プリンセス救出陽動作戦



ダブルナイトの章


☆☆☆ 12.セリル ☆☆☆
ゴーレムの襲撃をかわしたロッドさんと私は、近くにあった喫茶室に飛び込む と、2杯の紅茶を飲んでいた。(ロッドさんも注文したけど、ダイエットだとか 言って私にくれたのよ。)
せーかくにいうと、ロッドさんが私を喫茶室に引きずり込んだんだけど、非常 時だから許してあげる。
ほんとは食堂で食事をしたいんだけど、あれを見た今、食欲は恒星に飛び込ん で燃え尽きてしまったわ。
それに、ダブルナイトのおにーちゃんと一緒でなきゃ食べたくない。
おにーちゃんは何処に行ったのかしら。
あの部屋から真っ先に逃げだしたのに、私達二人を先に行かせて・・・あの場 所に残って・・・。
私は身震いすると、ティーカップに残っている紅茶を飲み干し、ロッドさんに 聞いてみた。
『ダ・・・。』
ダブルナイトと言いかけて、私は慌てて口を押さえた。
私達の正体を明かすわけにはいかないわ。
なんとかごまかさないと。
そして、軽く咳払いをしてから続けた。
『シルバーはどうしたのかしら。』
ロッドは相変わらず右手のハンカチで汗を拭き、ニヤリと笑いながら答える。
『ダブルナイトさんの事でしょう?。』
えっ、どうしてそれを知ってるの?。
ロッドさんはやっぱり敵だったの?。
『ごっ、誤解しないで下さい。』
ロッドさんは両手を私の前に出すと、目を閉じたまま、腕と頭を横に振ってみ せる。
私の不安げな顔から、心を読んだのかしら。
『セリルさんが、シルバーさんの事をダブルナイトと呼んでましたよ。』
あら、そうだったかしら。
うーん、そう言われてみると、そうかもしれない。
『で、ダブルナイトさんの事ですが、部屋の方に戻られたのでは?。』
そっか、部屋か。
じゃあどうして、部屋に連れてってくれなかったの?。
それをロッドさんに問いただす。
『わたくしの計算によれば、あと2名の暗殺者が船内に潜んでいるはずです。 先程の部屋からわたくし達が逃げ出すとして、何処へ向かうでしょう。多分あな たか、わたくしの部屋でしょう。では彼らは、いったい何処で待ち伏せしようと するでしょう?。ふたてに分かれ、わたくしとセリルさんの部屋で待ち伏せする と考えるのが普通でしょう。』
つまり、敵の罠にはまるところだったのね。
前にロッドさんが言ってた通り、部屋の中は密室で、声が洩れないようになっ てるから・・・危ないのね。
『それに、わたくしはシルバーさんに疑われてますから、もし部屋で暗殺者が 待ち伏せしていたら・・・案内したと思われますよ。』
うーん、その通りね。私も、もしかしたらロッドさんが暗殺者の仲間かなーっ て・・・ぜんっぜん、思ってないに決まってるじゃない。
こうみえても、人を見る目だけはあるんだから。
ダブルナイトが善人だって信じてたし、ソウル・イーターが悪人だってのも判 ってたのよ。
ロッド、『ここには、わたくし達以外に4人の客もいますし、ウェイトレスも います。人目のあるここでは、暗殺者も襲ってはこないはずです。シルバーさん は、その髪飾りから発信されている電波で、セリルさんがここにいるのが判るは ずです。それまで、ここでゆっくり待ってましょう。』
ロッドさんて、やさしいんだ。
ほんのチョット、見直しちゃった。
でも・・・ただ待ってるのはつまんな〜いっ!。
何か、お話を聞きたいな。
『ロッドさん、あのね、あのね・・・。』と、空になったティーカップを振り あげながら質問した。
『エンジンが緊急停止するとどうなるの?。』
私の態度を誤解したウェイトレスが、ティーカップに紅茶を注ぎに来たわ。
くれる物は貰っとく。
心の中だけでお礼を言ってあげる。
だから、この分はタダにしてね。
『エンジンが止まると、亜空間航行ができなくなります。』
ロッドさんはそういいながら、ウェイトレスに代金とチップを渡す。
ウェイトレスが勝手に間違えたんだから払わなくてもいいのに。
『・・・宇宙空間には慣性の法則があります。』
それは、ダブルナイトから聞いて知ってるよ。
物体に力を加えると、別の力が加わるまで、その力を維持したまま運動を続け るんだよね。
だからエンジンが停止しても、宇宙船は速度を維持したままで移動するから問 題ないのよ。
『・・・つまり、エンジンが動いている事で、亜空間への転送装置が船を認識 する。そうしなければ、この宙域を通る全ての物質が亜空間に送られてしまう事 になる。』
えっ、話しを聞き逃しちゃった。
ロッドさんは、理解できたかなーと、いいたげに私の顔を見つめてる。
聞いてなかったと思われるのは嫌だし、理解できない子供だと思われるのも癪 だし、コクコクとうなずいてごまかす事にした。
『コクコク。』
『セリルさんは良い子ですね。では、次元についてのお話しをしてあげましょ う。』
ちぇっ、話しを聞き直すタイミングを失っちゃった。
でも、別の話しをしてくれるようだから許してあげる。
『この世界が何次元か、わかるかな。』
え〜、勉強なのぉ〜。3次元かなぁ。
『3次元・・・でも、時間もあるから、4次元かなぁ。』
私のあやふやな答かたに怒りもせずに説明してくれる。
『2次元の世界があるとして、そこにも時間の概念はあると思う。だから、時 間と次元は分けて考えるほうがいいよ。線の世界が1次元で、平面の世界が2次 元。3次元は空間の世界です。2次元世界でのワープというのは、平面の2点を くっつける事で、それは3次元の世界で実行できます。』
ロッドさんはハンカチをテーブルの上に置き、食後に使う、紙のナプキンを紙 テープ状に折り畳む。
その2カ所を指で押さえ、Ωの形を作ってみせる。
『・・・あるいは、3次元の世界で可能です。同様に、空間と空間をつなぐに は、4次元あるいはそれ以上の次元でないと不可能です。ある科学者によれば、 我々の生きている宇宙は10次元だとか16次元だとか言われていますが、・・ ・詳しい事は解ってはいません。解っているのは・・・人間は3次元的な生物で 、4以上の多次元を理解するのが困難だという事です。それでも、理論上では理 解できるかもしれないな。』
それって、どーいう事なのかしら。
『本来なら、我々には亜空間を理解できないし、利用もできない。なのになぜ 、亜空間航行できるのか。それには、大昔に栄えていた銀河文明が絡んでいる。 』
その事は学校で少しだけ学んだわ。
私達人類が銀河の覇者となる前に、2つの銀河系規模の文明があった。
その一つ、ワー・ドリーマーまたはワード・リーマーと私達が呼んでる種族は 、今から2億年前に銀河を支配しながら、1億年前に文明の大半を封印し、消滅 したわ。
滅亡したのか、銀河を捨てて出て行ったのか。
彼らは、伝説の中では竜類、トカゲ人間あるいは鱗足と呼ばれてる。
亜空間航行システムに必要な装置と施設は、宇宙考古学者の手で発見され、現 在も仕組みは不明で研究中。
更にびっくりするのは、このシステムを作ったのがトカゲ人間達でないことか な。
彼らは、既に存在していたそれを利用していただけだ、と先生が言ってた。
では誰が作ったのか?。
それは、5億年前から3億年前に栄えていたミドルリング文明といわれてるわ 。
トカゲ人間達が残した文献によれば、その主(ぬし)は翼を持った人の姿をし 、天使、翼人、翔猿の名称で呼ばれてる。
彼らもやっぱり、忽然と銀河から姿を消したと習ったわ。
『そう、君達貴族が習った通りだ。・・・そして人類は、竜類の残した情報を 基に亜空間航行を可能にした。それが、人類を銀河の覇者とした。それ故に、非 人類の妬みを買い、恨みを買う。・・・話しを変えよう。この世界に、純粋な2 次元のものがあるのを知ってるかな。』
私は首を横にブンブン振って合図した。
2次元は平面だから・・・厚さがないってことかしら。そんな物あるのかなぁ 。
『・・・答は影だ。影には厚さがないからね。2次元でも同じように考えると 、2次元での影は直線になる。直線にも厚さがないからね。そうすると、4次元 世界での影は3次元世界での立体だとわかる。言い替えると、3次元は4次元世 界の影なのさ。』
うーん、よく解らなーい。
『難し過ぎたみたいだね・・・。』
ロッドさんは、心配そうに私を見てる。
きっと、私の顔が不機嫌にみえるのね。
私は、何か言おうとして口を開いたとき、ダブルナイトが入ってきた。
そして、その瞬間に、私は何を言いかけたのかを忘れ、ダブルナイトに抱きつ いて泣き出してしまった。
『ひっく・・・こわかったのよ・・・ひっ、ひっく。』
自分でも何を言ってるのかわかんない。
とにかく恐くて、心配だったんだからぁ。

ダブルナイトが戻ってきてから・・・30分過ぎたかしら。
ティーカップに注がれてあった紅茶を飲み、落ちつきを取り戻した私は・・・ 無性に腹が減っちゃった。
『減った、減った〜っ。お腹が減って、死にそうなの〜。』
ダブルナイトは私のわがままに笑いながら答えてくれる。
『それは大変だ。お嬢様が飢える前に、食堂にまいりましょう。』
『まぁ嬉しい!!。それではエスコートをお願いしますわ。』
そう言いながら、私達は同時にロッドさんの出方を伺った。
一緒に食事をしたがらないロッドさんが、これからどうするのか知りたかった 。
『わたくしは・・・1時間ぐらい前に済ませてますので、お二人でどうぞ。そ の間、船内を散歩しながら調査をしておきますよ。そうそう、例の食堂に行かれ るなら、カピラパ・ジュースが美味しいですよ。』
そして、私達よりも先に喫茶室から出て行った。
『お嬢様・・・。』と、ダブルナイトが声をかける。
『はい。』と言いながら、私は優雅に立ち上がる。
やっぱり、私には生まれながらの気品が滲み出ているのね。
(たまたま、あのウェイトレスと視線が合ったけど、無視無視。私が、息せき きって入って来たのも、大声あげて泣いたのも、みーんな幻覚、幻聴なのよ。だ から、そんなに口をポーカンとあけて、呆れた顔をして、こっちを見ないでよ! 。)

私達のような貴族が使う食堂と、こことを比較すると、こっちの方がボロいわ 。
床に敷き詰められた赤い絨毯はシミだらけで、彫像や絵画もない。
食欲をそそる美しい音楽もないし、声でうるさいだけじゃない!。
それに、なによこれは・・・。
辺り一面はテーブルだらけで、料理は一品も出てない。
右側に厨房があって、長〜いテーブルで隔てられてる。
その向こうでは、コック達が客から白い紙切れを受け取り、料理を渡してる。
今まで利用してた食堂では料理取り放題だったけど、ここではそれがない代わ りに、暖かい料理が食べられる。
それに、おかわりすればいいのよ。
あぁっ、宇宙の果てまでラッキー!。
私は急いで中に入ると、料理を物色した。魚料理もいいし、肉料理もいい匂い 。
美味しそうだけど・・・あの部屋での出来事を考えると吐きそうになる。
やっぱり、野菜料理にしよっと。私は、料理の乗ったお盆に手を出しかけた。
『痛いっ。』
近くにいる人が、セリル(私)の手を、おもいっきり叩いた〜。
私は、ヒリヒリする手をナデナデしながら、その人を見上げた。
意地の悪そうなおばさんが、私を睨んでる。
負けるもんかっ。
私も睨み返し、顔をしかめて『ビィーッ。』としてみせた。
『んまぁ、なんて子なの。常識というものを知らないの?。保護者は誰?。ど んな教育を受けてきたの?。』
そんなの関係ないよ〜だ。
私がどれだけ素晴らしい教育を受けてきたか知らないくせに、そんなにジロジ ロ見ないでよ!。
『も、申し訳ありません。』と、ダブルナイトが割って入ってくる。
どうして謝るの?。
悪いのは、セリルの手を叩いたおばさんよ。
『どうして・・・』と反論する私の口を、ダブルナイトは塞ぎながら謝る。
あのおばさんは、今度はダブルナイトをジロジロと観察し、口を開く。
『・・・あなたね。するとこの子は、銀河貴族の娘だというの?。』
おばさんは、まだ私を睨んでる。
『どうりで行儀が悪い訳ね。あんたの田舎じゃぁお嬢様で通るかもしれないけ ど、ここじゃ同じ乗客なんだからね。ルールは守ってもらうわよ。それが出来な いのなら、ここから出てってもらうよ。』
な、なによ、偉っそうに。
私は今、銀河貴族の娘なのよ。
それになによ、なんでみんなで私を睨むの?。
『んだ、こごはオラだぢのメシ場だ。オメだぢのくる場所じゃね。』
おじさんの一人が、おばさんに同調した。
汚らしいおじさんと醜いおばさんは気が合うのね。
でも、セルリ負けないっ。
『ブ〜ス。』と5才にみえる子供が、私に向かって喋る。
なんて小汚くって憎らしいガキなの。
こんなに可愛くって愛らしい私に向かって・・・目が腐ってるんじゃないの。
こんな子供なんか大嫌い!!。
その点、私と目のあったおじいさんは、品のいい紳士的な服を着てるし、ゆっ くりと近づいてきて、私に微笑んでる。
『・・・順番を守れないお嬢ちゃんが悪い。』
そう、ビタッと決めつけなくてもいいじゃない。
よく見ると、なんてセンスの悪い服を着てるのかしら。
そうよ、きっとそうよ、年で頭がボケちゃってるのよ。
でも、何処を指さしてるのかしら。その方向には・・・料理がのったお盆の上 方、天井近くに電光掲示板があって、番号が表示されている。
『あの番号と同じ番号が表示された食券が、料理と交換できるんじゃ。』
えっとー、だからなんなの?。
特権階級の特権があるんだから。
逆らうんなら、銀河貴族権利院に訴えて・・・ダメだわ。
本物の貴族じゃないから、泣き寝入りするしかないのね。
だったら、口じゃ負けないわよ。
『モゴグワゲモググ、ブマフェンババグバ。』
ダメよ。
ダブルナイトが私の口をしっかりと押さえ、まともな言葉が喋れない。
そのままズルズルと食堂から引きずり出され、やっとダブルナイトの手から解 放された。
『な、なによっ、私に逆らう気?。私は・・・。』
『わかってないのは君のほうだっ。貴族が、貴族として行動できるのは、銀河 帝国の領土と貴族の領土だけだ。それ以外の未開地や無法地帯では、弱者にすぎ ない。この船内で一番偉いのは誰かな。それは、客の命を預かる船長だ。例えど んなに偉い貴族でも、船長の指示によって宇宙空間に放り出されても文句を言え ない。過去に、権力を利用して人を殺した貴族が、船長の命令で船外追放されて いる。』
前に、そんな話をお父様がしてくれた。
たしか、【宇宙船の中では、船長の権限は絶対で、下手に逆らうとひどい目に 会わされる。それがどんなに立派な貴族であってもだ。多少、羽目を外しても問 題ないが、場合によっては監禁される事も有り得る。】といってた。
【監禁は、まだましな方だ。客としての行動を大幅に越えた場合、最寄りの宇 宙ステーション等に強制的に降ろされる。これを船外退去と言うのだが、それ以 上に恐ろしいのは船外追放だ。時と場所を選ばずに船から追い出される。仮に宇 宙空間だとすると、身ぐるみをはがされて宇宙服を着せられ、僅かの食料と大気 を与えられたまま放り出される。死に逝く者に財産は不要だし、それは宇宙服の 代金として船長が回収する。そして死に逝く者は、餓死か窒息死の恐怖にさらさ れながら一生を終えるのだ。船長も、よほどの事がなければ実行しないが。】
そんな風に言ってた記憶があるわ。
『それじゃ、私が船外追放されるっていうの?。』
そんなの理不尽よっ。
『早とちりはいけないな。ここでは船長の言葉が法律だ。それを守れない奴は 、個人用の宇宙船を購入するか、宇宙に出て行かない事だ。』
ダブルナイトは一息つくと、私にゆっくりと説明してくれる。
『入り口の左側に3つの食券販売機がある。食事をしたい者は、そこに表示さ れているメニューと対応した食券を購入する。次に・・・。』
なになに、何があるの?。
ダブルナイトの指さす先には、さっきの電光掲示板がある。
『人類の標準文字で記された場所と数字の組み合わせで、いつ、どの場所の料 理を取ればいいかが判る。例えば、お嬢様が取ろうとした野菜料理の番号は58 0番になっている。で、”野菜料理の580番”の食券と料理が交換される。』
確かに、一人の男が立ち上がり、その場所で白い紙と料理を交換している。
それに・・・電光掲示板の数字の色と、食券の色が対応しているのが判る。
『わかったわ。』
私は不満だったけど、ダブルナイトの顔をたててあげる。
そんな事より、早く料理が食べたいのっ。
カピラパ・ジュースが飲みたいのっ。
なのになんで、背中を掴んで通路に引き戻すわけ〜。
『今、中に入るのは非常識だな。食堂の中の客達は、お嬢様に対してピリピリ している。そこへ入るのは、地面に落ちている爆弾を、金槌で殴るのに等しい。 』
だからなんなの?。
私だって空腹で、カリカリしてるんだから。
『私はお腹が減ってるの!。』
私の声に、ドアを通して食堂の客達がこっちを見てる。
だからなんなの?。
私には関係ないわ。
ダブルナイトはもう一度、ため息をついた。
『・・・言い直そう。この食堂の客達は、お嬢様の美貌に嫉妬しています。こ の様な所では、せっかくの食事も旨くないでしょう。ここは、一度引き上げて、 別の食堂で食事しましょう。』
『で、でも、私のカピラパ・ジュウ〜ス〜。』
食べたい、飲みたい。騒ぎた〜い。
『・・・ジュースは後で、シェフに作らせますから。』
ダブルナイトをこれ以上困らせるのも嫌だし、ここは私の心の広さを見せつけ るためにも、許してあげましょう。
それに、ダブルナイトが言うように、物事を理解できない客達と食事を共にす るのは、つまらないだけね。
『わかりました。では、別の食堂に参りましょう。』
そして私達は優雅に歩きだした。
はたからは紳士淑女に見えたかもしれないけど、私達のお腹はグーグー言って る。
・・・やっぱり、我慢して食堂で食べてた方が良かったのかも。
あれ、前から誰かが走ってくる。
あれは、さっきまで一緒だった、コペ・・・コペリィさんだ。
彼は私達に気づくと、息を切らして足元に座り込んだ。
『す、すみま・・・せん。た・・助けて・・・下さい。』
コペリィさんは、涙を流しながら嘆願する。
しかたないわね。助けてあげましょう。
そう考えてあげてるのに、なんでダブルナイトの方ばかり見るの?。
あ、わかった。
コペリィさんてホモなんでしょ。
だから、美しい私じゃなく、ダブルナイトを見るのね。
『シルバーさん、お願いします。皆さんにとっても、重要なお話しがあるんで す!。』
あのね、私は今、お腹が減りまくっているの。
これ以上ゴチャゴチャ言うなら、ダブルナイトから貰った秘密兵器をお見舞い するぞっ。
『わたし今、ものっ凄く、お腹が減ってるの。だからムゴブマ・・・。』
何でダブルナイトは私の口を塞ぎたがるの。
お嬢様に対して失礼だと思わないの。
『すまない。お嬢様の食事が済んでからにしてくれないか。そうだな・・・そ れまでの間は、ロッドさんに保護してもらうといい。』
食事を優先してくれるようだから、ダブルナイトを許してあげる。
でも、コペリィさんは動かない。
『ロッドさんの所に先に行って、事情を説明しました。帝国警察のロッドさん なら助けてくれると思って。そうしたら、セリルさんに関する事だからと・・・ こちらの食堂で食事しているはずだからと紹介されて。』
私に関する事?。
私の関心は、何でお腹を満たそうかという事よ。
なのに、ダブルナイトは私の口を塞いだままで考え事をしてる。
嫌よ!。
今はとにかく、食事が先なのっ。
『それでは、一緒に食堂に行くかい?。それとも何処かで待ち合わせをしよう か?。』
でも、コペリィさんは承知しない。
『僕は、あなた方を狙っている暗殺者を知ってしまったんです。もしかしたら 、僕も殺されるかもしれない。』
だからそんなにおびえてるのね。
ダブルナイトは、コペリィさんに続きを促す。
『あれは3日前の事です。暇だった僕は、図書館に本を借りに行ったんです。 そこには誰もいなくて・・・。』
そりゃそうよ。
読書で暇をつぶそうなんて考えるのは、一握りの学生や子供だけで、図書館は 開店休業状態よ。
『・・・で、ゆっくりと本を探していたんです。そしたら、タゥーロウさんと レモニアさんが入ってきたんです。二人とも、僕には気がつかずに、暗殺の相談 を始めたんです。それまで二人とは面識もなかったのですが、それ以降、彼らに 注意するようになりました。彼らの話しによれば、タゥーロウさんはヒドラ、レ モニアさんはマリオネットと呼ばれる暗殺者で、貴族の娘に化けたプリンセスを 誘拐し、殺害するんだと言ってました。』
えーっ、あの二人が暗殺者だったの?。
そう言われてみれば・・・なんか恐い顔してるし・・・私もそうかなって思っ てたんだけど、証拠もないのに人を疑うのは失礼よね。
コペリィさんの話を信じると、暗殺者達はダブルナイトの策略とも知らないで 、私を貴族の娘に化けたプリンセスだと思っているのね。
『・・・そして今日、あの救命艇の近くで二人を見かけたのです。こういうの は始めての経験で、つい好奇心から後をつけたんです。そうしたら、あの事件に 巻き込まれまして。それを船長や皆さんの前で言えるわけないですよね。言った ら、私達全員、皆殺しですよね。』
コペリィさんは、はたから見てて、可愛そうなくらいブルブルと震えてる。
そうか、だから”散歩してた”と嘘をついたんだ。
『だから、二人が船長と一緒に退出した時には、少しだけ安心しました。でも 、他にも暗殺者がいるかもしれないと考えると・・・恐くなりました。あそこで 襲われたら・・・。急いであそこから逃げ出し、部屋に戻りました。私をガード してくれた二人が何処へ消えたのかは知りません。それで、帝国警察のロッドさ んに助けを求めたのです。』
これで、暗殺者を誘い出して退治できるのね。
でも、お腹がすいたよー。
『わかった。では・・・第三上映室で、1時間後に再会しよう。』

一時間後、予定通りに食事を終えた私達は、近くの喫茶室で時間をつぶした後 、コペリィさんが待つ上映室に入って行った。
そこは3日間、未使用になってて、中は暗いままだった。
ダブルナイトが近くのパネルに触れると、薄明るい照明がつき、広い室内が見 渡せるようになった。
正面の奥には白いスクリーンが設置され、室内には7×3×15で、315の 席がある。
でも、コペリィさんの姿はない。
なんか、いやな予感がするわ。
『コペリィ、どこだ?。』
『・・・・・』
ダブルナイトの問いかけに答える声はなく、ドアだけが重苦しい音をたてて閉 じる。
『もしかして、罠かし・・・。』
私がつぶやき終わる前に、スクリーンが破られ、中からおっきな物が私達に向 かって投げ込まれた。
前から三列目の客席に倒れているそれは、ボロボロの服を着けた、人の形の・ ・・。
『コ、コペリィさん?。』
私は驚きながら、両手を口元にもっていきながら叫んだ。
『う・・・うぅっ・・・お、大男・・・。』
それだけ言うと、動かなくなった。
『・・・死んだの?。』
私は、彼の脈を計るダブルナイトに、こわごわと聞いてみた。
『大丈夫。気を失っただけのようだ。逃げるぞ。』
えーっ、コペリィさんをこのままにして逃げるの?。
コペリィさんが、殺されちゃう。
『うぅーん!!。』
私は急いでダブルナイトをどけると、コペリィさんの体をおもいっきり引っ張 った。
早く引きずり出してあげないと・・・。
『心配は不要だ。もし、奴らがコペリィを殺すつもりなら、既に死んでいるは ずだ。』
ダブルナイトは、破れたスクリーンに身構えたまま、私に説明を続ける。
『とにかく、ここは一度、退却するぞ。』
ダブルナイトは抵抗する私の腕を捕まえると、無理矢理ドアの所まで連れてい く。
でも、ドアが開かないの。
『くっ、閉じこめられた。』
彼は私を放すと、両手に力を込めてドアを引く。
でも、びくともしない。
えーと、私の記憶によると、確かここには6つの出口があるのよね。
ダブルナイトは後ろの4つのドアに次々と手をかけるが、一つも開かない。
あとは、前の両脇にあるドアだけど、開かない可能性が高いわね。
『ウッガーッ。』
焦る私達に向かって、スクリーンの裂け目から大声があがる。
きっと、ゴーレムだわ。
ど、どうしよう。
セリル・・・セリル、落ちついて考えるのよ!。
『向こうの右隅に隠れてろ。』
ダブルナイトはそういうけど、恐いのよ。
本当は彼の後ろに隠れたいんだけど、戦いの邪魔になるわよね。
とにかく急いでしゃがむと、這うようにして右隅に隠れる。
その私の目に、スクリーンを破きながら現れるゴーレムの姿が映る。
『っ!!。』
ゴーレムはコペリィさんを見つけると、スクリーンの中に投げ戻す。
それを見て、私は叫びそうになったけど、両手で口を塞ぎ、唾を飲み込む。
それは、ダブルナイトにも聞こえないくらい小さい音だったけど、私には雷鳴 と同じ位の音に聞こえたわ。
『現れたな、化け物め。』
ダブルナイトの、震えるような、それでいて自信に満ちたような声が聞こえる 。
そうよ、ダブルナイトだって恐いと思っていても、勇気を振り絞ってゴーレム の前に全身をさらしてるのよ。
私だって、ぱにっくに落ちるわけにいかない。
そして私はひらめいた。
ここにはもう一つ、出入口があるわ。
それは、ゴーレムが現れた場所にある。
そこは上映スタッフの仕事場で、スタッフ専用の出入り口があるはず。2つの 部屋はスクリーンで隔てられ、それが破られていなかった以上、ゴーレムはスタ ッフ用の出入口から入ったはず。
観客用のドアは閉じられていても、そこだけは開いているはず。
でも、そこから逃げ出すためには、行く手を阻むゴーレムを倒さなければなら ない。
倒せないから、逃げ出さなければならない。
あぁっ、堂々めぐりだわ。
私が一生懸命考えている間にも、戦闘は続いていた。
ゴーレムは上半身裸のままだけど、両手の拳にはナックルをはめてる。
ダブルナイトは・・・左手に光線銃を構え、右手には4本のナイフを持ってい る。
そして、銃を乱射しながら右手のナイフを投げる隙を狙ってる。
でも私にはそれが、無意味な事にしか見えなかった。
銃口からの光線は、ゴーレムの透明な腹巻きのせいで光に転換され、一切のダ メージを与えていない。
ゴーレムは嫌らしく笑うと、あの部屋でみせたスピードで、ダブルナイトに殴 りかかる。
危ないっ。
私は両手で顔を押さえたけど、ダブルナイトが吹き飛ばされる音はしなかった 。
そーっと目を開くと・・・ゴーレムの左目に彼のナイフが突き刺さっていた。
『ガーッ。』と、ゴーレムは痛みと怒りで我を忘れ、ナイフを抜いて床にたた きつける。
そうよ、いくら頑丈なゴーレムでも、目だけは鍛えられないわ。
『どうした、バケモノ。これならどうだ?。』
ダブルナイトは更に銃を乱射し、合間をぬって2本目のナイフが飛ぶ。
でも、それはゴーレムの右手で払いのけられる。
一度目の奇襲は成功したけど、2度目は失敗した。
もしかしたら、もう成功しないかもしれない。
それなのに、ダブルナイトはナイフを投げる。
3本目は左手で、4本目は右手で払いのけられる。
片目で距離感のないゴーレムは、なぜナイフの全てを払いのけられるのか?。
直線上を飛んでくるナイフは叩き落としやすかったのかしら。
彼の手に残ったのは、敵にダメージを与えられない、意味のない銃だけ。
なのにその瞬間、ダブルナイトは歓声をあげる。
『やった、勝ったぞ。』
え、なにが起きたの?。
なぜ勝ったの?。
ゴーレムの体全体が見えるように起きあがると・・・ゴーレムの濡れた右手が 紫色に腫れ上がり、苦しんでる。
判ったわ、銃は全て囮だったのよ。
ダブルナイトにとって、最初の3本のナイフも囮だったのね。
一本目はラッキーなだけで、4本目のナイフはガラス製、しかも中には、速効 性で皮膚から浸透する毒薬が仕込まれていたのね。
これで、ここから逃げ出せるかもしれない。
ゴーレムを倒せるかもしれない。
『グーギャーッ。』
恐ろしい事に、ゴーレムは自らの右手を引きちぎると、スクリーンを背にして 左側のドアに投げつけた。
腕の付け根から吹き出していた血は、ゴーレムの筋力によってすぐに止められ た。
これで、私達は助かるのね。
そう思って椅子に座り込んだ私の希望は、スクリーンの中から現れた第2の男 によって、大きくなった。
コペリィさん、無事だったのね。
『みんな動くな。よくもおれの作品を台無しにしてくれたな。』
な、何を言ってるのコペリィさん?。
『こうも早く、正体を明かす事になろうとはな。』
コペリィさんはそう叫ぶと、別の人影を引っ張り出し、右手の銃をそのこめか みにあてる。
『レモニアさん?。』
コペリィさんはなぜ、暗殺者のレモニアさんに銃を突きつけているの?。
『まだ理解していないようだな。俺様がヒドラだ。』
???!。
ヒドラは、年とった職人か何かじゃなかったの?。
『対外的には、俺は老人となっているが、それは俺が流したデマだ。その方が 、確実に仕事ができるからな。ここで、あんたを殺すつもりだったんだがなぁ。 』
コペリィ、いえ、ヒドラはダブルナイトをアゴで示しながらそう喋る。
『どうだ?、芝居が上手かったろう?。で、こういう事もあろうかと、俺の体 をここに投げ戻させた。ゴーレムから逃れ、ここから逃げ出そうとするのを防ぐ ためにな。が、まさかここまでやってくれるとはな。』
つまり、か弱い青年の役を演じていた訳ね。
『こんな事もあろうかと、こいつをさらっておいたのよ。君らが知っている人 間を、人質にしておいた方がいいからな。』
『・・・見殺しにしたら、どうする?。』
えっ、と私とヒドラは驚いた。
ダブルナイトがそんな事を言うなんて。
『その時は、我らの組織力をもって、君の悪名を銀河中に広めよう。その前に 。』
ヒドラは、ロープで自由を奪われたレモニアさんを左手で掴んだまま、右手の 光線銃をゴーレムに向ける。
ゴーレムは立っているだけの力もなく、ハァハァいいながらしゃがみ込んでる 。
『使い物にならない道具は、処分しよう。』
私は恐くなって、目を閉じる。
その私の耳には、2回の発射音だけが聞こえる。
え、2回?。どうして2回なの?。
ドサッ、ドサッと、倒れる音も2回した。
ま、まさかダブルナイトまで・・・。
『きゃあああぁーぁ。』と、レモニアさんの悲鳴。
おそるおそる目を開けると・・・ダブルナイトは立ち尽くしたままだ。よかっ た、ダブルナイトじゃなかったんだ。
それなら、誰なの?。
レモニアさんは床にくずおれてるし・・・。
ヒドラが頭から血を流し、仰向けに倒れて痙攣してる。
そしてゴーレムが、ダブルナイトのジャケット?に覆われて(実際には顔の部 分だけど)倒れている。
ジャケットは速いスピードで血を吸っていく。
辺りには赤やピンクのブニョブニョしたものが散らばって、気持ち悪い。
これは誰の仕事なの?。
不思議がる私の前に、スクリーンの影から役者が登場する。
相変わらず、右手のハンカチで汗を拭ってはいるけど、左手の銃が、彼の役割 を示していた。
『危ないところでしたね、シルバーさん?。』
それが、ロッドさんの言葉だった。
それが、気を失う前に聞いた言葉だった。
『・・・セリル、セリル!。』
どこか遠くで、私の名前を呼ぶ声がする。
男の声だから、お母様じゃない。
お父様なの?。
『・・・セリルさん?・・・。』
別の男の声だ。
3つの人影が、ボヤッと見える。
お願いだからそんなに揺らさないで!。
『気がついた様ね。』と、女の声もする。
徐々に目の焦点が合い、ダブルナイトの顔が私の目の前にあるのがわかった。
その後ろでは、青ざめた顔のレモニアさんを支えるロッドさんが見える。
ここは・・・どこかしら。部屋にしては長くて狭い、床の色・・・照明、ドア の横に張り出された上映室の看板・・・ここは、通路だ。
『ふぇ〜ん!。』
気持ち悪くて、怖くって、心細くって、泣いちゃった。
『もう大丈夫。しかしロッドさん、どうしてここに・・・。』
いぶかる私達の前で銃をしまうと、ロッドさんはレモニアさんを床に座らせ、 回りを見ながら説明してくれた。
『いえね、コペリィ君と出会った後で、急に不安になりまして・・・彼をつけ ていたんですよ。案の定、あなた方に助けを求めたあと、機関室の入り口に潜み 、隙を見てレモニアさんを誘拐したんですよ。そしてここに連れ込み、ロープで 動けなくして猿ぐつわをはめ、物陰に隠し、あなた方が来るのを、こいつと一緒 になって待っていたわけです。』
回りに異常がない事を確かめたロッドさんは、上映室そばのスタッフ・ルーム に入りながら説明してくれる。
私には中を覗く勇気はないけど、ダブルナイトの目は、ロッドさんの動きを追 っているように動く。
『・・・で、私一人では彼らを倒せそうになかったので、シルバーさんが現れ 、チャンスが訪れるのを待っていたんです。』
『しかし、殺してほしくはなかったな。もしかしたら、何か聞き出せたかもし れない。』
そーだ、そーだっ、ダブルナイトの言う通りよっ。
『ゴーレムは言葉を喋れないようだったし、ヒドラに至っては、そんなチャン スはなかったと思いますが。それに、捕まえられたとして、彼らが素直に白状す ると思われますか。ベテランの私にいわせて頂くなら、無理でしょうね。逆に隙 をつかれて殺されるか、逃げられるか、あるいは証拠を消すために自殺するか。 その結果、何も得る物はなかったでしょう。しかし・・・。』
ロッドさんは、一枚の紙切れを手にしながら戻ってきた。
『これはヒドラのポケットから見つけた物ですが・・・何かの手がかりは得ら れるかもしれない。』
ロッドは、それが証拠として通用するのを確認した後で、ダブルナイトに手渡 した。
『み、見せて見せて〜。私にも見せて〜!。』
私には野次馬根性はないわ。
ほら、一人の知恵より二人の知恵、二人の知恵より三人の知恵、っていうじゃ ない?。
ほんとーに、野次馬じゃないのよ、信じてね。
そこには、次のように書かれていたわ。

”<サニワイヲ星系> +2 救命艇 囮”

その意味が判るのは、かなり後になってからだったわ。
セリル、走ってドキドキして、叫んで気絶して、もうクタクタよ〜っ。

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