2011年10月12日(水)
選挙のための公約とマニフェスト

 太陽光パネルの公約を撤回 神奈川知事 「役割終えた」朝日新聞(14日)

 黒岩祐治・神奈川県知事は13日の記者会見で、目玉公約の「4年間で200万戸分の太陽光パネル設置」について「役割は終えた」と述べ、事実上、撤回した。就任から間もなく半年。達成への道筋を立てられないまま、公約そのものを修正する発言が続いている。

 黒岩知事は、200万戸分を「精査した数字ではない」と説明し、「圧倒的な数字を掲げるメッセージ性が大事。強烈な高い目標が(エネルギー)革命を動かす意味があった。その意味で使命を終えた」と述べた。

 黒岩知事は9月、エネルギー政策の中期計画「かながわスマートエネルギー構想」を発表。その中で「4年間で太陽光パネル約55万戸分」を目標として、公約を下方修正していた。黒岩知事はこの日、「構想にバージョンアップした。目標を下げたという気持ちは全くない」と強弁したが、「200万戸分」について、「できるだけ早く実現できるよう頑張る」と述べ、達成時期を明確にしなかった。

 また、10月に入って太陽光だけでなくすべての再生可能エネルギーを含めて「200万戸」と説明し始めた点について聞かれると、「分かりやすいシンボルとして太陽光発電としていた。皆さんに伝わっていなかったのなら、私の言い方がまずかった」と釈明した。

 太陽光発電の推進を掲げた黒岩知事の公約では、「夏までにパネルを5万〜15万戸分設置」が未達成に終わり、「タダでパネルをつけられる」も修正を余儀なくされている。

公約を巡る黒岩知事の発言の変遷

●4年間で200万戸という大きな目標に向かって全力投球していきたい(4月25日、就任会見)

●私が責任を持って、損はさせませんから早く(ソーラーパネルを)つけてくださいということを申し上げたい(5月17日、定例会見)

●たとえ無謀にみえる目標であったとしても私は目指します。高い峰を目指してこそ、時代は変わる。私はそう確信している(5月19日、県議会の所信表明)

●4年間で200万戸分は、急きょ立候補することになって1週間ちょっとでまとめた政策。精緻(せいち)な議論を積み重ねてやってきたというわけではない。あくまで民間人としての一つのアイデアにすぎなかった(7月15日、定例会見)

●メッセージ力を持つためには正確な言葉づかいよりも、わかりやすい言葉づかい。自己負担なしでつく。早くつけて、と言いたかったためにそういう言い方をしたが、厳密に違うと言われれば、訂正させていただきたい(9月28日、定例会見)

●シンプルなメッセージにするために太陽光発電200万戸分と言いましたが、太陽において風は生まれ、雨は降る。風力発電も水力発電も全部含めた意味で言っていた(10月7日、県議会予算委員会の答弁)


神奈川新聞 ・カナコロ


県議会第3回定例会は14日の本会議で、総額155億円の補正予算案や水源環境保全税を5年間延長する条例案など計26議案を可決・承認した。教育委員の具志堅幸司氏と公安委員の尾中洋子氏を再任する人事案にも同意した。

 討論で登壇した全員が、黒岩祐治知事の選挙公約と新エネルギー構想との整合性について言及。「新構想も手法や施策が具体案に至っていない」(民主・近藤大輔氏)、「実現には大きな財源が必要。誠実な説明を」(公明・渡辺均氏)などと指摘した。

 知事の発言自体をめぐっても「変更過程の一連の発言は県民理解を得られない」(自民・国松誠氏)、「『(公約は)役割を終えた。忘れてほしい』などの発言は政治不信を引き起こす」(みんな・斉藤尊巳氏)と批判が相次いだ。

 この問題で発言機会がなかった神奈川ネットの若林智子氏も「公約はスローガン的要素が強かった。政策推進のために県民に丁寧な説明を」と求めた。

 第3回定例会は今後、決算特別委員会の審議に入り、本会議は11月28日に再開する。

太陽光パネル普及拡大を目指すための数値目標について黒岩祐治知事は7日、「(電力不足を)突破するためのメッセージだった。忘れてほしい」などと述べ、「4年間で200万戸分設置」と掲げた選挙公約を事実上、撤回した。県議会予算委員会の質疑終了後、記者団の質問に答えた。

 知事は9月に「スマートエネルギー構想」を新たに提示した。その際に強調した「公約のバージョンアップ」との表現について、「バージョンアップしたら前の内容は残らない。自分のイメージではリセットだ」と説明。中長期的な新構想に置き換えた時点で、公約の数値目標を取り下げたとの認識を示した。

 また、就任直後の5月に招集した県議会で関連補正予算を成立させた実績などを例に挙げ、「(公約の)メッセージは役割を終えた」とも述べた。

 公約をこれまで撤回しなかったことについて知事は「自分の推進力が落ちることを恐れた」と説明。「みんなの気持ちが萎(な)えてしまう」として、この日も自らは「撤回」「後退」の表現は口にしなかった。

 これに先立つ予算委では「200万戸分」について問われ、「太陽があって風は生まれ、雨は降る。つまり風力発電も水力発電も含めた意味だった」と答弁。有権者が混乱したとの指摘には「誤解されたのは非常に残念」とした上で、「エネルギー革命は進んでおり、目標に向かって全速力で駆け抜けていく」と引き続き200万戸分を目指す考えを示していた。

 「スマートエネルギー構想」は、県内の消費電力に対する自然エネルギーなどの割合を2020年に20%以上の水準に高める目標を掲げている。当面の4年間で6%まで伸ばす方針だが、太陽光パネルに換算すると59万戸分にとどまることから、公約との兼ね合いが問題視されていた。




県が打ち出した「スマートエネルギー構想」で、2014年度に新たに55万戸分の太陽光発電を創出する目標の内訳が11日、判明した。一戸建て住宅(1戸当たり3・3キロワット)では28万戸分の設置を図る。同日の県議会常任委員会で、県が明らかにした。

 設置目標の内訳は、一戸建て住宅のほか、▽マンションなど集合住宅11万戸分▽工場や事業所12万戸分▽公共施設2万戸分▽メガソーラー1万戸分。現行の住宅向け県補助金(1件当たり上限5万2千円)を続けた場合は計140億円規模の支出が見込まれるが、制度継続は「買い取り価格や国補助金の動向などを踏まえ判断する」としている。

 県はこれらの数値目標について、資源エネルギー庁が今夏に示した太陽光発電に関する潜在力調査などを基に算出した。調査結果によると、神奈川全体では200万戸分(10年度末時点)が導入可能といい、県は黒岩祐治知事が掲げた選挙公約(4年間で200万戸分設置)とは「違う意味合いで目標達成に向けて努力する」との考えを示した。



黒岩知事が9月に提示した「スマートエネルギー構想」は、公約との兼ね合いで足踏み状態が続いていた。「4年間で太陽光パネル200万戸分」などの数値目標を事実上撤回したのは、新構想を「圧倒的なスピード感」で進めるためにはこの問題を早く幕引きする必要があったためだ。

 選挙中に広げた大風呂敷の実現可能性が乏しいことは、行政計画に載せる工程表を提示するよう県議会から迫られて顕在化。その後、知事は「他の再生可能エネルギーも含めた数字だった」など数合わせに苦しむことになった。最近は「正確さより分かりやすさをと考えた」と、落としどころを探るような発言も目立っていた。

 だが、ほぼ「オール与党」の議会でも批判含みの声が出るようになり、公約撤回は「最大の目玉」であるエネルギー政策を進めるためには避けて通れない状況に陥っていた。

 議会内には「実施計画に乗せていくための議論をしていきたい」(自民党)と、矛を収めようとする空気が支配的だ。新構想の目標も十分に厳しい数字であり、知事は公約問題について県民の理解を得る努力はもちろん、大胆かつ実効性のある戦略を練り上げる手腕が問われることになる。