プリンセス救出陽動作戦



ダブルナイトの章


☆☆☆ 17.セリル ☆☆☆
 レモニアさんの右手のナイフが、私の喉のところで震えてる。
このままじゃ、私の可愛い喉が切り裂かれちゃう!。
ゼーラム=ダブルナイトは・・・レモニアさんの命令を無視し、後退する彼女 との距離を一定に保とうとしてる。
怪我した右腕の金属固定カバーと補助腕、
それに指示を送るためのヘッド・バンド(?)の重みで足取りが普通じゃない 。
懐には銃があるんでしょうけど、武器を手にするチャンスのなかった今は、素 手のままだわ。
このままレモニアさんに連れてかれたら・・・私、殺される。
でも、ここで逆らっても殺される。
レモニアさんは・・・ここで私を解放すればゼーラム=ダブルナイトから逃げ きれるかもしれない。
逃げ切れたとしても、任務失敗で冷酷なデス・ナイトに処刑されるわね。
無理に私を連れて行こうとしたら・・・ゼーラム=ダブルナイトが私を見捨て るはずないから、後をついてきて、やっぱりレモニアさんは殺されちゃうかもし れない。
ゼーラム=ダブルナイトは、ここで私を見失えば任務失敗だし、無理をして彼 女を刺激すれば、私が殺されちゃう。
私が殺されたら・・・レモニアさんはゼーラム=ダブルナイトに殺される。
3人が3人とも、身動きがとれない。
どうすればいいの?。
このまま、無駄に時間が過ぎていくの?。
世界は・・・私達の気づかないところで動き出していた。
いいえ、ただ単に、私達が聞き逃していただけ。
私達の耳に船内放送が入ってきてるのに、頭はそれを無視するし、放送を情報 として捕らえ、活用するだけの余裕もないの。
ゼーラム=ダブルナイトの背後、通路の奥から悲鳴とざわめきが、そして足音 が響いてくる。
それはどうやら、まだ流れている船内放送でパニックに陥った乗客達のもので 、それが徐々に大きくなり、何十人という人間が、ゼーラム=ダブルナイトの背 後から私達の方へと駆け出してくる。
その内の一人が、「ドンッ」と音をたててゼーラム=ダブルナイトの背中を小 突き、一瞬、私達から彼の気がそれる。
『うっ、・・・あっ。』と、言葉を発するゼーラム=ダブルナイト。
最初のそれは肉体的ショックによるもので、後のそれは精神的ショックから出 た言葉かしら。
レモニアさんはその隙をつき、ゼーラム=ダブルナイトに背を向け、私の手を 掴んだままで走り出す。
『ぜっ、ゼーラムさぁん!。』
私は助けを求め、叫び声をあげながら抵抗するけど、それは大移動をおこして いる乗客達のざわめきにかき消される。
それに・・・ゼーラム=ダブルナイトに近づこうとしても、押し寄せてくる乗 客達に阻まれ、逆に人波に流されてゆく。
これじゃぁ、ブラック・ホールの奥まで不幸よ。
でも、「不幸中の幸い」って言葉があるけど、ほんとね。
『・・・あっ・・・。』
レモニアさんが急に声をあげる。
乗客の一人が私達の間に割り込み、彼女の左手が私の右腕から離れたの。
私って、宇宙の果てまでラッキーッ。
でも、ゼーラム=ダブルナイトの方へは移動できないし、その姿も見えない。
『まつ、待ちなさいっ。』
レモニアさんは私に向かって命令するけど、誰がいうことを聞くもんですか。
でも、背の高い彼女の目が、まだ私を捕らえてる。
『ビッー。』
私はレモニアさんに舌を出して見せ、体を屈めて姿を隠す。
『どっ、何処?。どこにいるの?。』
あなたなんかに答えてあげないよーだっ。
私はそのまま壁ぎわに移動し、乗客達とは別の通路へ飛び出した。
ゼーラム=ダブルナイトと・・・はぐれたけど、敵から逃げるのには成功した わ。
これからどうしようかしら?。
今、私が信用できるのは・・・ロッドさんとゼーラム=ダブルナイト、それに 船長さんだけ。
ロッドさんは殺されたみたいだし・・・それに、船長さんはシルバーに丸め込 まれて騙されてるかもしんない。
だから、助けを求める相手として、船長さんは除いとこう。
考え事をしていると、「ぽんっ」と、誰かが私の両肩に手を置いてきた。
だっ、誰?。
もしかして敵?。
『ひっ。』と悲鳴をあげて、私は体をのけ反らせたわ。
背後からは・・・。
『見つけたぞぉ。』
背後からの男の声。
振り向く私の目に入ったのは・・・。
『ろ・・・ロッドさん?。』
でも、ロッドさんはタゥーロウ=ヒドラに殺されたんじゃあなかったの?。
『どうしました、セリルさん?。まるで幽霊でも見ているようですよ。』
そうかもしれない。
私は、ロッドさんの幽霊を見てるのかもしれない。
目の前の世界が前後に揺れてる。
『セリルさん、しっかりして下さい。』と、私の耳にロッドさんの声。
はっと自分を取り戻し、回りを見る。
世界が揺れてたのは、ロッドさんが私の体を揺すってたせいね。
ロッドさんは、半分ボーッとしている私の手をとり、歩き出す。
『どこへ行くの?。』
私の質問に、ロッドさんは足を止める。
『さーて、どこへ行きましょうか。わたくしの部屋も危険でしょうし、セリル さんの部屋も危険です。船内はパニック状態だし・・・。』また、船内が揺れる 。
どこかで爆発が起きたのかしら。
『これで4回目です。』
4回?。
私が感じたのは、今で2回目よ。
それとも・・・乗客に巻き込まれてて、感じなかっただけかしら。
『セリルッ。』
さっき私が出てきた通路・・・乗客達が右から左へと通って行った通路の方か ら声がする。
あれは・・・シルバーさんの声だ。
振り向くと、ヒドラに打たれたわき腹を、押さえながら近寄るシルバーさんが いる。
『セリル、こっちへ来るんだっ。』
い、嫌よ。
誰が嘘付きの言葉に従うもんですか。
私は首を横にフルフルと振ってみせる。
その隣でロッドさんが左手で私をかばい、右手でシルバーに銃口を向ける。
シルバーも慌てて銃を抜く。
そのシルバーにロッドの質問が飛ぶ。
『それでセリルを狙うのかっ?。』
そう、シルバーの銃口は私に向けられている。なぜ・・・やっぱりロッドさん のいうように、暗殺者の仲間なの?。
信じたくない現実に、恐怖で首を横に振る私。
同じように、首を横に振るシルバー。
『シルバー、我々は撃てまいっ?。』
ロッドの言葉に、シルバーの口が重々しく開く。
『なぜだ・・・。貴様・・・。』
『無駄だ、ダブルナイト。それとも、ニセ・ダブルナイトとでも呼ぼうか?。 』
なんか・・・ロッドさん、体格に似合わずかっこいいわ。
シルバーさんは・・・暗くなってる。
『シルバーさん、あなたの正体は、先のヒドラとの戦いで見せてもらいました よ。わたくしは、あの客室でヒドラに殺されたふりをしながら、通路の様子をう かがっていました。あの時、セリルさんとゼーラム=ダブルナイトが去った後で 、あなたはヒドラと握手していましたね。肩をたたき合っていましたね?。あな たが、暗殺者の協力者だったんですね。』
ロッドさんの追求は厳しく、シルバーはしどろもどろになってる。
『それは・・・』
『黙りなさいっ。』
ロッドさんはシルバーの言い訳を許さない。
『偽物のあなたには、ダブルナイトの記憶などない。あなたには、ダブルナイ トの本名さえ言えないっ。』
『名前は・・・忘れた。』
シルバーは・・・もう何も言えなくなってる。
ロッドさんが言ったように、自分の(?)、ダブルナイトの本名を知らないよ うだわ。
私も知らないし、多分ロッドさんも知らないと思う。
けど、シルバーは答えられない。
嘘をつく事も出来ないほど、追いつめられているのかしら?。
口で勝てないシルバー=ニセ・ダブルナイトは、もと来た方へと走りだしたわ 。
一時的な撤退というやつかしら。
『止まれっ。』
ロッドさんの言葉でシルバーの足が止まるが、そのまま床を転がるようにして 、T字路の影に隠れてった。
ロッドさんもそれ以上深追いすることもなく、銃をしまって先を進む・・・私 の左手を握りしめたままで。
シルバー=ニセ・ダブルナイトが反撃してくるかもしれないのに、武器をしま うのは自信の表れ?。
それとも、シルバーが姿を見せないと確信しているの?。

『今、安全なのは・・・誰もいない、どこかの喫茶室がいいな。』
それだけ言うと、通路の途中にある喫茶室に入っていく。
中は思った通り、誰もいない。
乗客も、ウェイトレスも避難した後で、誰もいない。
でも、サイフォンに出来たてのコーヒーが入ってる。
ホット・イチゴ・ミルクティーの方がいいけど、その作り方はわかんないし、 それで我慢するしかなさそうね。
私は2つのコーヒーカップを取り出し、その中にコーヒーを注いでみる。
これも意外と簡単に出来るのね。
カウンターの上にはクリープとかの混ぜ物があるから、それらをお盆に一緒く たにして、ロッドさんの待つ、4人掛けのテーブルへ運んでみる。
私って、ウェイトレスの才能があるのかしら?・・・きっとそうよ!。
『はい、ロッドさんへ。』
私は、ブラック・コーヒーの入ったカップを目の前に運び、ついで自分のカッ プを引き寄せる。
フカフカの椅子にロッドさんと向かい合う形で座ると、あったかいコーヒーを 一口、喉に流す。
ついで、「ググゥー。」とお腹がなる。
だって、食堂では事件に巻き込まれてお腹がカラッポのままだしぃ、仕方ない じゃない?。
『あっれぇー?・・・。』
私は恥ずかしさのあまり少し照れてみせ、辺りを物色する。
あ、あったぁ。
色とりどりのケーキさん達。
私は棚にしまってあるケーキの中でもおっきなのを容器ごとテーブルに運ぶ。
そして、そのかけらを一つ手に取り、食べてみる。
「パクッ」と音をたてて食べてみると・・・おいし〜い!!。
ロッドさんは、せっかく私が出したケーキも食べないし、せっかく私が入れた コーヒーも飲もうとしない。
ポケットの中をごそごそと、何かを探してる。
『ロッドさ・・・。』
私が喋り終わる前に、右手でそれを止める。
その右手には、何かキラキラした鎖が見えるわ。
『実は、こうして2人っきりで聞きたい事があったんだ。』
こんな時に質問?。
それより、こっちが聞きたいわよぉ。
『ロッドさんは・・・シルバーさんが、ヒドラと交渉しているのを見たの?。 会話の内容を聞いたの?。』
『それより・・・。』
嫌よ。
私の質問が先なのっ。
『どうなの?。教えてよっ。私の知りたい事を教えてくんなきゃ、何も聞かな い。何も言わない。何も見ない〜っ。』
私は意地になって、ロッドさんの前で耳を塞ぐ。
もちろんロッドさんの声は聞こえるけど、私を子供だと思って甘くみるんなら 、わがまましちゃうぞぅ。
ロッドさんは・・・顔色を変えたけど、すぐにいつもの表情に戻り、ため息を つきながら説明してくれた。
『・・・わかりました。セリルさんにはかなわないなぁ。で、シルバーさんの 事だけど・・・。彼らは、セリルさん達が去ってすぐに戦闘を中止し、握手を始 めました。私もびっくりしましたよぉ。まさか2人が、仲間だったとは。』
『それじゃあどうして、シルバー・・・さんは私を暗殺者に引き渡さないの? 。どうして私を守っているの?。不自然じゃない?。』
『簡単な事です。今までは、暗殺者と金額の面で折り合いがつかなかった。そ れに、お金をもらう前にあなたを暗殺者に渡したら、約束をほごにされるでしょ う。そして・・・さっき、暗殺組織がシルバーさんの銀行口座にお金を振り込ん だらしいですよ。これは私の権限で、銀河帝国情報局から得た情報ですから、間 違いないでしょう。』
それなら、なぜ私を暗殺者に引き渡さないのかしら。
その事を尋ねてみると・・・。
『今後の事を考えて、セリルさんを守りきれなかった振りをしたいのさ。わた くしとゼーラム=ダブルナイトを騙し続ける必要もあるでしょうから。例えれば ・・・セリルさんの育ての両親が、シルバーにあなたをさらわせたようなもので す。』
あの時の事を思い出すと・・・悲しさと一緒に、無性に腹が立って仕方がない わ。
あのシルバーさんは、ソウル・イーター以上に陰険で嫌らしい性格をしてたの ね。
もう、許さないんだからぁ。
『そろそろ、いいかな?。』
なによ、ロッドさんったら、傷心の乙女を慰めようともせず、機械的に私から 情報を聞きだそうと言うの?。
ロッドさんの行動も許せない。
徹底〜的に邪魔したげる。
『まだよ。シルバーさんが偽物なら、本物のダブルナイトはどこにいるの?。 』
私は、ゼーラム=ダブルナイトがダブルナイトの変装した姿だって知ってるけ ど、ロッドさんはどうかしら?。
『わっ、わたくしは知りませんよ。多分、変装しているでしょうから。この船 に乗っているかさえ不明なのですよ。それに、憶測で決めつけるのは、乗客の誰 かを暗殺者だと決めつけるぐらい酷いことです。もう一つ教えてあげましょう。 その少女を狙っている組織は、他にもたくさんあるようです。』
ロッドさんはゼーラム=ダブルナイトがダブルナイトだって知らないんだ。
これは私とゼーラム=ダブルナイトだけの秘密にしとこっと。
コーヒーカップを手に持ち、暖かい液体で乾いた喉を潤す。
次は何を質問してやろうかしら。
『何か新しい情報はないの?。』
『情報、ですかぁ・・・。この船の全エンジンが停止し、アドリーム号はその まま慣性飛行を続けています。亜空間航行と亜光速航行が出来ない以上、この船 での航行は時間の無駄です。幸い、<母なる水中の星系>までは救命艇で2日の 距離ですし、救難信号を出したそうですから、救援隊も助けに来てくれるでしょ う。わたくしの計算では・・・暗殺者にとって使用できる時間は・・・10時間 がいいところでしょう。あ、残念ながら暗殺者の割り出しは出来ませんでした。 』
そう、それで思いだしたわ。
『さっき、レモニアさんに襲われたのよ。それでゼーラム=ダブルナイトとは ぐれちゃったんだけど、私の機転で、私一人の力でレモニアさんから逃げてきた の。レモニアさんも暗殺者で・・・エンジェル・ウィングだと思う。』
確かエンジェル・ウィングはデス・ナイトの片腕だって話だから、やっぱり私 ってすごぉい。
あ・・・また船が破壊された振動を感じる。
『大丈夫。今の振動は、救命艇の1隻が船から離れたものだよ。』
ほんのちょっと不安げだった私を、ロッドさんが慰めてくれる。
私には、振動の差が何かは解らないけど、専門家が言うんだから間違いないよ ね。
『そろそろ、わたくしの質問に答えていただきたいですな。』
『えっ、はい?。』
つい、素直に返事しちゃった。
『では、これを見ていただきたい。』
ロッドさんは右手を開いて、鎖と、それと一緒の宝石を・・・ネックレスを見 せてくれる。
綺麗な緑色の石。
これと私と、どんな関係があるというの?。
『前に話したが・・・わたくしは、銀河皇帝の曾孫にあたる少女を探している 。これは、そのための手がかりなのです。』
そう言われても・・・私には何の事かわからない。
私が、その王女様の何を知っていると考えているの?。
まさか・・・そうか、私が王女様だと思ってるんだ。
いっそのこと、このまま王女様に化けちゃおうかな?。
『セリルさんは知ってるかな?、その少女が、ある事件の唯一のいき証人だと ?。』
私には関係ない事だし、歴史の授業でも習ってないもの、知ってるはずないで しょ。
フルフルと首を横に振ると、ロッドさんが言葉を続ける。
『今から11年前、皇帝の孫家族が民間の豪華宇宙客船に乗船し、お忍びで旅 行に出かけた。孫家族とはいっても、32才の王子と28才の婦人、そして1才 になったばかりの娘。彼らは当然の事ながら、銀河皇族の証たる3証を持ってい た。』
銀河貴族の娘役を演じるために、私も役作りのためにダブル・・・いいえ、シ ルバーから銀河貴族の3証を貰ってたわ。
銀河皇族ともなれば、その証の品は・・・それがあったら、お金持ちになれる わ。
『1才の娘も・・・生きていれば12才か。しかし、1才の赤ちゃんにどれだ けの記憶力があるだろうか?。』
・・・ロッドの独り言に、私はほんのちょっぴりがっかりした。
実は、私が王女様で・・・と、心の片隅では信じていたのに・・・私は10才 だし、該当しないし、王女様じゃぁないんだ。
『この、緑水晶のネックレスは婦人の物ですが・・・その王女様であれば、母 君がいつも首にぶら下げているネックレスに反応するでしょう。例え自分では意 識していなくても、潜在意識の中には残っているはずです。』
そうなのかなぁ。
言葉が難しいし、意味もわからないけど、今はうなずいておこう。
『でも、彼女を見つけると、何がわかるというの?。』
『あぁ、事件の説明がまだでしたね。少女の父君であるその王子は、趣味で考 古学者と宇宙物理学の博士号を持っていたんですよ。その婦人は天文学と宇宙先 史文明に興味を持ち、それが縁で2人は結婚したらしい。そして彼らは・・・銀 河系に関する、ある秘密を知った。その情報を得ようとする、ある人物によって 彼らは狙われ、豪華客船ごと消息をたった。帝国警察が十日間その宙域を調査し たが、何の手がかりも得られなかった。更にその十日後、同じ宙域で客船の破片 と思われる物が民間の輸送船によって発見された。当然、警察の無能さが暴露さ れたわけだが・・・。優秀な帝国情報局も同時期に活動していたはず。銀河皇帝 の一族が乗船していたのだからな。その情報局でさえ何も掴めなかった。これが 第一の謎だ。皇族は独自の船・・・宇宙帆船や艦隊を所持しているのに、なぜ民 間のあの船に乗ったのか。これが第二の謎だ。その後、あの船には巨大な宝石が 積まれていたと判明した。そのため、海賊や宇宙ジプシーに襲われたとも思われ たが、それなら救援を呼ぶ通信をしてきたはずだ。宇宙ブイも使うだろうし、何 らかの形でメッセージが残っているはずだ。今では、それらの秘密を知る方法な どないが、なぜ船が消えたのかを知る事は出来る。例え1才の赤ちゃんでも、そ の潜在意識の中には当時の出来事が記憶されている。それを、催眠術等で記憶を さかのぼる事で、なにが起きたのかを知る事が出来る。ただし、本人に精神的障 害が発生する可能性もあり、術は充分注意してかけないといけないが。』
銀河系の秘密?。
歴史の先生が言ってたけど、この銀河には2つの銀河規模文明が栄え、それを 出発点とする秘密が銀河に溢れているって。
で、そのネックレスを使って、私の反応を見に来たのね。
でも、残念でした。
私はニセモノで・・・つまり、役を演じきれない・・・でも、シルバーとの約 束は・・・シルバーは私をだまして利用したんだから約束は反故ね。
・・・それに、ロッドさんは私の味方だし、ほんとの事をいってた方がいいか しら?。
『ロッドさん、あのね私、本当は銀河貴族の娘じゃないの。』
あれ、あんなに・・・にこやかだったロッドさんの表情が少し険しい。
『それは、これからわかることだ。この緑水晶の中に入っている物がわかるか な?。』
え、何が隠されているというの?。
いくら目を凝らしても見えない。
それに・・・急に鎖の一端だけを持つんですもの、水晶が振り子のように揺れ て、のぞきにくいわ。
『よく見てごらん・・・。小さな球があるだろう?。』
ほんとだ。
それが光を発しながら水晶の中でクルクルと回ってる。
『もうすぐ、小さな子供が見えてくるよ・・・君とそっくりな子供だ。』
その・・・通りだわ。
ロッドさんの言葉に合わせ、回転する球に乗って私が現れる。
彼女は私の正面から見える位置まで来ると、回転方向とは逆に歩きだし、私と 見つめ合う。
私に瓜二つの、この娘はだぁれ?。
『その少女を帝国情報部として保護したい。そこで・・・君の正体だが?。君 は誰だ?。』
『わ・・・私は銀河男爵の娘・・。』
なぜか、ロッドさんの言葉に逆らえない。
ここで嘘をついて、ロッドさんの気持ちを裏切りたくない。
非力な私としては、ロッドさんの信頼と保護が欲しい。
『それは、君が船に乗る前の話だ。ダブ・・・シルバーさんには、なんて言わ れてるのかな?。』
あの人でなし・・・。
思い出したくないけど・・・。
『私の両親は科学者で・・・。』
『本当は王女様じゃないのか?。』
ロッドさんは、私のいう事が信じられないの?。
そんなに王女様だと思いたいんなら、嘘をついてあげようか。
『いいえ。私は王女ではありません。』
『では、この船に王女は乗っているのか?。』
そんな事いわれたって・・・知らないものは知らないのっ。
『わからない。私は何も知らないの。』
『そうか。』
ロッドさんはそれだけ言うと・・・ネックレスをポケットにしまう。
これってもしかして・・・私は少しも動けない。
ロッドさんの手がポケットから現れたとき、その右手には銃が握られている。
なぜ?、どうして?。もしかして・・・ロッドさんも暗殺者だったの?。
暗殺者マリオネット!。
それじゃぁ私達は、ず〜っと監視されていたのね。
思い返してみると・・・私達が暗殺者に襲われたとき、いつも彼が近くにいた わ。
私達の動きを仲間に教え、暗殺の機会を作っていたのよ。
ロッド・・・マリオネットにも騙されていたなんて・・・。
私の左目から、頬を伝ってひとすじの涙が流れていく。
自由の効かない私に出来るのは、涙を流すことだけね。
『悪くは思わんでくれ。これも仕事でな。君は・・・事故で死んだ事にしよう 。暗殺されたのではないから、わたくしには責任がなかったという事で。』
ロッドさんの手が持ち上がり、私の眉間に狙いをつけてくる。
もう、あの優しい表情は消え、暗殺者のそれになってる。
もうダメ。
ゼーラム=ダブルナイト、早く助けに来てっ。
『クッ。』と、ロッド=マリオネットの声。
いつまでたっても、私の体に死の衝撃がこない。
そーっと目を開けると・・・ロッド=マリオネットが右腕を押さえてる。
その右手にはチェーンが巻き付き、もう一方の端には・・・チェーンを握りし める、見たことのない男がいる。
歳は・・・20才・・・ぐらい?・・・かな。
シルバーと同じ歳に見える。
緑色の、20センチぐらいの髪がファサファサと揺れてる。
瞳は・・・私の、ピーコック・グリーンほどじゃないけど、綺麗な緑色をして る。
眉は・・・コバルト・グリーンで、強い意志の中に寂しさが感じられる。
シルバーの表情には力強さと陰りがあったけど、この人には・・・悲しみがあ る。
人はその気分次第で表情を変えるけど、たまに心の奥深くをのぞかせる事があ るわ。
この人は深い悲しみを背負ってる。
何かの小説だったかテレビだったかで聞いたんだけど、緑髪の子供には自閉症 が多いんだって。
それの影響なのかしら。
この人の肌は少し濃く、ゼーラム=ダブルナイトのように筋肉モリモリじゃな いけど、ダブルナイトよりも体格がいいかも。
身につけているのは・・・メタリック・シルバーの輝きを放つ作業着(?)で 、私にはつなぎ目がわからない。
その代わり、服には様々な小物とたくさんのポケットがついてる。
男は、1枚で両目を覆う眼鏡の一端に触れる。
すると・・・眼鏡に色がつき・・・サングラスから顔色は読み取れないけど、 かっこいいわ。
足にはブーツが、手には手袋がはめられてる。
この状態で、この人は何をしようというのかしら。
よくみると・・・右手に、小さな銃を持っている。
それを使えばロッド=マリオネットを倒せるのに・・・何をためらってるのか しら。
ためらってるように見えたのは私の誤解だった。
男はチェーンを引っ張り、壁ぎわに立つと、その銃の先端でチェーンを壁に抑 え込む。
そのまま男は引き金を引き、「ビシッ」と音をさせて、それを壁に固定させる 。
銃に見えたのは、チェーンを壁に撃ち込むための工具だったのよ。
『こっ、このぉっ。』
ロッド=マリオネットは怒鳴ろうとするけど、男は気にしていない。
それよりも・・・。
『お嬢ちゃん、いま暇かなぁ。美味しい料理を作るコックを知ってるんだけど 、これから食べに行かない?。もちろん、食べるのはコックではなく、美味しい 料理の方だけど?。』
な、何を言ってるのよこの人は。
笑顔を浮かべて・・・今はそんな場合じゃないのに。
「バギッ」
私達は一緒に音のする方を向いた。
そこには・・・チェーンを壁から引きちぎるマリオネットの姿が・・・。
まさかとは思うけど・・・暗殺者全員が特異体質だったとか?。
暗殺者を前にして、私達は目を合わせる。
『こっち?。』
え、何。正面に立つ私の鼻を右手で指さして・・・どうかしたの?。
『そっち!。』
今度は右肘をそのまま回転させながら、私にとっての右側を指さす。
壁に貼ってある絵がどうかしたの?。
ただの風景画でしょ?。
『あっち。』
右手はそのままにして、左手を私に差し出してくる。
握手でもしようというの?。
そんな暇ないのにぃ・・・。
しかたないから左手で握手すると・・・。
私に左横腹を見せるように足を開き、両手をあげて決めゼリフ。
『どっち?。』
あのね、そんなおどけてる暇なんかないのよっ。
『まいったなぁこりゃ。さあ、愛の逃避行を始めるぞ。』
もう彼の表情から、あの寂しさや悲しさは読み取れない。
限りなく暖かく、優しさと喜びにあふれた表情に変わってる。
そのどちらが、この人の本当の姿なのかしら。
『な・・・。』
なに、と聞く前に、私は腕を引かれていく。
・・・わかりました。
もう逆らいません。
誰がどうだか・・・とにかく誰にでもついて行きますってばぁ。
喫茶室には2つの出入口が、互いに反対になる壁についてる。
2つの通路を、喫茶室がつないでいる形のなってるの。
私達は、入ってきたのとは別の通路から逃げだした。
この人は私達が入ってきたドアから現れたんじゃぁないわ。
それに、ドアの開く音もしなかった。
あの喫茶室には、人がいないのを確認して入ったのよ。
それとも、誰かが隠れていたのかしら。
天井か床から現れたのかも。
背後から、「ガガガガガッ」と音がする。
私を誘導する男の人に振り返る余裕はないようだけど、私にはあるわ。
背後には・・・金属製のドアをこじ開けるロッド=マリオネットの姿が・・・ 。
『あの・・・。』
マリオネットが追っかけてくる、と言いたいのに、息をするのが精一杯で声が でない。
なのに、この人は何が起きているのか理解している。
『きゃぁ?。』
この人は私をかつぎ上げ、再び走りだした。
私には、背後から迫ってくるロッド=マリオネットしか見えない。
私の頭上を越え、何かが私達とロッド=マリオネットの間に落ちる。
それは、私を担ぎ上げるこの人が投げた物だと、何となくわかった。
その物体は床にぶつかったショックで、勢いよく白い泡を噴き出し、数メート ルもの幅になって通路を塞ぐ。
その泡が、どれだけの厚さになったのか理解出来ないけど、すぐに黒に変色し てく。
それが何で、どういう理由で変化するのかは解らないけど、ロッド=マリオネ ットの足止めに成功したらしいのはわかった。
壁や金属さえもぶちぬいて、走ってきそうなロッド=マリオネットも、あのへ んな物質には勝てないようね。
そして私達は第3展望室に逃げ込んだ。
助かったのね。
私は喫茶室から運び出され、誰もいない展望室にいる。
『ここは・・・。』
照明の一部が、他の照明と違ってる。
ここは、私がロッド=マリオネットにさらわれた時、シルバー=ニセダブルナ イトがゴーレムと戦った場所だと聞いた娯楽施設だわ。
ロッド=マリオネットからシルバーが暗殺者と取引をしていると聞いた時、こ の戦闘も嘘だったのかと思った。
でも、こうして来てみると・・・戦いの名残が感じられる。
それじゃ、シルバーさんは本当に、ここでゴーレムと戦ったのね。
『さてと・・・。』
この人の言葉で、私は・・・現実に引き戻された。
私を担いで、ここまで運んできたこの人は誰なの?。
敵?、それとも味方?。
私は急に、救世主の正体を知りたくなった。
でも、サングラスのせいで、顔も表情も読み取れない。
『あ、あの、ありがとう。あなたは・・・誰なの?。』
男は壁に背中をくっつけ、サングラスをかけたままで答えてくれた。
ほんとはサングラスを外して欲しいのに。
『オレかい?。オレは、人さらいだ。銀河を駆け巡る、優秀な人さらいだ。あ んたは・・・高価な商品なのさ。』
ゲッ、ゲロゲロゲンゲン元気な子。
つまり・・・私は、敵の手から、別の敵の手に移っただけなのねっ。
ゼーラムさ〜ん、早く助けにきてよぉ。

人さらいは・・・展望室にある2つのドアの内、私達が入ってきたドアの足元 に直径2センチぐらいの白いカプセルをたたきつけ、急いでもう一つのドアの前 に移動する。
白いカプセルが割れると、中から勢いよく泡がたち始める。
これは・・・そうよ、さっきマリオネットから逃げる時に使った物質だわ。
それが急速に回りの空間を埋めつくし、ドアからの出入りを不可能にする。
『こいつは特殊プラスチック・ゴム製でね、金属のような硬さはないが、弾力 性に優れている。怪力の持ち主やロボットでも、素手では穴を開ける事など出来 ないし、加速をつけて破ろうとしても、跳ね返されるだけだ。例えて言うなら、 あのゴーレムの皮膚よりも弾力がある。』
つまり、敵が(ゼーラムさんを含めてだけど)私達を追って、ここから侵入し てくるのは不可能なのね。
『けっして不可能じゃあない。もし、そのドアの向こうにヒドラがいたら、こ の物質の弱点を見抜くだろうな。』
今、気がついたけど・・・カプセルをたたきつけて、急いで移動したのは、あ の物質に巻き込まれるのを避けるためじゃなくって、もう一つのドアの前に移動 して、私の逃げ道を絶つためだったんじゃあ・・・。
『フーッ。まずはひと休み、とするか。』
人さらいは、穏やかな表情を私に向けながら、入り口のドアを背にして座り込 む。
ダメよ。
いくら私を油断させようとしても無駄よ。
どうにかしてゼーラムさんと連絡をとるか・・・ここから逃げ出すかしないと 。
他に出入口はないし、回りには武器になりそうな物はないわ。
武器?・・・あるじゃない!。
私の秘密兵器が。
どうにかして武器を取り出さないと・・・でも、人さらいが私から目を離さな い。
マリオネットに操られた乗客達の動きは鈍く、簡単に倒せたけど・・・マリオ ネットとのやり取りを思い出すと・・・奇襲をかけて勝てるかどうか・・・。
『エヘヘヘ・・・。』と、人さらいに笑顔を返す。
私の考えを読まれないように、造り笑いでごまかす、わ・た・し。
人さらいは仰々しく両手を頭上に掲げ、手首の所でクルクルと回転させながら 降ろしてくる。
それが、へその辺りでビタッと止まった時、その両手には真っ赤な果物が2つ 乗っていた。
『ま・・・魔術ねっ。』
それとも、手品なの?。
そう呟く私に、人さらいが自慢げに説明してくれる。
『これこそ、ミドルリング文明五万年の仙術!。』
ミドルリング文明・・・今から2つ前の銀河系規模文明の秘術・・・それとも 、科学力?。
天使とか翼人とか翔猿と呼ばれる伝説の高等知性生命体。
まともな歴史を学んでいるなら、誰でも知っている事よ。
伝説って事しか知らないけど。
『あんっ。』
急に両手が重たくなった。
そこには、人さらいが空中から取りだした(と見える)果物の一つがあった。
いつの間に、私にこれを持たせたの?。
そんな・・・納得できそうにない私に話しかけてくる。
『オレの恋人が考古学者でね。このぐらいは、人さらい・・・さ。』
『ひとさらいぃ?。』
それって、どーゆー意味?。
『あっという間・・・さ。恋人の女優が好んで使ってる言葉さ。』
それって、変ね。
『恋人は考古学者じゃなかったの?。』私の質問に、人さらいは肩をすくめて 答えてくれる。
『恋人は・・・数十人いや、数百人は・・・いるかな。』
犯罪者のくせにぃ、人さらいのくせにぃ、そんなにもてるなんて許せない。
確かに・・・顔はいいけど。
きっと、人さらいの他に、結婚サギもしているんだわ。
だから・・・おもいっきり睨んでやったら・・・今度は空中から花束を取りだ した。
『そんな顔は、美しい君には似合わない。あなたの女神のような笑顔こそ、宇 宙を照らす唯一の光。白い花が嫌いなら・・・黄色に。黄色が嫌いなら赤に。あ るいは青に、黒に、それとも白に?。』
彼の言葉に合わせて、花束の色が変化していく。
でも、こんな物でごまかされたりしないわ。
そう思ってるのに、私の両腕の中に花束を入れてくる。
花の色は、彼が手を離した瞬間から色とりどりに変わる。
花々からは、胸ときめくような香りが漂い、人さらいの右手が私の左肩に伸び る。
あ・・・危ないっ。
つい見とれてしまったわ。
自分を失うとこだったわ。
私は、私の肩に触れそうな腕にかみついた。
あの甲冑男にも痛みを感じさせたんだから。
『いたーっ。』
叫び声をあげたのは私の方だった。
彼の腕には・・・服の下に、何か硬い物を仕込んでる〜。
『ひひゃ〜い。』
口を押さえる私に、人さらいは笑いかけてきた。
『は・・・はははっ。』
な、何がおかしいのよぉ。
私をバカだと思ってんでしょう?。
『果物よりも、花束よりも、俺の腕の方が旨そうだったか。はははーっ。』
な、なによなによぉ。私・・・。
『う・・・ぷっ。ふふふっ。』
私もつられて・・・。
『はーはっはっ。』
『ふ・・・ふきゃはははっ。』
も、もうダメ。
私は訳がわからなくなり、一緒に笑いだしてしまったわ。
この人さらい、けっこう良い人なのかもしれない。
もしかしたら、助けてもらえるかもしれない。
『・・・お願いがあるの・・・。』
『いやだねっ。』
いきなり拒否されて、白い空気が流れてく。
あ・・・あれ?。
『あ、あ・・・あはははっ。』と人さらい。
『ふ、ふふふふ・・。』と私。
そして再び、空気がピンク色になった。
きっと私の誠意が、伝わらなかったのね。
そこで人さらいの前にひざまずき、果物と花束をもった両手を、胸で合わせて 頼み込む。
目を潤ませて・・・。
『お願・・・。』
プライドの高い私が、こうしてお願いしてるんだから・・・。
『だめだ。』
今度は、私が最後まで言う前に拒否する。
・・・だんだん腹がたってきた。
『なぜよぉ。まだ何も言ってないじゃないっ?。』
『長年の経験から、商品の頼みを聞くと、ろくな事にならないのを知ってるか らな。』
そして、果物を食べ始める。
私もつられて一口食べてみる。
みずみずしくって甘くって美味しいっ!。
そう、お腹がまだペコペコなのよ。
でも、頭は別の事を考えてる。
人さらいのさっきの言葉は、鋭いわね。
暗殺者からの弾よけに利用しようと思ったのにぃ。
こーなると・・・人さらいから逃げて、ゼーラムさんと合流しないと・・・。
何度見渡しても、私の秘密兵器以上の武器は見当たらない。
手にもっているのは果物の芯だしぃ。
あれ、その芯が短剣に変わってる。
よくわからないけど、宇宙の果てまでラッキーッ。
日頃の行いがいいから、神様が助けてくれたのよ。
あるいはこれも・・・ミドルリング文明五万年の仙術なの?。
『そ・・・そこをどいてよぉ。こっ、これが見えないの。な、ナイフなんだか らぁ。』
私、本気よ。
人さらいは、ナイフを構える私を前にして、静かに胸ポケットから赤いスカー フを取り出してみせる。
それを何に使うの?。
『ナイフ?。オレには花束しか見えないけど?。』
彼はそのまま、大きく広げたスカーフで、私のナイフを覆う。
それがナイフから離れたとき、ナイフ・・・は花束に変わっていた。
『これこそミドルリング文明五万年の仙術。』
私は虚脱感に襲われ・・・ヘタヘタヘタ〜っと、床に座り込んだ。
結局私は、彼の掌の上で踊ってただけじゃない。
こ、この、のうてんき者〜っ。
こうなったら・・・なんか、お話ししてもらうからねっ。
『もしかして、シルバー・・・さんを・・・知ってる?。』
シルバーさんも、この人と同じ人さらいだから、何か知ってるかもしれない。
『君の教育武官なら・・・同業者みたいなものだからな。』
やっぱり、知ってるんだ!。
ここは黙って、人さらいの話しを聞いてよう。
『あいつは・・・オレと違って犯罪者だからな。』
・・・あのね、人さらいも犯罪だよ。
それを・・・自分は悪くないみたいに言うなんて・・・。
『ま、あいつも・・・それほど悪いやつでもないし・・・。
あいつの仕事を奪う気もないけど。』
ほんとかしら。
もしシルバーさんの仲間だとしたら・・・やっぱり悪者だよね。
そのシルバーさんをかばうんだから・・・この人、ものすっごく悪い人かも。
『この船に乗ってるんだから、ダブルナイトに任せておけば大丈夫。』
ウィンクしたって、騙されないよぉ。
でも、ダブルナイトも知ってるってことは、案外、良い人かも・・・。
『ダブルナイトを知ってるの?。』
私の質問に、人さらいは軽くうなずく。
『そうか・・・正体を知っているのか。あいつは銀河8大シンジケートとトラ ブルをおこしているからな。暗殺者の相手も手慣れたものさ。』
???。
『銀河8大シンジケートってなあに?。』
そんなの、学校で習わなかったよぉ。
『・・・この銀河系には、人類及び亜人類によって組織された犯罪組織が数多 く存在する。その中でも最大規模を誇る8大組織のことだ。それらは互いに敵対 したり手を組んだりしながら現在に至っている。1つは、ただ単に暗殺ギルドと 呼ばれている組織。あまりにも知名度がありすぎ、余分な形容詞や名称はついて いない。今回、君を狙っているのは暗殺ギルドのメンバーだ。第2に・・・。』
その時、ドアの向こうから足音が響いてくる。
ここへと近寄ってくる足音が。
『ゼーラムさん?、ダブルナイトォっ。ここよぉ。たすけてぇ!・・・。』
期待に小さな胸を膨らませる私の口を、人さらいが無理矢理抑え込む。
『ム・・・ムゴガガッ。』
別に喉に物が詰まったわけじゃない。
それに、もう遅いわよ。
私はもうすぐ、この人さらいから解放されるわ。
『ばっ、バカ野郎っ。あの足音は、あいつは敵だーっ。』
えっ、ゼーラムさんじゃなかったの?。
それじゃ・・・。
人さらいの言葉通り、第3展望室に入ってきたのは・・・ロッド=マリオネッ トだった。
『ハハハッ。ついに見つけたぞっ。』
脂ぎった顔に殺意がうかんでる。
私は慌てて人さらいの後ろに回り込み、彼も私をかばってくれる。
『おとなしく・・・そいつを渡せぇっ。そうしたら、命を助けてあげますよ。 』
そっ、そんな取引に乗るわけないでしょ。
さっさと断ってやってよぉ。
『いくらくれる?。』
「ンガッ」と、私のアゴが外れた。
外れたのと同じぐらい、呆れてしまった。
所詮、人さらいは・・・人さらいなのよね。
『金か・・・1万リーンでどうだ?。』
い、1万リーン?!。
私は言葉も出ない。
1万リーンといったら、私の小遣いと同額じゃない?。
私の命は、そんなに安くないわよぉ。
なのに、人さらいは話しを続けてる。
『それは安いな。1億リーンは貰わないと・・・話しにならないな。それも現 金で、今すぐに、連番なしで。』
そうよ、私の命にはそれだけの価値が・・・違うのよ、そうじゃないの。
やっぱり、この人さらいはプロの犯罪者だわ。
でも、ロッド=マリオネットも負けてはいない。
『しかたないなぁ。金はないが、同等の価値がある宝石ではどうかな。』
ポケットの中に左手をいれ、あのペンダントを取りだした。
催眠術を使うきだわ。
この人さらいからも逃げ出したいけど、それ以上にマリオネットの方が怖い。
『あの・・・。』
『やめな。オレがサングラスを掛けている限り、催眠術は、やるだけ無駄だぜ 。』
わたしが声を出すまでもなく、人さらいは全てを知っていた。
いったい、誰に聞いたのかしら。
ここでもまた、私をめぐって男達が戦うのね。
私って罪。
そこへ、今までにない大きな衝撃が走り、2人の体が窓の方へと飛んでく。
私は・・・たまたま近くの壁についた取っ手(たぶん、無重力用だと思うんだ けど)にしがみついて、吹き飛ばされずにすんだわ。
チャンスは今しかない。
私は急いで展望室を後にした。
早くゼーラムさんを見つけないと。

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