホッ。わたくし・・・私の名はエンジェル・ウィング。私達の組織の中
では、最も美しい暗殺者。人は私の姿を見て、天国や地獄に召されるのよ。』
えーっ。
エンジェル・ウィングって、レモニアさんじゃなかったの?。
『では、レモニア・・・さんは・・・。』
シルバーが質問の全てを言い終わる前に、彼女の答が始まる。
『もちろん、マリオネットに操られていた、ただの乗客よ。そのほうが、ヒド
ラの正体を隠すのに都合がいいからよ。彼女に、ヒドラをじいさんのタゥーロウ
氏だと信じ込ませ、行動させる。おかげで、あなた方はヒドラを暗殺者だとは思
えなかったはずよ。』
『それじゃ、彼らと知り合うきっかけとなった、時限爆弾の暴発は・・・。』
彼女は、シルバーさんに最後まで言わせない。
『ヒドラの仕掛けた爆弾を、あんたが解体した事をマリオネットから聞いたわ
。その隠し場所も含めてね。そこで私達は、それを利用して、あなた方に近づく
事を計画したわ。始めに、解体された時限爆弾を回収し、新たに、スイッチに反
応する爆弾を仕掛ける。その起爆スイッチをマリオネットに渡し、あなた方が近
くを通るように画策する。その後は・・・あなた方が知ってる通りよ。それに、
私は美人にしか化けないわ。誰がすき好のんでレモニアみたいなブスに変装しな
くちゃいけないの?。暗殺のためでも、頼まれたって、イヤよ。それに、彼女が
私の代わりに暗躍してくれたおかげで・・・私の仕事を進める事が出来たわ。』
『それは、何の仕事だ?。』
微かに動き始めた船長さんを無視して、シルバーさんの質問が通路に響く。
『決まってるじゃなぁい?。私達の仕事にとって、邪魔になり易いブラック・
ガーディアンの抹殺よ。あいつらは、私達の言葉を通訳するための翻訳器を持っ
ているわ。その翻訳器から漏れてくる電波を手がかりに探し出して、一匹ずつ始
末してたのよ。あいつらには私達人間を区別するだけの能力がないし、アドリー
ム号の整備工に化けた私を暗殺者だとは思わないでしょう?。それに、その仕事
内容から、どこにいても疑われないわ。おかげで、船内に残っているブラック・
ガーディアンの90%は処分できたはずよ。』
私達は、暗殺者たちに完全に騙されていたのね。
騙されたといえば・・・。
『あ〜っ。』
私は思わず、エンジェル・ウイングを指さしながら叫ぶ。
2人の(船長さんは気を失ったまま)視線が私に集中するけど、気にしてられ
ないわ。
『ロッドさんに見せてもらった、ビジョン・FAXに映ってた、情報局のおね
ーさん。』
『大当たりよ、セリルちゃん。多分ソウル・イーターが失敗するだろうと予測
を立て、急いで偽の情報をビジョン・FAXに入れ、マリオネットに持たせたの
よ。あなたは気がついているかしら・・・あのニュースの内容を。あの中で、ニ
ュース・キャスターは、ソウル・イーターの遺体発見現場を、断定していなかっ
たはずよ。いくら予知能力者のゴッド・アイ様が参謀についていても、あの頃の
貴方の行動は予知不可能でしたから。』
私のせいだわ。もし、あの時、私がビジョン・FAXの内容を正確にシルバー
に話していたら・・・今のような状態には、なっていなかったはずよ。
もっと注意力があったら、もっと判断力があったら。
私は、チラッとシルバーの顔をのぞき込んでみた。
私は・・・シルバーさんとゼーラムさんのどちらを信じるべきかしら。
比較して、長く私の世話をしてくれたシルバーさん。
明るく陽気で、意識不明の娘のために必死に働いているゼーラムさん。
『さて、おしゃべりは、もういいのかしら。私って親切なのよぉ。だから・・
・死出の門出に、知りたい事は何でも教えてあ・げ・る。でも、私の素顔だけは
教えられないわ。』エンジェル・ウィングって・・・頭が痛いわ。
『どんな奴かと思えば・・・高飛車な女だな。』
シルバーさんはそのまま銃をしまうように、左手をポケットにつっこむ。
レーザーが使えないんなら、弾丸を撃つタイプの銃にすればいいのに・・・。
それとも、丸腰の彼女に飛び道具を使うのは、男のプライドが許さないとでも
いうの?。
『貴方って、ステキなだけじゃなく、賢いのね。そう、今この通路では、どん
な銃であろうと、使用すれば大火傷よ。でも、私がなんの武器も持たずに活動し
ていると思うの?。どうやって、ブラック・ガーディアンを始末してきたと思う
の?。』
そうよね、か弱そうに見える彼女が、特殊な能力を持った彼らを素手で倒せる
はずないよね。
彼女は衣服についた赤い羽を1枚むしり取り、シルバーさんに投げつけてくる
。
それは・・・金属製らしく、凄いスピードで突っ込んでくる。
それを甘くみたシルバーさんは、銃を持った左手をポケットから出し、軽く振
り払う。
その銃に羽が突き刺さり、「ボムッ」と火を噴いて爆発する。
シルバーさんが危ない!。
でも、シルバーさんは銃を失っただけですんでる。
身の危険を感じたシルバーさんは、銃が爆発する前に、手を放していたのね。
『なかなかやるわねぇ。では、これならどう?。』
エンジェル・ウィングは、次に2枚の青い羽を私に投げてくる。
『きゃあぁ!。』
私は逃げる事も出来ない。
素手のシルバーさんに、私を守れるのかしら。
でもそれは、私の考え過ぎね。
彼は、ライフ・ジャケットにくっついた無数の布製の輪に、両手の人差し指を
通すと、そのまま引っ張る。
その先にはナイフの先端(?)が見える。
シルバーさんはそれを器用に回転させながら、エンジェル・ウィングに向かっ
て投げつける。
そしてそれらは、私達と彼女との中間で接触し、空中で熔けだした。
羽と短剣(?)が・・・ぶつかって、何が起きたの?。
『ううっ。』
船長さんが、やっと立ち上がった。
まだダメージから完全には立ち直っていないようだけど・・・。
『セリルを頼むっ。』
シルバーさんは私達をかばうように、背を向けたままで船長さんにお願いする
。
『判った。』
船長さんはそれだけ言うと、私の手を引こうと・・・。
『イヤよぉっ。』
船長さんじゃ頼りないし、シルバーさんの手助けがしたいのっ。
シルバーさんにもらった秘密兵器の、ピコピコ・ハンマーもあるんだからぁ。
『・・・足手まといなんだよ!。』
ビクッとする私。シルバーさん・・・。
なにも、そんな言い方しなくたって。
『ホホホホホッ。そんなことを言ってると、女の子に嫌われましてよ。』
『早く行けっ!。』
シルバーさんは、エンジェル・ウィングの言葉を無視して叫ぶ。
いいわよ、いいわよぉ!。
ゼーラム=ダブルナイトに助けてもらうんだからぁ。
船長さんに手を引かれて走り出す私。
どれだけ走ったのかしら。
とにかく今日は、マラソン大会のように運動してる。
10分ぐらいは走ったのかしら。
その私達の前に、あのマリオネットが。
つまり、あの人さらいはマリオネットに破れたのね。
『見つけましたよ、お嬢ちゃん。』
ゼーラムさんはいないし、シルバーさんはエンジェル・ウィングと戦ってるし
、人さらいさんもいないし。
私の盾になってる船長さんは、半分死んでるから期待出来ないし、どーしよう
?。
さっきは何も知らずに催眠術にかけられたけどもう大丈夫。
私の秘密兵器でめった打ちに・・・出来ればいいけど。
私は武器を手にするまでの時間稼ぎに質問した。
『あの人をどうしたの?。』
マリオネットは大げさに首をすくめると・・・。
『知りませんよ。船体の揺れで窓まで弾き飛ばされ、立ち上がった時には消え
ていましたから。一緒に逃げたのだと思ってましたが。どうしました、ドレスの
裾を上げて。』
あ〜ん、しっかり見られてる〜。
どうやって、マリオネットにばれないように取り出せばいいの?。
『ふ。わたくしにはそんな趣味はありませんよ。ロリコンではないし、どんな
女性にも心を奪われた事がないですから。今まで見てきた老若男女や動物達にも
恋した事はありませんよ。おかげで、美人だろうと子供だろうと、老人だろうと
可愛い動物だろうと、その全てを暗殺できましたからね。』
私の、ドレスからはみ出した足を見て、誤解してるのね。
マリオネットの言葉は丁寧なのに、その内容からすると、氷のように冷たい心
を持っているのね。
それとも、人間としての心が無いのかしら。
『どけっ。』
そういいながら、私の背後から姿を現したのは・・・シルバーさん!。
どうしてここにいるのが判ったのかしら。
『やはり来ましたね、シルバーさん?。もうこの辺で、終わりにしませんか?
。』
マリオネットの言葉が怖い。
『その意見には賛成だな。ただし、マリオネットの敗北で終わりにしよう。』
シルバーさん、かっこい〜わぁ。
『シルバー君に賛成しようかな。』
近くの喫茶室から出てきたのは、ゼーラム=ダブルナイトだ!。
『・・・』
船長さんは、何か言いたかったみたいだけど、口を固く閉じている。
船長さんは戦力にならないから、2対1ね。
でも、ゼーラム=ダブルナイトは右腕を折られてるし、シルバーさんは横腹に
ダメージを受けてるから、1対1かしら。
『それでは、総力戦といきますかな。』
マリオネットの背後、通路の奥からはヒドラが。
ダメだわ。これじゃあ、こっちが不利よ。
『3手に別れる。俺はここで、ヒドラとマリオネットの相手をする。船長は喫
茶室から別の通路へ脱出してくれ。ゼーラムさんには・・・セリルを連れて、俺
が来た通路を戻ってくれ。途中で暗殺者のエンジェル・ウィングと出会うかもし
れないが、セリルの安全を考慮して行動してくれ。エンジェル・ウィングの顔は
セリルも見ているはずだから・・・どうにかなるだろう。』
だ、だめよ。
このままじゃ、シルバーさんが殺されちゃう。
なのに、どうして笑っていられるの?。
『大丈夫。勝機のない戦いはしない。』
『・・・では。』と、船長さんが最初に姿を消す。
『シルバー君を信じよう。』
ゼーラム=ダブルナイトは私の肩を叩くと、先にたって走りだした。
遠くなるシルバーさん。
ヒドラとマリオネットは、ゼーラム=ダブルナイトの気迫に押されたのか、私
達を追ってこなかった。
暗殺者は追っては来なかったけど、シルバーさんが言ってたように、前方には
エンジェル・ウィングの姿がある。
鳥の羽のコートを通路に投げ出し、サーカスの女猛獣使いの服装に着替えてい
る。
両手には黒くて太くて長い鞭を持ち、私達に気づくと通路の真ん中に立ちはだ
かる。
『ここから先は通さないよ。例えあなたでもね。ここで、その少女は命を落と
すのさ。』
「ビシュッ」。その音と共に、彼女の両手の鞭が唸る。
一本はゼーラム=ダブルナイトに伸びる。
右腕を折られ、左手で私の手を握るゼーラム=ダブルナイトは無防備で、右肩
の補助腕が叩き折られる。
そのもう一方の鞭が私の体に巻き付き、そのままエンジェル・ウィングに引き
寄せられる。
何がエンジェル・ウィングよぉ。
ただの死神じゃない!。
それに、私達は猛獣じゃないんだからぁ。
猛獣は・・・あなたの方でしょ!。
エンジェル・ウィングが私に触れるより早く、ゼーラム=ダブルナイトが彼女
に体当たりする。
その振動で私を捕らえた鞭がゆるみ、私はじたばたしながらも、それから逃れ
る事に成功したわ。
壁際まで下がってから振り向くと、ゼーラム=ダブルナイトが怒りながら、彼
女を壁に押しつけている。
『誰が邪魔しようと、俺はこの子を守る!。これ以上つきまとうなら、殺すぞ
!。』
シルバーさんはエンジェル・ウィングを撃ち殺そうとしたけど、ゼーラム=ダ
ブルナイトは違う。
どちらが正しいのかしら。
『判ったわよ。・・・手を降ろしてよぉ、痛いじゃなぁい。』
ゼーラム=ダブルナイトは手を離すと、私に背を向けたまま、彼女の行動に目
を配りながら私を呼ぶ。
『いくぞ。』
私はゼーラム=ダブルナイトに「ピトッ」とくっつき、彼女を見つめながら通
路を歩く。
『やってらんないわ。』
彼女は私達に聞こえるように怒鳴り、コートに近寄る。
だめよ。
あれには恐ろしい武器が詰まってて・・・。
『ダメっ。』
『動くなっ。』
私とゼーラム=ダブルナイトの言葉が同時に通路に響く。
さすがね。
私が教えなくても、ゼーラム=ダブルナイトはコートの危険性に感づいてたの
ね。
彼女は・・・コートの端を持ったまま、硬直している。
これで私達は、安全にここから去れるわ。
ソロソロとバックする私達。
エンジェル・ウィングは、おりこーさんにしてるし。その彼女の背後、私達が
やってきた通路から、誰かが追ってくる。
あれは・・・緑髪の人さらいさん。
『ま、待てぇっ。彼女をどこに連れていく?。』
何を言ってるのかしら。
銃を構えながら、人さらいさんが叫ぶ。
『動くなっ。オレは・・・ダブルナイトに頼まれて、君を助けに来たんだ。そ
の男から離れるんだっ。』
・・・ゼーラムさんは、ダブルナイトじゃなかったの?。
もしかして、シルバーさんもダブルナイトじゃないとか?。
それとも、この人さらいが嘘をついているのかしら。
『ゼーラムさん?。』
ゼーラムさんの顔は、ちょっと曇っている。
もしかして、人さらいさんの言葉が正しいのかしら。
『その通り。ただし、君を守ろうとしていた、俺という人間を信用してほしい
。』
そうね、信用しようかしら。
『あ、危な〜いっ!。』
私達の隙をつき、エンジェル・ウィングが赤い羽を1枚、人さらいさんに向か
って滑らせる。
でもそれは、人さらいさんと接触する前に、銃口からのレーザー光線で蒸発す
る。
あの時は、レーザー拡散ナントカで銃が使えなかったけど、今なら簡単に羽を
打ち落とせるわ。
それからどうするの?。
横を見ると・・・ゼーラムさんがいない。
振り向くと・・・ゆっくりと去っていくゼーラムさんの後ろ姿。
誰にも攻撃されないと自信を持ってるのかしら。
『待って、どこに行くの?。』
追いかける私に、ゼーラムさんが微笑んでる。
『いい事を教えてあげようか。その男、ゼーラムがあたしらのボスさ。』
ええ〜っ、ま、まさか。
一瞬、全員の動きが止まる。
その中で自由に動いているのは、エンジェル・ウィング一人だけ。
圧倒的な不利を感じた彼女は、そのまま、近くの曲がり角から、別の通路へと
逃げていく。
『あーっ、逃げられたぁーっ。』
私の叫び声で、全員が我に返った。
『待てーっ。』と、後を追う人さらいさん。
それよりも私は、エンジェル・ウィングの言葉が気になった。
『本当なの?。』
だって、デス・ナイトと初めて会った時、あの場所にゼーラムさんも一緒にい
たじゃない?。
それに第一・・・
『そうよ、シルバーさんも言ってたじゃない?。暗殺者が自分達の不利になる
事言う訳ないわ。危うくエンジェル・ウィングに騙されるところだったわ。』
『しかし、シルバーさんは疑うだろうな。俺は・・・仕事に戻ろう。あとは、
さっきの男に守ってもらえばいい。なあに、いざという時は、俺が助けにいくか
ら。』
そしてそのまま、振り返らずに歩いていく。
『まいったなぁ。逃げられたか。・・・泣いてるのか?。』
人さらいさんは、そっと私の肩を抱いてくれる。
『うわあぁぁ〜っ。』
私はそのまま泣きだした。
ゼーラムさんを、一瞬でも疑った自分が許せなかった。
去っていくゼーラムさんの後ろ姿が寂しそうで、悲しかった。
その私に、彼の優しそうな言葉が、ささやかれる。
『紹介がまだだったね。オレの名は・・・。』
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