天の岩戸とコクピット・ドア

 

 

 今朝の朝日新聞が異なことを書いている。イチローの国民栄誉賞について「彼が辞退した、と聞いてほっとした」「彼は日の丸を背負ってプレーしたわけではない。……あたかも日本代表であるかのように、私たちが勝手に拍手をしただけだ」

 そも朝日は国旗や国歌が嫌いではなかったのか。それが国旗を立てて仕事をしたのでなければ、賞賛に値いしないというのである。

 私に言わせれば、むしろ逆で、国家の後ろ盾や支援がないまま孤軍奮闘して、なおかつ優れた成績を残したとすれば、その方がよっぽど立派ではないのか。オリンピック選手の練習には、国の選手強化対策費やスポーツ団体の寄付が使われるようだが、それで手柄を立てれば栄誉賞は出すけれども、「日の丸を背負って」なければ出さぬとは、時代錯誤もはなはだしい。

 昨日も勲章の出し方が政治家や官僚に偏りすぎている。むしろ世間に余り知られずに努力してきた民間人にも出せるよう叙勲の基準を改めるべきだという答申が出たばかりではないか。朝日新聞はいよいよ、先日の「Show the flag」といったアメリカ政府の言い分にも似て、馬脚をあらわした感がある。

 馬脚とは前にも本頁に書いたように、この新聞社の昔からの戦争好き、扇動好きという本性である。おまけに記者自身の嫉妬深さも手伝って、他人(ひと)の賞賛にヤキモチを焼く女々しい男なのであろう。

 あるいは本当に女かもしれない。というのは無署名のコラムだから、記者の名前も性別も分からない。しかし自ら「天の声」と称するところを見ると、ひょっとしたら天照大神(あまてらすおおみかみ)かもしれない。あの神さまが天の岩戸に隠れたとき、天鈿女命(あめのうずめのみこと)は半裸で舞って集まった神々を笑わせ,それによって大神を誘い出した。誘い出されたのは天照大神の女のヤキモチのせいで、人間の嫉妬深さはここに淵源を発するという説もある。

 もっとも朝日新聞を、伊勢神宮の主神にたとえたのでは、神様の罰が当たる。謹んで取り消しておきます。その代わりコラムの名前を「癲声塵語」と変更するよう提案しておこう。

 朝日新聞社の暴虐非道ぶりは、稲垣武氏の一連の著作に詳しい。「悪魔祓いの戦後史――進歩的文化人の言論と責任」(文春文庫)に始まって、 「悪魔祓いのミレニアム――袋小路脱出へのメディアの役割」(文芸春秋)、「朝日新聞血風録」(文春文庫)、「新聞・テレビはどこまで病んでいるか――靖国、教科書、小泉改革、報道他」(小学館文庫)など、元朝日新聞記者という実体験にもとづいて書かれている。

 このうち「血風録」には朝日社内のすさまじい弾圧のもと、記事は書かせてもらえず、左遷はされるわで苦しんだもようが書いてあった。けれどもわが家では、この本もほかの本も押入れの本の山に埋もれて探すのも発掘するのもむずかしく、ここに引用することができない。

 ただ、一と月前に出たばかりの「どこまで病んでいるか」(2001年10月1日発行)だけは手もとにある。その中には朝日が「新しい歴史教科書をつくる会」を新聞紙面で攻撃しつづけた挙げ句、この教科書の市販本の広告掲載を拒否した話などが出てくる。上の稲垣武氏の著書が朝日の広告に出たか拒否されたか、あるいは書評欄で取り上げられたかどうかは知らない。

 本書では、稲垣氏も「癲声塵語」を取り上げている。1999年7月23日、全日空ハイジャック事件が起こり、機長が殺害された。あのとき副操縦士などがドアを破ってコクピットに入ったが、そんな無理をして時間をかけなくとも「ごく短時間でドアを開ける方法があった。かぎである。機長とは別に、客室側の乗務員は必ずこのドアのかぎを持っている。……なぜ、それが使われなかったのだろう」と、このコラムは書いた。

 この数行で、保安上の秘密情報が暴露されてしまったと稲垣氏はいう。「客室乗務員を脅せば操縦室に容易に侵入でき、飛行機を乗っ取れる」ことが明らかになり、「第2、第3の犯行を誘発しかねない」事態になった、と。

 9.11多発テロの犯人たちが、どういう方法でコクピットに入ったかは不明だが、朝日の新聞情報がイスラム過激派に伝わっていなかったとはいえない。とすれば、朝日はあのテロの片棒をかついだ疑いが濃厚である。

 その後9.11テロの結果、コクピット・ドアは防弾装備をして、かんぬきを掛け、何があっても開かないようにすることになった。空港の保安検査は如何に厳しくしても完璧ではないし、パイロットに銃を持たせても必ず犯人を倒せるとは限らない。あとはコクピットに立てこもり、操縦桿だけは何としてもハイジャック犯に渡さず、とにかく体当たりしたり墜落したりせずに、着陸だけはするというのである。

 これで鍵の存在などは問題ではなくなった。けれども、コクピットのドアを頑丈な天の岩戸のように作り替える改修費は、旅客機の数を考えても莫大な金額になるはず。そのための請求書は朝日新聞社に回すべきであろう。

(小言航兵衛、2001.10.30)

「航空の現代」表紙へ戻る