プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章
☆☆☆ 14.セリル ☆☆☆
わ〜い、わ〜いっ!。
プールだ、プールだぁっ!!。
<母なる水中の星系>に着いた途端、ソファでくつろいでるダブルナイトのお
にーちゃんが、私を今からプールに連れてってくれるっていったーっ!。
ダブルナイトが約束を破る事はないけど、約束した事をさき延ばしにする事が
ある。
プールは、先延ばしにはさせないぞ。
だから・・・すぐ行く今行く、早く行くのーっ!!。
プールはアドリーム号に初めて乗った日以来だから、私は嬉しくって、寝室の
ベッドの上で泳ぐ真似をしちゃった。
プールも、船内の一般プールじゃなく、宇宙ステーションの中に設置されてる
、貴族用超豪華お徳用スペシャル・デリシャス温水遊園プールなのよっ。
パンフレットによると、プールはお子様(未成年者)用/成年者用/老人用/
????用の4つのテーマに分かれ、各々には幾つかのアトラクションや軽食設
備があるの。
????用っていうのは・・・子供は知らなくてもいい!!・・・とダブルナ
イトが顔を赤くしながら言ってた。
それ以外の3つについては、年齢対象外の客も利用できるけど、アトラクショ
ンには参加できないの。
私が入るのは、もちろん成年者用プールに決まってるわ。
ダブルナイトは私を子供だと思ってるでしょうけど、10才の女の子っていっ
たら、もうオ・ト・ナよ。(10才の男の子は、まだガキね。)
だから、お子様用のプールには入らないの・・・でも、アトラクションを見学
するために入ろうかしら。
なんて勉強熱心な、わ・た・し。
その私に向かって、ダブルナイトの冷たい言葉。
『あ・・・船内のサービス・カウンタからは水着が借りられないぞ。船外のプ
ールに入るんだから当然だな。』
私はベッドから、がばぁっと起きあがると、居間に走り戻った。
『私、水着持ってないのよ。どうするのよ〜っ!。』
ダブルナイトは声を出さずに笑ってる。
私を馬鹿にしたな〜っ。
怒っちゃうぞっ!!。
『これが何か解るかな?。』
ダブルナイトは私に向かって、テーブルの上の包みを差し出した。
いったい、何だろう・・・水着に決まってるじゃないっ!。
私はあわてて、ダブルナイトの手からひったくる様に奪う・・・様に受け取る
。
『ありがとう。』
大きな声でお礼を言いながら、ガサゴソと包装紙を破り、ビリバリと袋を破り
、赤・白・黄色の縞模様に染まった布地を手にした。
でも、これってビキニじゃな〜い。
もしかして、庶民が使う、おぞましい一般スクール水着?!。
上に乗った帽子をテーブルに置き、水着をおそるおそる広げてみると・・・一
般スクール水着じゃない?。
首の部分は喉まで伸びてるし、腕は肘まで、足は膝のところまであるっ!。
ヤダヤダ、ずぇ〜たいにイヤ。
信じらんな〜いっ!!。
『これは、銀河貴族の娘が着用する正式な水着で、サービス・カウンタで借り
てたのは金持ちあるいは惑星貴族が使用する水着だ。それが、サービス・カウン
タで最上級の水着だったんだ。』
な、なんで〜っ、なんで銀河貴族用の水着がないの?。
『じっくりと考えてみれば判るはずだ。星域貴族や銀河貴族が、自分の水着を
持たずに旅行すると思うか?。更につけ加えるなら、星域貴族や銀河貴族が、そ
れ以外の人間に対し、進んで素肌をさらすと思うか?。』
ううっ、そんなに責めないでよっ。
ダブルナイトの言うとおりにするから・・・でも、この水着はひどいよ〜っ。
センス悪いしダサイしかっこ悪い〜っ。
『・・・本当は、色も紺一色だけとか、黒一色とかで地味なんだけど、セリル
のためだけに、一流デザイナーに特別に作らせた逸品なんだけどなぁ。』と、ダ
ブルナイトが残念そうにつぶやく。
え、え〜っ、えへへへ。
やっぱりぃ?。
そーじゃないかと思ってたのよ。
こーして見直すと、3色の幅にもデザイナーの心配りが見えるわ。
これを着こなせるのは、銀河広しといえど、この私だけね。
着たげる・・・喜んで着ちゃうわ!!。
『着る着るぅ〜っ。』
私は急いで寝室に戻ると、衣装ダンスの鏡の前に立って着替える。
そうね、これは私に一番似合うわ。
私の魅力を十分引き出す水着ね。
一応、鏡の前で回ってみる。
何処からみてもステキね。
早く居間に戻って、ダブルナイトにも見せてあげないと。
『おにーちゃん、どお?。』
ダブルナイトは私を見ると、口に含んだ紅茶を、音をたてて飲み・・・・。
『ンゴォフッ、ゲファフッ・・・ハァッ、ハッ、ゴフォッ。』
な、なんでむせるわけ?。
レディに対して失礼じゃない!!。
『す、すまないっ・・・。つい見とれて・・・紅茶を肺に入れてしまった・・
・。』
私の美しさに見とれて、紅茶を入れる場所を間違えたのね。
・・・わかる、解るわ・・・その気持ち。
もし鏡を見ながら紅茶を飲んだら、私もむせていたと思うわ。
どうにか息を整えたダブルナイトは、大きな袋をテーブルの下から取り出しな
がら私に指示する。
『水着の上に、この中に入ったトレーナーを着なさい。それが終わったら、プ
ールに行くぞ。』
船内では私の立場が上なのに、この客室内と二人っきりでいる時はダブルナイ
トの方が偉い・・・。
でも、これからプールだっ!。
そう思うと、袋を開けるのも、もどかしい。
トレーナーは若緑(わかみどり)で、全身にキラキラする結晶がちりばめられ
てる。
ケイヒセツゲンのため、宝石は使っていないとダブルナイトがいってた。
ケイヒセツゲンってわかんないけど、なんか悲しいわ。
準備を終えた私達は、サービス・カウンタで発行されている2枚のビップカー
ドを手にし、アドリーム号を下船する。
宇宙ステーションのゲートでカードのチェックを行い、プールに乗り込む。そ
の入り口は幾つかに別れてて、私達は成年者向けビップ用の専用着替え室(個室
)から入り、水着になって、プール側の入り口を通る。
着替え室は常にロックされてて、中に入るには、登録されたビップカードが必
要なの。
だから、何の心配もなく、プールで遊べるわ。
ビップカードは耐水性、耐熱性、耐磁性に優れてて、プール内で身につけてい
ても平気なの。
だって、女の子なんだもん。(男の子でも、大人でも身につけてても平気なん
だよ。)
『うわぁ・・・。』
そこは2階だった。
2階の他のビップルームとは、いま立っているベランダ(?)でつながってる
。
見おろすと、様々なプールと、アトラクション・ルームへの入り口が見える。
見上げると、天井のドームは半球上になってて、その外を魚や亀のような生き
物が泳いでいる。
すっご〜いっ。
でも・・・外は宇宙空間よね。
それじゃあれは、いまだ発見された事のない宇宙生物なの?。
そんなはずないわ。
宇宙生物が発見されたら、銀河に対するビッグ・ニュースよ。
でも、誰も驚いていない。
『わかった!!・・・ドームが二重構造になってて、その間を魚が泳いでるの
よ。』
そう叫んだ私を、ダブルナイトが驚いた表情で見てる。
それも一瞬で、私の心を見透かした彼は、上を指さしながら説明してくれた。
『あれは、この星系内にある<光輝く海の惑星>の一都市から送られてくる映
像を、ドームに張り巡らしたスクリーンに、写しだしたものだ。これは、<母な
る水中の星系>が宣伝を兼ねてサービスしている。これを見た乗客が星系に関心
を持ち、観光客になる事を期待すると同時に、宣伝マンとなる効果を狙っている
。』
そうね、そうかもね。
それより早く行こうよ。
でも、私の右腕を放してくれない。
あ〜んっ、早く行こうよ〜!。
『その前に、これを見ようか。』
ダブルナイトの視線の先には、たった今でてきた入り口がある。
よく見ると、一枚の張り紙が濡れないようにくっついている。えっと〜。
『成年用のプールにようこそ。ここにはカップル専用のアトラクションと、相
手を見つけるためのアトラクション、それ以外のアトラクションに分かれていま
す。プールは深さ10メートルのもの、高さ10メートルの飛び込み台、長さ5
00メートルの滑り台、人間魚雷の発射台。』
こんなに文字ばっかり読んでらんない。
『で、何処に行く?。』
ダブルナイトの問いかけに、私は大きい声で答える。
『恋人達のアトラクション!!。』
『・・・・・。』
ダブルナイトは、顔を歪めたまま黙ってる。
『なによっ、私じゃ不服とでも言うの?。』
『少なくとも、お嬢様と、その教育武官が入る場所ではありませんが?。』
つまんない。こーゆー機会でないと、入れないと思ったのにぃ。
つまんない!つまんない、つまんな〜いっ!!。
『君達、道をあけてくれないかな?。』
振り返ると、筋肉質のおじさんが、目の前でこっちを見てる。
思慮深い目と、鼻の下のひげが特徴ね。
短くカットした鉛色の髪が、渋い顔に似合ってる。
その男が、ダブルナイトに敵意を見せている。
『君は恥ずかしくないのか?。相手はまだ子供だぞ?。』
もしかして、このおじさん・・・勘違いしてる。
『ご、誤解です。この子は銀河貴族の娘で、私は教育武官・・・。』
でもおじさんは、ダブルナイトに反論する隙を与えない。
『ほう、よくある話だな。しかし、こんなに年の離れた子供を・・・。君みた
いな教育武官を見てると、怒りがおさまらん!勝負だ。勝負で貴様の根性を叩き
直してくれる!!。武器は何でもいいぞ。』
もしかして、この原因は私なの?。
私は・・・嬉しいっ。
私を巡って、2人の男がけっとーするのよ。
もー、ぞくぞくしちゃうっ!!。
『では、選ばせてもらう。武器は・・・長棒だ。』
長棒?、なにそれ・・・。
『よかろう・・・この宇宙ステーションにも競技場があるから、そこで、30
分後に勝負だ。まず、ここから出るぞ。着替え室の外で待っておれ。』
あれ、私、およげないのかしら?・・・。
憤慨するダブルナイトと水着を脱ぎ(私は乙女よ。着替え室は2つに区切った
に決まってるでしょ)、服を着て通路に出た。
そこでは、あのおじさんが不満げにたってる。
『今時の若造は、目上の者や年長者を平気で待たせおる。嘆かわしい事だ!。
』
吐き捨てるように言うと、さっさと私達の前を歩き出す。
『ついてこい。』
たったそれだけ。
プールに入る楽しみを失った私は、そんなに失望はしてない。
だって、ダブルナイトの活躍が見れるのよぉ。
もう、ワクワク、ワクワク。
競技場は・・・縦横10メートル位の部屋だった。
室内には直径10センチの丸い棒が沢山、生えているように立ってる。
その先端は平らだけど、高さはまちまちね。
その一番奥の壁に、長さ2メートルの棒が数本、かけられている。
あれが長棒ね。
おじさんは先に室内に入り、奥に荷物を置くと、その中から2本を選び出し、
一本を室内に入りかけるダブルナイトに投げる。
あんなにマルタ(?)が建ってたら、私だったら長棒を投げられないわ。
丸太と丸太の間も適当で、こんな所で試合をするの?。
丸太が邪魔で、棒が使いにくいじゃない。
ダブルナイトも荷物を床に置き、教育武官の服装で棒を構える。
どーして私はトレーナーなのよっ。
いいわよ・・・いいわよっ!。
私が一人で観客と解説者をしたげるっ!。
おじさんは棒を背中に隠すと、床だけを歩きながらダブルナイトに接近する。
背中に棒を隠すのは、相手に間合いを狂わせ、必要以上に接近した時、長棒を
操り敵にダメージを与えるためね。
でも、ダブルナイトも同じ長さの棒を持ってるんだから、間合いの距離はわか
るじゃない。
それに、前に構えてる棒と、背中に構えてる棒のどちらが有利かしら。
なんてばかな・・・おじさんかしら。
互いの間合いに入り、2人の棒が同時に動く。
やはり、棒の一端を持ったダブルナイトの攻撃が速い。
おじさんはそれを後ろに下がる事で避け、ダブルナイトの攻撃のタイミングを
外し、自分のタイミングに合わせて前進、左手で下の方から突き上げてくる。
そうか、棒を背に隠したのは、左右どちらから攻撃するかをダブルナイトに見
せないためだったんだ。
でも、ダブルナイトだって負けてないわ。
それに合わせて、自分の長棒を振り降ろす。
ガキィッ、と音を立て、ダブルナイトのそれは丸太に阻まれ、おじさんの棒を
防げない。
危ないぃっ!。
ダブルナイトは失敗を活かし、長棒の障害となった丸太を突き放し、おじさん
を真似て後ろに下がり回避する。
そこへ、ダブルナイトの左足親指に向けて、今度はおじさんの棒がつき落とさ
れる。
ダブルナイトは長棒を支えにして体を浮かす。
その、体重を支える棒の接点はおじさんの棒で弾かれ、バランスを崩したダブ
ルナイトが前のめりに倒れる。
その背中をめがけ、おじさんの長棒が振り降ろされる。
バシッという音が響くけど、ダブルナイトは声をあげない。
でも、私が痛みを感じたような気がしたし、思わず目を閉じちゃった。
『ふん・・・多少は骨があるようだな?。』
おじさんは、ダブルナイトが立ち上がり、武器を拾って構えるまで、攻撃を控
えている。
意外と紳士なのかもしれない。
ダブルナイトの顔からは余裕と怒りの表情が消え、真剣な眼差しでおじさんを
見てる。
一流の武官は怒りに委せて戦ったりしないものだと、ダブルナイトが前に教え
てくれた。
油断すれば、実力の劣る相手にも負ける事がある。
怒りに委せた攻撃は、普段以上の力を発揮するが、雑になり、隙を突かれてし
まう。
ベストな方法は、冷静に、かつ自分の経験と勘を信じる事だとも言ってた。
おじさん、本気になったダブルナイトは強いからね!。
おじさんは気をよくしたのか、前と同じ構えでいる。
ダブルナイトは・・・棒の中央付近を、肩幅と同じくらいの間を空けて、両手
で持ってる。
あれじゃぁ守りには有利でも、攻撃には不利よ。
間合いだって、おじさんよりも狭いし、どーするのよ〜。
先に動いたのは、おじさんだった。
右上から振り降ろされる長棒は、ダブルナイトの右手を前にした長棒と丸太に
挟まれ、動きを止める。
ダブルナイトはそのまま、体を前に移動させながら、長棒を縦方向に、反時計
回りに回転させ、右腕の下の方からおじさんに突き出す。
『くっ。』
おじさんは小さく呻くと、武器から手を放して後ろに下がる。
その真後ろには丸太が2メートルも伸びてるのに、馬鹿ね〜。
でも、ダブルナイトにはラッキー!。
そのはずなのに、ぶつかる前に丸太を中心に回転し、更に奥へと逃げていく。
あのおじさん・・・人間じゃないわ。
きっと背中に、おっきな目玉が付いてるのよ。
おじさんは奥にセットされている長棒の一つを手にとると、ダブルナイトが投
げてくる長棒を右側へ弾き返し、丸太に足を架けながら2メートル位の高さまで
登ってく。
高い所と低い所では、どっちが有利かしら。
地上だったら、高い方が有利だし、馬上と地上では、馬上の方が有利だわ。(
馬自体も武器になるから当然よね。)
でも、こういった環境だったら・・・どうかしら。
丸太の上に立つ方は、自分の足でバランスをとる必要がある。
棒の届かない範囲を攻撃される事はないけど、棒を持つ腕は体の上の方にある
んだから・・・下方に対する間合いは狭くなる。
仮に、丸太の上に立つ方が、地上に立つ者より長い棒を持っていれば有利だけ
ど・・・同じ長さだったら不利じゃないかしら。
でも、地上にいる者にとって、上方の相手に攻撃するのは、同じ地上の相手を
攻撃するより難しいし、疲れるわ。
短期決戦ならダブルナイトの方が有利だと思うけど・・・長時間の試合なら、
おじさんの方が有利じゃないかしら。
そもそも、この勝負はいつ終わるの?。
他にルールはないの?。
ダブルナイトも、短期決戦で勝てないと思ったのかしら、おじさんと同様に丸
太を駆け上がる。
そして・・・少し低いくらいの位置から攻撃を仕掛ける。
ダブルナイトの長棒の持ち方は同じだけど、その分、おじさんの懐に飛び込ん
でカバーする。
おじさんは・・・あの構えが通用しないと見るや、ダブルナイトと同じ様な構
えをとってる。
ダブルナイトは勢いよく間合いを詰めると長棒を突き出す。
それを・・・さがって避けるおじさんに、棒の一端を握る形で伸ばしきり、腰
と肩に捻りを加える事で予想以上の距離を稼ぎ、その頬にかすり傷を与える。
おじさんの顔からも表情が消えた。
二人とも本気になってる。
『いくぞっ。』
おじさんはかけ声と共に長棒をダブルナイトに向かって高速で突きだす。
おじさんの長棒が何十本にも見える。
ダブルナイトも、負けじと攻撃を受け流すけど、経験で勝っていると思われる
おじさんの方が圧している。
そして・・・受けきれなくなったダブルナイトは、バランスを崩すと床に落下
する。
それを追うように、長棒を上段に構えたおじさんが飛び降りる。
あれじゃ、ダブルナイトが床にぶつかってから、おじさんの攻撃を転がるよう
に避けようとしても間に合わない。
乱立する丸太が邪魔してるし、おじさんの長棒が、半分振り降ろされている。
『危ないっ。』
私はおもわず大きな声で叫んだけど、その必要はなかった。
おじさんの攻撃は外れ、床にぶつかった長棒がバシッと音を立てていた。
ダブルナイトは自分の体が床に着くより速く、手にした長棒で床を蹴り、体を
後方へ飛ばし、丸太の一本に背中を打ちつけて止まる。
そして、地上に着地したおじさんの背後をとったダブルナイトは、最後の力を
振り絞って突き出す。
おじさんはそれを、体をクルリと回して左手で掴み、右手に持った自分の長棒
でダブルナイトのわき腹を斬るように叩く。
おにーちゃんは声を失って・・・気も失ってる。
『お・・・おにーちゃん!!。』
私は試合の事を忘れ、無防備になっているダブルナイトに駆け寄った。
よかった、まだ息してる。
そうよね、こんな事で死んだりしないよね。
セリルを一人残していかないよね。
『おにいちゃん・・か。わしの勘違いか?。致命傷は与えていないし、急所を
軽く突いただけだから、すぐに気がつくはずだ。どれ、休憩室か喫茶室にでも運
ぼう。』
おじさんはそれだけ言うと、ダブルナイトの体を軽々とかつぎ上げ、前に立っ
て歩きだした。
ま、待ってよ〜っ、置いてかないでよ!。
・・・喫茶室は満席で、私達は中に入れなかった・・・。
仕方がないので、ダブルナイトを通路の壁にもたれさせて、私もその隣に座り
込んだ。
何人かの客達が、私達に軽蔑と哀れみの眼差しを向けながら通り過ぎてく。
『う・・・うーん・・・。ん・・・何処だ、ここは?・・・。』
あっ、気がついたのね。
『シルバ・・・。』
今、ここには私達だけ。
念のために、ダブルナイトの耳元にささやく。
『ダブルナイト、わかる?、セリルよ!。』
おにーちゃんは私に気がつくと、弱々しく笑う。
『ここは天国か?・・・天使が見える。・・・それとも、小悪魔かな?。』
天使に決まってるじゃな〜い!。
『ふ、ふははははっ。』
『へ、へへっ、きゃはははは〜っ!。』
私達はおもいっきり笑いだした。
プールに向かうカップルが、私達を気味悪そうに見ながら通り過ぎる。
『可愛そうに・・・旅疲れかしら。』
『なんか、変なもんでも食ったんじゃないか?。』
でも、でも・・・おかしくって反論できない。
ただ単に笑ってるだけ。
そこに・・・あのおじさんが、飲物を3つ、お盆に乗せて近寄ってくる。
人のよさそうな顔をしちゃって・・・。左手でお盆を持ち、右手で私にカップ
の一つを差し伸べる。
私がそれを受け取ると、おじさんはダブルナイトにも同じようにカップを手渡
す。
最後のカップを右手にとり、お盆を通路の壁にたてかけ、ダブルナイトに謝罪
する。
『すまない!!。つい早とちりしましてな。これはお詫びと仲直りのしるしに
・・・。』
ダブルナイトは軽く首を横に振る。
『誤解される行動をとった私にも責任があります。それに、いい運動になりま
したよ。』
ふーん、そうなのかなぁ。
さっき、あんなにひどい目にあわされたのに・・・大人ってわかんない。
私にわかるのは、手にしたホット・イチゴ・ミルクティーの美味しさだけよ。
カップの蓋をとると、辺り一面に苺とミルクの香りが広がる。
ダブルナイトはなぜか不審そうな顔で私を見てる。
『カピラパ・ジュースは飲まないのか?。』
・・・だってー、あれって甘くないし、美味しくない。
まずいとは言わないけど、今飲んでるティーの方がうまい。
でもダブルナイトは、どう言えば納得するかしら。
『・・・飽きたの・・・。』
ダブルナイトは首をひねるような、うなずくようなそぶりを見せて、何も言わ
ない。
わかってくれたのね。
なのにおじさんのわからずや〜。
『シルバー君、いけないなぁ。例え妹でも、しつけは厳しくしないとな。』
何も知らないくせに、いばるな!!、といえないわね。
ここはやっぱり、礼儀正しいセリルちゃんを見せておかないと。
『ごめんなさい、お兄様。大好きなカピラパ・ジュースだけを飲み、偏食する
わけにもいきませんわよね。』
おじさんは頭をかき、言い過ぎたかな・・・と考えているようね。
『年をとると・・・といっても、まだ40代だが、つい愚痴や小言が多くなっ
てしまってね。』
わかる、わかるわ〜。
前に使ってた女中にも、そういうのがいたもの。
それはいいとして、どうしてこんな所に一人でいるのかしら。
『おじさんはここで、なにしてるの?。』
『おじさんはね・・・働くためにここにいるのさ。これでも昔は、銀河皇帝の
護衛をしていた事もあるし、シルバー君と同様に教育武官を務めていた事もある
。そういっても、銀河皇帝を直に拝見した事はないがね。銀河皇帝の護衛は・・
・同僚の中傷でクビになった。教育武官の仕事も何年もこなしたが、生真面目す
ぎると敬遠されましてね。で、今はここで、新たな仕事先を求め、体を鍛える意
味もあり、安い宿に宿泊しています。ここには多くの貴族や軍人が訪れますから
ね。』
大人って、大変なんだ。
ダブルナイトもそうなのかな?。
『ご家族は?。』
ダブルナイトは私と目が合うと、はっとして言葉を失った。
育ての両親を失った私を気遣ってくれたのね。
でも、大丈夫。我慢するし、思い出しても泣かないようにする!。
おじさんは、胸のポケットから一枚のコンパクトケースを取り出し、開く。
スイッチを入れ、いくつかの数字パネルに触れる。
そこから、ぽうっと光が広がり立体映像が現れる。
それは綺麗な女の人と、私よりは落ちるけど、可愛らしい5才の女の子が見え
る。
『5年前に事故で亡くなった妻と、今も入院している娘だ。その娘の治療費を
稼ぐためにも、収入の多い仕事をしなければならない。俺に残っている家族は・
・・一人娘だけさ。だから、俺は死ねないし、そんなにヤバイ仕事もできない。
娘の治療費は1年分を前払いしているし、焦ってはいない。』
おじさんのカップを握る手に力が入り、歪んでいくのがわかる。
『じゃぁ、まだ仕事が見つからないの?。』
おじさん、かわいそう。
『ここだけの話、さっき宇宙船の船長という男と契約してな、グレー・ガーデ
ィアンとして乗り込む事になった。契約は日給制の先払い。』
確か・・・グレー・ガーディアンという名称は、見た目はホワイト・ガーディ
アンと同じ人間だけど、その実力はブラック・ガーディアンと同じ事からきてる
と、ダブルナイトが言ってた。
『それはもしかして、アドリーム号のことですか?。』
おにーちゃんの質問に、おじさんが警戒しながら確認する。
『すると君達は、アドリーム号の乗客か?・・・。この宇宙ステーションには
常時約1千隻の船が入港している。1日に出入りする船は1万隻もあるというの
に・・・よりにもよって。グレー・ガーディアンはその正体が乗客に知られた時
、自動的に解雇される。参ったなぁ・・・今の話は、聞かなかった事にしてくれ
。』
う〜ん、どうしよっかなーっ。
船長のルールは守らなくっちゃ。
でも、ジュースをおごってもらったしぃ、船内でたかる・・・船内でご馳走に
なるかもしれないし、私って情にあついから、見なかった事にしよ。
でも・・・ダブルナイトは納得できないって顔してる。
私はおにーちゃんに耳打ちした。
『おじさんがかわいそうよ。ここは運を売っておきましょ。』
ダブルナイトも私に耳打ちし返す。
『それを言うなら、運ではなく、恩!。それに・・・。』
そこで、おじさんにも聞こえる声で話す。
『わかりました。協力しましょう。そかわり、我々にも協力して下さい。』
さっすが、おにーちゃん。
これで暗殺者と戦う仲間をふやそ〜っていうのね。
おじさんも、ホッとして笑顔で答える。
『かまいませんよ。その依頼については、別料金で対応しましょう。』
ま、負けたわ。私が負けたんじゃないからいいけど、おじさんもやるわねぇ。
結局、ダブルナイトはボロボロにされちゃって、プールに入れなかった。
宇宙ステーションには3時間だけ寄港して、次の星系に向けて出港した。
ダブルナイトと部屋に戻った私は、ほんの少し(2時間)ばかりだだをこねち
ゃった。(子供だから、許してね。)
で、落ちついた頃、ロッドさんがやってきた。
『シルバーさん、プールはどうでした?。ゆっくりくつろげましたか?。』
それって、私達に対する嫌み?。
でも、宇宙ステーションでの事は知らないはずだしぃ、大目にみてあげよう。
『プールの件は後回しにするとして、ブラック・ガーディアンの採用会場に出
席できなかったのはどうしてだ?。』
ダブルナイトはロッドさんに詰めより、問いただす。
ロッドさんはやっぱり、汗を拭き拭き説明する。
『あ、あのその・・・。わたくしも出席させてもらえなかったんですよ。船と
して雇うのだからということで、船長と副船長、機関長に医療長、サービス・カ
ウンタ支配人の5名で決定したようです。所詮、わたくし達は部外者という事で
すねぇ。』
話しを聞いてると、ロッドさんとダブルナイトは、船長に騙されたらしい。
船長の人当たりも悪いし、私達をなんだと思ってるのかしら。
『出席は出来ませんでしたが、タゥーロウさんが機関長から話しを聞いていま
した。そのタゥーロウさんから聞いたんですが・・・雇った5名の内、2名がグ
レー・ガーディアンだそうです。彼らの能力までは教えてもらえなかったようで
すが、前任者の5人以上の力があるようです。』
ひと呼吸おいて、ロッドさんの話は続く。
『それから・・・<母なる水中の星系>から乗船した客が265名います。こ
れから、一人一人を監視し、調査してみますよ。』
確か、暗殺者の増援は2〜3名と考えていたから、確率は100分の1から9
0分の1、かな。
生き残ってる暗殺者は4名。
その中の一人は来ないだろうっていってたから、実質は3人ね。
こっちは、おじさん(名前を聞いてなかったの)とロッドさんと、おにーちゃ
んだから・・・3対3で引き分けよ。
後でロッドさんにもおじさんのこと教えて・・・ご馳走が逃げてくからダメね
。
『他にわかった事はありませんか?。』
ダブルナイトの質問に、ロッドさんは記憶を辿るようにして答える。
『そうですねぇ・・・。情報局からですが、銀河系各地で暗殺者達の動きが激
しくなったようです。標的は・・・10才前後の女の子で、少女は一人も亡くな
っていませんが、その護衛者と暗殺者に多数の死者が出ています。わたくしは・
・・これらの事件と、あなた方の間に何か関係があるとにらんでいるのですが・
・・。』
ロッドさんって見かけによらずスルドイッ!!。
どうしよ、どーやってごまかすの、おにーちゃん?。
『心当たりはありませんねぇ。それを調査するのもあなたの仕事でしょう?。
理由がわかり次第、私達にも教えて下さい。そうすれば、私達で何か手をうてる
かもしれない。』
ロッドさんは残念そうに話しを続ける。
『・・・そうですか。他には・・・皆さんが気にしていた3人のメイドと、例
の催眠術をかけられたおばあさんですが、数時間前に<母なる水中の星系>で下
船しました。』
よかった、心配してたのよ・・・。
『船内で破損した部屋は、全て修理が終わり、正常に作動しています。それと
・・・わたくしの勘なのですが、船内での暗殺者の行動がスムーズに進んでいる
ことから推理すると、船内のスタッフの中に、協力者または暗殺者が紛れ込んで
いる可能性が大きい。そこで、スタッフを調べ直して見るつもりでいます。』
ロッドさんの話しは、まだ続くんだけど・・・暗殺者達の攻撃が、今まで以上
に激しくなるとは思っていなかった。
悲劇の始まりだとは思っても見なかった。
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