プリンセス救出陽動作戦
ダブルナイトの章
☆☆☆ 1.発見 ☆☆☆
帝国暦2500年3月25日102歳の誕生日を過ぎたわしの許に、行方不明のひ孫
が見つかったとの報告が届いた。
12年前、わしの孫家族が豪華宇宙客船で旅行中に消息を断った。
その後、数百名の乗員と客船の残骸が発見されたが、数名が現在も行方不明に
なっている。
残念なことに、孫夫妻は遺体で発見されたが、行方不明者の中に、当時1歳
だったひ孫が含まれている。
現在も事故原因と行方不明者の捜索を行っているが、宇宙で発生した事故では
時間パラドックスが発生する。
仮に、航行中の宇宙船が、亜光速で漂流したとしよう。
すると、宇宙船内の時間は宇宙空間の時間と比較して遅くなり、救出された時
には数百年が経過していた・・・なんてこともある。
これをウラシマ効果とも呼ぶが、そのための悲劇も起こる。
親よりも老けてしまった子供や、死亡扱いされた人間。
歳が離れてしまった恋人同士。
銀河中に指名手配された犯罪者が亜光速航行を利用して未来に逃げる事件も発
生し、時効は事件発生から数世紀の期間に変更された。
正確には犯人の体内時間が、事件発生から何年経過したかを元に期間を算出し
ている。
幸い、過去へのタイムトラベルが不可能なために大事には至っていないが・・
・。
今回、皇帝の孫にあたる娘が、事件発生から12年後のある日、帝国情報局局
員の手によって確認された。
その局員だけがここにいる。
そう、わし(銀河皇帝)は考えながら、辺りを見渡した。
ここは皇帝の私室であり、召使いには秘密保持のため席を外させている。
あれから外部に洩れることはないだろう。
『この事を知っているのは誰か。』
局員は少し間をおくと答えた。
『情報局局長と3副局長、発見者を含めた局員5名です。』
事がことだけに、情報局がうかつに動く訳にもいくまい。
『局長達の意見を聞きたい。』
『局長は、これを極秘事項扱いにするよう指示を出しました。ガラク副局長は
皇帝に内緒で情報局が解決すべきだと・・・。ザシル副局長は、情報局が動くべ
きではないと・・・。メリル副局長は無言でした。』
つまり、情報局の上層部でも意見がまとまらないくらいの問題という事か。
確かに、この事実が銀河中に知れ渡れば、犯罪が一気に増加するだろう。
王女の名前を使った詐欺事件に、王女に見える子供達の誘拐事件。
場合によっては・・・王位継承権の低い者が少女をターゲットにしての暗殺事
件。
しかし・・・ここにいる局員以外の4名にも情報を与えたのか?。
『局員達はどうした。』
局員は困った表情を一瞬浮かべた後で答えてくれた。
『局員4名が局長に呼び出され、皇帝に至急報告するように指示を受けました
。』
おかしい。情報局からは目の前にいる男しか来ていないではないか。
『来たのはおまえだけだが・・・他の3人はどうした?。』
『呼び出された4名は、私より早く陛下に報告したはずです。私が最初となる
と・・・4人は既に殺されていると思われます。私がプリンセスの発見者です。
私が、局長のみに直接報告し、その場で皇帝の元へ行くようにとの指示を受けま
した。また、情報局でのやり取りは、局長から画像通信により極秘に教えていた
だきました。』
この局員の言葉を信じれば、情報局の内部に、裏切り者がいることになる・
・・情報局に任せられないとすれば・・・あそこしかない。
わしは短めに刈り込んだ髭をさすりながら思いを巡らせると、この局員の命を
護るために、かくまうこととし、別室にさがらせた。
(考えすぎと思われるかもしれないが、彼の口から情報が漏れる事もありえる
な。)
その後で、私用のテレビ電話をかけた。
しばらく音楽が流れ、ショートカットの老婦人が画面に現れる。
(人類の宇宙旅行が実現してから人類の寿命は格段に伸び、老化の速度も遅く
なった。また、光速に近いものほど、時間の進み方が遅くなることが明らかにな
っている。見た目は60歳位の老婦人でも、わし同様に宇宙空間で生活している
ため、標準惑星時間では150年も生きていたことになる。)
彼女はわしに気づくと、20代の美女に負けないくらい魅力的に微笑みかけ
てくれた。
『救急運送会社にようこそ。』
そう、この電話番号は救急運送会社社長への直通番号であり、旧友への救援
信号でもある。
わしは老婦人に促され、ゆっくりと話し始めた。
『旧友としてお願いしたい。あなたの副業探偵達で、私のひ孫を保護し、連れ
て来て欲しい。』
彼女も事の重大さを悟ると、真顔になって答えてくれた。
『委せて。詳しい事を至急送ってちょうだい。もちろん、直通のファックスで
。』
それからしばらくして、全ての手をうち終わったわしは、手近かのソファに
腰を降ろすと、顔を両手にうずめて呟いた。
『・・・信頼できる優秀な部下が少なすぎる。かえって、民間会社の方が信用
できるとは皮肉だな。』
☆☆☆ 2.副業探偵出勤 ☆☆☆
旧友からの仕事を引き受けたわたしは、コンピュータ端末から幾つかのデータ
を入力し、出力された数枚のファイルを眺めていた。
そこには、この仕事に見合ったメンバーの情報が、顔写真のない状態で記入
されている。
これは副業探偵の身の安全と秘密を守るため、顔が外部に洩れるのを防ぐた
めで、探偵同士でも互いを知っているのは少数。
『この仕事には、プリンセスそっくりのオトリがいるわね・・・。』
わたしはその中の1枚を手に取ると、計画を練りながら読み上げた。
『コードネームは夜の騎士(ダブルナイト)。24才の男性で、本職は義賊。
暗黒星雲内の遺伝子研究所から巨大生物を盗みだした実績あり。あらゆる銃の使
い手で、超人の様な動体視力と反射神経をもつ彼なら、少女を盗み出すことも可
能だわ。同時に他のメンバーが活動すれば、必ず成功するわ。そのためには、偽
の情報をばらまくに限るわね。』
☆☆☆ 3.プリンセス暗殺計画 ☆☆☆
数日後、その偽の情報で、暗殺組織の一つが動きだした。
場所も不明な暗室に、深いフード付きのマントをまとった3つの影が集まって
いた。
その中の、リーダーと思われる影が、暗く太い声で他の影に問いかけた。
『この仕事は<貴候>様直属の10部隊にのみ与えられた物だ。目的は小娘の
命。ただ、オトリがかなり出ているようだ。我々は<魂の星系>、<恐れの惑星
>の小娘を狙う。その後、オトリと判り次第、他の小娘を狙う。エンジェル・ウ
イング、現状を報告せよ。』
エンジェルウイングと呼ばれた影は、リーダーに1歩近づくと、若い女性の
声で答えた。
『小娘の居場所はつかんであります。今日中にはソウル・イーターが現場に到
着し、明日のニュースには載るでしょう。念のためマリオネット、ゴーレム、ヒ
ドラの3人を周辺宙域に派遣してあります。それにしても・・・<恐れの惑星>
とは奇遇ね。その少女は恐れおののきながら魂を失う。』
その言葉を継ぐように、3つめの影が話し始めた。
『デスナイト様。・・・私の予知がうまく働きません。強敵が小娘の保護につ
いており、最初の襲撃が成功しない可能性があります。多分、他の部隊も苦戦し
ているでしょう。念のため、ソウル・イーターの服に通信機をセットしてありま
す。』
2人の報告を受けたデスナイトは、部下に掌を見せると不吉な笑いを漏らし
ながら退出した。
『ふふふ・・はははっ・・・ゴッド・アイの予知が効かない相手か・・・おも
しろいな。』
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